第三十三話 急襲

 山間部を入ってからもいくつかのチームに襲われたアタシたちだったが、所詮即席のチーム相手なら、多少なりとも修羅場を潜ってきたこちらが負ける道理もなかった。予想より良いペースで進み、道中の整備ドックで一休みすることにした。


「それにしても、ホントに暑いわね最近」

「仕方ないよ~。もう夏だしね~」

WDウェポンドールの中にクーラーを付けて欲しいとこやんなあ」


 なんて言いつつ、今アタシたちは山の中を流れる小川のほとりで休んでいた。水辺の涼しさが熱くなった体には心地いい。整備ドックで各々の機体の補修・補給を行っている最中だが、アタシのマナセンサーで警戒はばっちりだ。


「そういえば、さっきの会長はんの定期放送やけど。もう参加者の半分くらいが脱落したらしいで」

「そんなに過酷な道のりでもないのに。ということは、よっぽど戦いが激化しているのかしら」

「ランキングのことを思えば当然やろなあ。チーム同士で戦闘するだけお得なわけやし」


 それはもちろんわかる話なのだが、だとしてもみんな焦りすぎじゃないだろうか。トータルの道のりを考えるとゴールしているチームはほぼいないはず。ということは、よほど暴れているチームがあるということになる。


「まったく、いつの世も戦闘狂みたいなのがいて困るわね」

「どういう意味~?」

「なんでもないわ、シャル。もう少ししたら出発しましょう。」


 座っていた河原から腰を上げて機体の方に戻ろうとしたその時。


「! 【障壁プロテクション】、急急如律令クイックスタート!」


 センサーに反応を感じて周囲に素早くマナのバリアを張る。


 直後、何発ものミサイルが河原に降り注いだ。幸いバリアのおかげでアタシたちにダメージはなかったが、視界全てを覆い隠すほどの爆炎が地面を揺らす。


 パイロット本人を狙うとは味な真似をしてくれるじゃない。一体どこのチームかしら。


『きゃははは! さっすがこの程度は防ぐじゃんね、特待生!!』


 爆炎が立ち込める中、木々をなぎ倒しながら、けたたましい笑い声のおまけつきで深緑色のWDウェポンドールが一機飛び出してきた。


 両肩両脚に大型のウェポンボックスを装備している全体的に角ばったフォルム、広い視野角を確保できるキャノピー型頭部メインカメラ、そして悪路用のホバー付き脚部。〈ヨロイ〉とは違う設計思想による機体で、製造には外国系企業が関わっていると授業で習ったのを思い出した。機体名称は確か…。


「オードワレ社製WD〈リュストゥング〉……っ」


 シャルが珍しく苦々しい声を絞り出した。


 そうだ、そんな名前の機体だった。オードワレ社製ということは、つまりあのお嬢様のチームメイトということか。奇襲を仕掛けてくるとは軍事系企業の人間らしい冷徹さだと素直に感心してしまった。


「機体に乗っていないところを狙うだなんて随分と卑怯な戦術じゃない。アンタのボスの指図かしら」

『卑怯で結構じゃん。勝つことこそサイコーにキモチいいんだから』

「なんちゅう言いぐさや。性根が腐っとるで!」

「まあ、いいじゃない。ボコボコにされても文句言わないでよね」

『そんなザマでなにイキってるのよ。悪いけどお嬢のためにここで死んどけし!』


〈リュストゥング〉が両肩から六連装のミサイルランチャーを展開し、躊躇なくミサイルを発射してくる。だが、その程度〈カロン〉に乗っていなくとも対処できる。


「【式神奏円トランスサークル衝撃ソニック】、急急如律令クイックスタート!」


 左指を素早く打ち鳴らすこと六度。きっちりミサイルと同じ回数発生した音の波を “増幅” してマナの衝撃波として叩き込んで、飛び散る破片をこちらへ降り注ぎすらさせずに、迫る全部のミサイルを中空で撃墜してみせた。


「それで終わりかしら?」

『は、はあ!? こんなの牽制に決まってるじゃん! あったまきた、次こそぶっつぶすんだから!』


 わかりやすく頭が悪そうで助かる。今ので時間は稼げた。


『随分好き勝手してくれるやんか!』

『っ…!? い、いつの間に!』


 マドカの〈クリスハスター〉が横合いから乱入してくる。今の一瞬で、マドカとシャルは一足先に整備ドックへ向かい、自分たちの機体を起動させていたのだ。


『大丈夫だった、ハルカ~!?』

「おかげで無事よ、シャル!」

『今のうちにハルカも〈カロン〉に乗って~』

「ええ、そうさせてもらうわ。―――【招来サモン】、急急如律令クイックスタートッ!!」


 予め定めていた座標からマナの流れを引くことで、簡易的に空間を入れ替えることで物質の転送を実行する。詳しい理屈を省けば要するに、〈カロン〉をこの場に召喚したというわけだ。


 轟音を鳴り響かせて出現した黒鋼の機体にそのまま乗り込む。


『どうなってんのよソレ』

「この程度で驚かないでよ。さあ、覚悟はできているのかしら?」

『ちっ、そんな手品で惑わそうたって!』


 両腕に突撃槍ランスを構えて攻撃してくる〈リュストゥング〉。〈カロン〉の全身にマナを行き渡らせて、万全のスピードで逆にそこへ飛び込む。


『ウソでしょぉ!?』

「ふっ!!」


 互いの速度を合わせることで抵抗なく槍の穂先を手で掴む、そのまま方向だけを変えて〈リュストゥング〉を後ろへ思い切り投げ飛ばあう。重々しい音を立てて鋼の機体が河原を転がった。


 すかさず起き上がる前に接近してその脇腹に掌底を叩き込もうとする。だが、強烈な殺気が飛んできたことで中断、急ターンして回避行動を取る。【翼鱗フェザースケイル】を射出して防御に回すのと高速で弾丸が飛来するのはほぼ同時だった。


 衝突音とともに【翼鱗フェザースケイル】が押し飛ばされる。


「狙撃!?」

『やりますわね。では、ここからは圧殺蹂躙のお時間ですわよ!』

「マリアンヌ……」


 振り返った先、山の峰向こうから、高飛車な宣戦布告とともに何機ものWDウェポンドールが姿を現した。

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