第三十九話 骸の悪魔
首都上空、無数に蠢き羽ばたく異形の機械群。
『司令室は伝達! 南東の方角から接近する敵影アリ。数多数! 百を下らない数です!』
『報告確認。迎撃を開始せよ。全火器の使用を許可する、一体たりとも首都へ近づけるな!』
『ラジャー!』
防衛網と司令室との通信を傍受しながら、まさにその現場となる戦場をハルカは〈カロン〉で疾走していた。
先行してくるWBを殴り飛ばしながら、動き続ける。敵群を指揮しているはずの個体を探していた。
「ホントにっ、もう! 敵が多すぎるっ。マナの流れが乱れてて感知が上手くいかないったら!」
『前に出すぎやって、ハルカはん。危なっかしいんやからほんまに!』
横合いから躍り出たマドカの〈クリスハスター〉が分身攻撃でWBを蹴散らす。その反対側へマナの砲撃を叩き込んで吹き飛ばす。
「こうやってれば指揮個体を見つけられるかと思ったけど効率悪そうね」
『脳筋すぎへん?? っ、言ってるうちに第二波が来たで!』
「む。今度は巨大なカニ……? まるで
土煙を上げながら迫る姿はまるで生ける重戦車の如く。生半可な攻撃では装甲を抜くのも難しいだろう。真正面からの戦いは不利。
「マドカ。アンタの分身って自分以外の無機物にも使えるのよね?」
『もちろんやで。どうしたらええ?』
「こうするのよ!」
〈カロン〉の掌を大地に叩きつけ、そこからマナを流し込む。照応するのは『土』の属性。急ごしらえではあるが岩くれの杭を大地から生えさせる。
「これをいっぱい分身させてちょうだい。化蟹の動きを止めてから一気に叩き潰すわ!」
『またぞろ面妖な術を。せやけど、任しとき!
マドカの術の効果で、岩杭がズラァっと横薙ぎに生え揃う。直進しかできない化蟹がそこに乗り上げ、後続を巻き込みながらその場で渋滞を起こす。
「“大地よ、その深き顎を開きなさい”!!」
再びマナの流れを操り、岩杭の下の地面を隆起させて大きな亀裂を作り出す。動けなくなった敵機が次々に飲み込まれて潰れ、爆発していく。上手くいったようだ。さあて、お次は―――。
『なんやこの反応……!』
「どうしたのよマドカって、きゃあ!?」
突如、視界を激しい閃光が襲う。なにが起きたかわからないが、敵の挙動が変わったのをマナの流れで悟る。それはまるで一か所に集中するかのような、巨大なうねり。
「なにをしようっての?」
『ハルカ! 聞こえているか!?』
「姉さん? 無事に戻れたようね。状況はどうなって―――」
『そんな事より今すぐそこを離れろ!!』
「え?」
カスミの警告も時すでに遅し。〈カロン〉が踏みしめていた大地が、次の瞬間にごっそり消滅した。
咄嗟のバーニアの全力噴射で宙へ逃げていなければ、奈良に飲み込まれていただろう。着陸すべき大地は見当たらない。マナが尽きない限りは飛び続けることもできるだろうけど燃費が悪すぎる。それに、問題はそれだけじゃなさそうだ。
『ザ―――。ハル、カ、はん。ザ、ザザ――――――』
マドカからの通信も途切れ途切れ。一帯をジャミングされているようだ。この突如現れた大穴と関係があると見るべきか。
「ひとまずマドカを探さないと」
[その必要はないぞ、龍の巫女]
耳障りな声が脳内に響く。
「チッ、もう追いついてくるとはね。これもアンタの仕業かしら、ローブ姿の怪人」
〈カロン〉のカメラの向こうに、この騒ぎの元凶である人影が映し出される。相変わらず素顔は見えないが、アタシには何故かアイツが笑っているように思えた。
[そうだ。これぞ、盟主より賜った
「はあ? この地割れがそうだっていうの? ただの天変地異ならアタシにだって起こせるわ。それが最強だってんなら、アンタの盟主サマとやらも大したことないわね」
[愚かだな巫女よ。“転生” して勘が衰えたようだ]
「なんですって……?」
今、転生と言ったか。アタシに前世があることを知っているとか、この怪人はいったい何処の何者なのだ。
「アンタ……。この世界の人間ってわけじゃないようね」
[今さら何を。既に見せただろう。我が召喚術を]
なるほど。召喚。それで合点がいった。
以前の『大百足』と今回の『海坊主』は、あちら側の世界―――、アタシの前世が生きていた平安の世から連れてきていたのか。大方、それらの
「まあ、いいわ。その最強の妖もさっさと打ち破って、アンタをとっ捕まえて全部終わらせる!」
[浅はかだな。
「……!」
アタシが、一度負けている? まさか、呼び出されたのは―――。
「だとしたら、アンタまさか……!?」
フラッシュバックする、かつての記憶。
[そのまさかだ。ここは遥か昔、大きな戦いの場だったらしい。さぞや巨大な怨念が溜まっていることだろうな]
気配を感じた。
眼下で大口を構える奈落。そのさらに奥。不気味に輝く赫光が二つ、こちらを見据えている。
そして。なにかの手がとてつもない速度で機体を掠めたのと、直感に従い回避行動を取ったのは、ほぼ同時だった。
[其に鳴り響くは破滅の軍靴、怨念の鐘音。
「コイツは……」
それは端的に表すと、大地に刻まれた亀裂すら凌ぐ超サイズの白骨の巨人だった。いやそう錯覚するフォルムをしているが、素材は漂白されて色を失った無数の機械の残骸と、それらを繋ぐドス黒い瘴気の塊。
頭部だけでなく、両肩と胴にも髑髏型の装甲が顎を広げているのが異様さを際立たせている。
「悪趣味じゃない…………!」
[さあ。最終局面だ。此度も、壊してでも救うつもりかな? 全てを失って滅ぶがいい、龍の巫女よ!]
世界どころか天すら割るのではと思うほどの咆哮を轟かせて、顕現した骸の悪魔が歩みを進め始めた。
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