第33話 クズなりに闘う(2)
転移してすぐに、グールへと雷の魔術を放ってやった。
全く手応えがない。
ただ『バーン』という甲高い音が響いて砂埃が舞い上がった。
少し遅れてあたり一面が抉れるように土の焦げる匂いがした。
「――グアアアアア」
一瞬でグールは俺へと詰め寄り反撃をしてきた。
———全然、効果ないのかよ。
長くて鋭利な爪が俺の頬を掠れる。
くっそ、咄嗟に身を捩るようにして躱す《かわす》のが精一杯だ。
単調であるものの一撃一撃の繰り出される速さが尋常じゃない。
それにノノ先生の生前の意識が俺に転移する隙を与えないように攻撃をしているかのように思える。まるで俺の身体を今すぐにでも狩り取りたいと言った肉食獣のような獰猛な声をあげて襲い掛かる。
「『銀の弾丸よ、貫け』!」
僅かに銀を混ぜ込んだ掌ほどの土の塊を発生させ脳天へと魔術を打ち込む。
空中から一斉に無数の塊が、グールの脳天をぶち抜いた。
「グアアアアア」
悲鳴のような声を上げて身体がバタンと地面へと倒れた。
一瞬、身体がボロボロと崩れるように崩壊したかに見えた。
が、その瞬間再生した。
おいおい、以前のグール——ルインズとは比べ物にならないくらいに再生力が高すぎやしないか。
さすがにこれだけ攻撃しても動けるとなると、お手上げだ。
やっぱり、単に魔術式を壊しても意味がないのか。
吸血鬼の能力のせいか……すぐに魔術式が元に戻って発動しているように見える。
わからんが……頭の中に仕掛けられている魔術を壊すだけでは無駄なのか。
中途半端にノノ先生としての記憶が残っているのか?
いや関係ないのか。
脳天だけでなく、吸血鬼の弱点である心臓にあるコアを同時にぶち抜かないといけないのは確かだろう。
しかし……ああ、くっそ、そんなことを考えていてもちっともグールは待ってくれやしない。
「グアアアアアア」
グールが一瞬で俺の前へと跳躍してきた。
抉るような速さで爪が俺の脳天を狙う。
「——っと、危ない……」
あれ、僅かに雷撃の魔術が施されているのか。
そうか、ノノ先生の頃の意識が残っているのが問題なのかもしれない。
中途半端に魔術を行使できる状態なのだとしたら、魔術を封じるしかない。
しかし、ノノ先生が生前どのような魔術に長けていたのか判然としないとどう反撃するべきかわからん。
「『大地よ、凍えよ』!」
クロエの呪文が聞こえた瞬間——グールの足元が氷漬けになった。
「グアアアアアアア」
悲鳴のような声を上げながら足を動かそうとするが身動きが取れなくなった。
よし、この隙に心臓と脳内の魔術式を破壊する!
「『銀の弾丸よ、貫け』!」
「『銀色の氷よ、落ちよ』!」
俺の魔術とクロエの魔術が同時にグールの身体を貫いた。
「――アアアア」
グールの身体が散り散りに飛び散った。
ぐちゃぐちゃに腐った肉片が地面へと落ちた。
さすがにこれで終わったと思いたいが……身体が再生した。
……勘弁してくれ。
脳内と心臓の二か所のコアは確かに破壊したはずだ。
他に不自然な魔術の流れはない。
もしかして――
クロエの声が背中越しに聞こえた。
「コアを複製しているのかもしれません」
「くっそ、心当たりがないとどうしようもないぞ?」
「隠蔽の魔術です」
「隠蔽……魔術の流れそのものを隠すことなんてできるのか?」
「高位の魔術師であれば可能なはずです」
グールの敵意の矛先がクロエの元へと変わったようだ。
グールが一気に跳躍してクロエを襲う。
鋭利な爪がクロエの身体を切り裂くように動く。
「――⁉」
クロエはなんとかグールの速さについていけているようだがフォローしないとまずい。
——っち、やはりノノ先生の意識が僅かに残っているのか。
俺は隠蔽の魔術の見分け方など知らんぞ。
いや、心眼で発見できない魔術などあるものなのか。
どこだ。
どこかに不自然な魔術式がノノ先生——グールの身体に施されているはずだ。
心臓と脳以外にコアを隠すとしたらどこだ。
偽装しているんだよな……あれ、そうか。
魔術の流れが全くないところこそが最もおかしいんだ。
そうなると、両肩にコアを分散しているのか!
「クロエ!脳天と心臓を狙ってくれ!俺は両肩を狙う」
グールの鋭い爪がクロエを切り裂こうと素早く襲い続けている。
「信じますからね」とクロエは金色の髪をなびかせてちらっと俺を見た。
「ああ」と頷くとクロエは口もとに笑みを浮かべて言った。
「わかりました!」
「風よ、貫け!」
俺は風魔術でグールの視界を狙った。
グールはクロエに気を取られていたため顔を覆うように突風が吹き抜けて身体がよろけた。
「今だ!」
「『銀の弾丸よ、貫け』!」
「『銀色の氷よ、落ちよ』!」
魔術が真っ直ぐにグールを突き抜けた。
「グアアアアアアア」
悲鳴のような声が聞こえ、グールの身体は四方八方にどす黒い血のような液体とともに飛び散った。
そして、瞬く間に灰となった。
バラバラに散った灰は砂ぼこりと相まって夜更けの空に舞って消え始めた。
なんだか最後はあっけなかった。
それに結局、最後までノノ先生の目的が理解できなかった。
しかし、今は深く考えることはよそう。
「チューヤ様っ!」
背中越しにクロエの声が聞こえる。
俺は振り向いて駆け寄ってきたクロエを抱きしめた。
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