第十話

 吹雪が止んだ。闇の大地の声が止んだ。


 シュクラもサロも毛皮のコートを着て外に出る。サロは『真名の波動』を動物に次々唱える。するとどんどん獣が獣人となっていく。トナカイ、熊、犬……。


 こうして一気に小屋は大所帯となった。とりあえず三匹を魔族に変えた。


 「鹿魔族のギンです」


 意外にも屈強そうな鹿の魔人だ。


 「熊魔族のポポラです」


 熊の爪は人間の手になった代わりに屈強さは熊の時のままである。意外にも知性がありそうだ。


 「犬魔族のケンです」


 犬だから一見強そうに見えない。でも魔法や工芸などに素質がありそうだ。


 魔族となった者は知性も格段に向上する。そして自分に名を付けるところから新しい人生がスタートする。


 食料の事もあるので魔族を一気に増やすのは得策ではない。


 そこで少人数ながらも小屋を拠点に吹雪が止んだ時に先代の旧魔王城を復興していく。


 「本当に旧魔王城は『お屋敷』なんだね」


 サロは感動する。


 「ええ、それと城下町も再建しましょう」


 「先代の魔王の時は城下町には何があったの?」


 「鍛冶屋、薬屋、食品も売る雑貨屋、服屋ですね」


 「服屋もあったんだ」


 「服だけでなく防具まで売ってました」


 「へえ」


 「それと魔王軍の宿舎に訓練所も必要です」


 「先代の魔王は引きこもるのが目的じゃないの? 軍隊あったんだ」


 「さすがに最低限度の軍隊は持っていました。先代の時は町民が一定時間軍隊となって訓練しました」


 城下町に三軒復興させたらまた三匹を魔族にする。六軒以上となったら今度は宿舎を作った。こうして復興スピードは速くなっていった。直接城下町に発電所も上下水道もガス管も引いた。


 こうしてついにサロは元居た小屋から屋敷に移った。


「すげえ、これが屋敷!?」


 執務室は二階にあった。


 「ええ、そしてここがサロの執務室です」


 「殺風景だね」


 机と椅子が置かれているだけであった。


 「これからいろんなものが置かれますよ」


 謁見の間も見てみた。


 「これが謁見の間です。ここではさすがに『魔王様』と呼ばせていただきます」


 「副官の椅子もあるんだね」


 「ええ、ずっと立ってるのは疲れますので」


 食堂の部屋に行ってみた。へえ。謁見室の隣なのか。


 「謁見したお客様をもてなす場でもあるので謁見室の横になります」


(食堂のテーブルが長い)


 次に紹介されたのは大浴場。


 「デカイね」


 「はい、けっこうな所帯になってきたんで」


 「お風呂は時間制なんだね」


 「魔王様は一番風呂ですよ」


 その大浴場の隣にトイレがあった。


 「トイレも多く作ったな。しかも男女別だ」


 「はい、当然です。私もサロも男子トイレです」


 (やっぱシュクラって男なんだな。女にも見えなくないが)


 「洗濯機も共用かあ」


 「魔王だからと言ってここでは特別扱いは無かったんです」


 (へえ。そりゃいいや)


 二人は地下も見てみる。


 「ここが地下室です。ここで先代の魔王も魔法を教わりました」


 (本当だ。魔法陣が描かれてある!)


 「そして、ここが二代目魔王と私が人間を喰う時に使う部屋でもありました。ほかの者はこの扉を閉めることで見せません。万が一見られた場合はその者が魔族であろうと生贄になる義務が発生します。それだけ彼女にとって人の生贄を喰う姿は人に見せたくなった姿なのです。サロもそうしますか? 初代魔王の時はここは誰もが出入り自由でした」


 重い音が響く。部屋は漆黒に包まれた。溝もある。その溝に骨が散らばっていた。棚には髑髏しゃれこうべまで置かれていた。


 (人間を喰うのは嫌だ……)


 「髑髏しゃれこうべを使って魔術を増幅させることも出来ます」


 (そんな魔法使いたくないなあ)


 「ま、規則は何時でも作れます。それでは、次の部屋に行きましょう」


 再び重い音が響く。部屋に再び明かりが射した。次の部屋を見てみる。


 「この部屋は牢屋です。めったに使いたくありません」


 二人はいったん外に出た。


 「最後に墓地です。墓石もボロボロだったので共同墓地としてですが復活できました。寿命をまっとうした者はもちろんの事、ここで倒れた仲間のための施設がようやく作れました」


 シュクラは手を合わせる。


 「祈ります」


 サロも祈った。するとうっすらと夜が明けた。一瞬だけ光が支配する時間になったのだ。


 「……」


 「入口に行きましょう。最後にやらねばならなことがあります」


 入り口には自分の絵が描かれたものと「三代目魔王サロ」と「シュクラ」の文字が書かれていた石板があった。


「ここに定礎ていそを埋め込みます」


「定礎って何?」


「タイムカプセルみたいなものです。最悪文明が滅びても次代に記憶を伝えるためのものです」


 石板を入れ……入口に定礎と書かれたパネルを差し込む。旧魔王城は魔王城となった瞬間だ。すると再び世は闇が支配した。陽が昇ったのは一瞬である。まるで新しい魔王を祝福するかのようだ。


◇◆◇◆


 「元居た小屋は犬魔族のケンに管理をさせております」


 「モデルルームか。どうやって人間を引き込もう?」


 「う~ん、私もいい案が浮かばないですね。拉致するという案ならすぐ浮かびますがそれじゃすぐ『勇者』が生まれてしまいます。まともな人間を害しているので」


 さらっと拉致という言葉が出る辺りやっぱりシュクラも魔族である。


 「とりあえず、ここを復興させたら次は先代の魔王城を復興させませんか?」


 そうだ、先代の魔王城はこことは比べ物にならないほどの規模だ。


 「あくまで、ここは二代目魔王の隠れ家みたいなもんなので」


 そしてシュクラは石を見せた。


 「これが結界石です。ここに結界も作っておきましょう。万が一人間に入られたら困るので。結界くぐりの石も必要ですね。もちろんモデルルームには結界を作りませんよ」


 (そういうもんか)


 「そうそう、街の名前を決めてほしいのです」


 「前はなんて名乗ってたの?」


 「『サヤカ』です」


 「なんかやっぱ女の子だな」


 「そりゃそうですよ。先代の魔王の執務室は人形だらけでしたし」


 「へえ」


 「温室にはお花も育てていたんですよ」

 

 「へえ……」


 「温室なんてあったんだ。俺は要らないかな」


 「それはダメですよ。ここは冬が長いんです。野菜が不足します」


 「そっかー」


 「……」


 「う~ん」


 「『ヴォルド』だ」


 「どういう意味です?」


 「『迎え入れる』って意味」


 「ということはここに人間も?」


 「出来ればな」


 「『ヴォルドの町』になったことを知らしめましょう。さっそく町民を集めるのです」


 こうしてたった二〇名程度の魔族ではあるが魔族の町を再建することが出来た。


 食堂では町開きの祝いが行われた。


 しかしその後魔王となったサロには過酷な運命が次々待っていたのであった。


<第一章 終>

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