第三十四話 チームの是非
『さあ、さあ! ここで潰して差し上げますわよ、ハルカ=アベノ。そして大人しくその機体を差し出して頂きますわ!』
「言ってくれるじゃない」
高らかに宣戦布告をかましてきたマリアンヌは、自身と取り巻きと今戦っている〈リュストゥング〉を合わせて計四機のチームらしい。
彼女らの機体も〈リュストゥング〉をベースにしているらしいが、どうもマリアンヌの機体は各部のパーツが別物に置き換えられているように見える。その証拠に彼女の機体内には蓄積されている膨大なマナが感じ取れる。
「もしかしてその機体、マナタンクを装備しているの?」
『あらあ? なぜその事を知っているのか、なんて野暮なことは言いませんけれど…。それがわかっているのなら、諦めてくださらない? 機体の性能差は歴然ですわ』
「やってみないとわからないでしょ」
『愚かですわねえ。ではお望み通り、無様なる敗北をプレゼントして差し上げますわよッ!』
マリアンヌの〈リュストゥング〉が素早く動き、取り巻きの機体が一糸乱れぬ連携でそれに続く。
「シャル、マドカ! 迎え撃つわよ!」
『『了解!』』
まずは手前の一機が両手にのバズーカ砲を構えたのが見えると同時に、その間合いへ【
『そこぉ!』
シャルの〈ヨロイ〉がアサルトライフルで狙うが、さすがに
すかさず〈カロン〉の頭部から【
「さっさと終わらせてやるわ!」
『なるほど。将を狙うのは定石ですわね。ただし―――』
「!?」
突然、マリアンヌの機体が両膝をグッと下に沈み込ませた。
なにをする気か知らないがその前に倒そうと、構わず〈カロン〉の右拳を突き出す。しかし、手応えはない。どころか振り抜いた右腕がピクリとも可動しない。まるでなにかに絡めとられているかのようだ。いや実際、これは不可視の拘束か。
「なによ、これ…!」
『バァァッド、ですわよハルカ=アベノさん。愚直な突進などなんの意味もありませんわ!!』
「かはっ………」
身動きが取れないところに、マリアンヌの〈リュストゥング〉が機体の全長以上に巨大なスレッジハンマーを叩き込んでくる。腕を固定されたまま凶悪な衝撃にコクピットを揺さぶられる。
込み上げる吐き気を堪えて操縦桿を握り直す。まずはこの拘束をどうにかしなければ。
『ハルカ〜! 今助けるから〜!』
『金持ち女の相手はあたしらだよぉ!』
『どいて、よっ』
救援に動くシャルの〈ヨロイ〉だが、最初に襲ってきた〈リュストゥング〉に阻まれる。あちらの機体は射撃特化型だ。相性は決して悪くないはず。しかしパイロットの腕の差は如何ともし難いか。
『よそ見とは余裕ですわ、ね!』
「ぐっ……!」
続けざまに振るわれるスレッジハンマーを、重ね合わせた【
「腕の一本を犠牲にするか…。いや、修理に時間が取られるわね。なら」
『その盾、堅すぎですのよ! けれど、これでぶっつぶれてくださいな!』
〈リュストゥング〉が振りかぶったスレッジハンマーの頭部からロケットノズルが展開し、唸りを上げ始める。ジェット噴射に後押しされた強力なスタンプが繰り出された。
これを待っていた。
「応報せよ。【
“反射” の概念を付与された【
衝突、爆発。
スレッジハンマーの巨大な鎚頭がそれ自体の衝撃でもって内側から弾け、〈リュストゥング〉が大きくのけ反った。
その隙に "爆発" の概念を付与した【翼鱗】を放って右腕の拘束を無理やり壊しつつ、シャルとマドカの援護をすべく数基を向かわせる。そこにタイミングを合わせた二人の攻撃で、相手側は完全に浮き足だった。今畳み掛けるが吉。そう思ったが。
『だから、それがバァッドだと言うのですわ! 独りよがりの戦い方では!』
「なっ」
気づいた時にはマリアンヌの〈リュストゥング〉が〈カロン〉の胸元に肉薄していた。ノックバックで距離が開いていたはずの彼女の機体が、あり得ないほどの加速で襲ってきたかと思えば、その拳に装着されたパンチグローブのような武装で殴りつけられた。
どうにか左腕で防いだものの反撃には繋がらない。連続で拳が飛んでくるのを掌底で弾き、あるいは装甲で防ぐ。〈カロン〉の防御力すら貫通してくるとてつもなく重い打撃。先ほどからコクピット内にアラートが鳴り響いている。
「どんな威力しているのよ……!」
考えられるのは自己強化のような術やシステムを使っている可能性だろうか。なんにしても厄介極まりない。
『ほらほらほらぁ! どうしたのかしら、その程度ですの!?』
「好き放題してくるじゃない…、だったら見せてあげるわよ本気ってやつを!!」
絶え間ない打撃を捌きながら、〈カロン〉の両腕に備わるギア型駆動炉にマナを注ぎ込んで、全力で回転させる。流れるマナが蒼い炎となって迸り、腕に、五指にその力を満たしていく。
「
『派手ですわね。けれど、所詮こけおどしですわ!!』
そう油断してくれるのならありがたい。だが、この一撃はあらゆるマナの流れを吸収・破壊する必殺技。
ゆえに。
「ぶっ飛びなさい、“
マリアンヌの打撃に合わせる形で繰り出したこちらの正拳突きは、蒼の熱波で以て〈リュストゥング〉の腕部をひしゃげさせながら、彼女の機体を大きく吹き飛ばした。
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