第三十二話 暴君対最強
例えるならショベルカーのアームのように、太く鋭い五指を備えている〈オウノカサネ〉の両腕が振り抜かれ、その五指から繰り出された強烈な叩き攻撃が大地を揺るがした。
直撃した地面に大きなクレーターが穿たれるあたり、なかなかの威力だ。
「威力だけは、ね!」
『その余裕、すぐに打ち崩してくれる!』
『ハルカはんだけを追い回しててもあかんで』
『むっ』
割って入るように飛び込んできたマドカの〈クリスハスター〉が、鞭のようにしなる双剣による途切れることのない連続攻撃を放つ。幻影の術で分裂した刃が複雑な軌道を描いてゴウの機体を打ち据えていく。
だがさすがに、堅牢そうな〈オウノカサネ〉の装甲には傷すらついた様子はない。逆にその防御力でもって、刃を受け止めて間合いを離さないことで〈クリスハスター〉の機動力を奪っていた。
『一度代わるよ〜!』
『任せたで!』
攻めあぐねたマドカと交代して、シャルが〈ヨロイ〉の両手に盾を構えて突撃する。不意打ち気味のタックルに、ゴウも対応が遅れたのか直撃を受けて機体が揺れる。
たたらを踏んだところに追撃するように、シャルの〈ヨロイ〉が、脇に抱えていたバズーカを撃つ。近距離で炸裂した弾頭が火球へと転じ、爆煙が〈オウノカサネ〉を包み込んだ。
『この程度の攻撃でどうするつもりだ?』
『硬いわね〜』
バズーカの直撃を受けたくせに、〈オウノカサネ〉の翠色の装甲は多少煤けたものの健在だった。一切怯むことなく前に出ると、両腕の大型クローをガバァッと広げ、その五指に橙色のマナ光を宿らせ始めた。
あれはマズイ。
「シャル、練習の成果を見せる時よ!」
『了解〜!』
『有象無象が何をしようと無駄だと知れ。“
大きく広げられた五指に収束したマナが激しく振動し、大気を削り始める。これがゴウのWD戦における必殺技か。以前決闘した時に見せた技の応用だろう。
並の機体なら触れられただけで装甲が砕け、崩壊するだろうことは明らか。そんな必殺の一撃が繰り出された。
だが。
『な、に……?』
『効かないわよ~!』
〈オウノカサネ〉が繰り出した必壊の掌は、金属がこすれ合う甲高い摩擦音を鳴り響かせながら、シャルの〈ヨロイ〉が構えた盾と拮抗していた。盾の表面が削り取られているわけではない。ゴウの操る橙色のマナを、炎のように揺らめく赤いマナの燐光が完璧に抑え込んでいるのだ。
『俺の “破壊” を受け止めた、だと…!?』
「驚いた? それがシャルの実力よ。彼女のマナは何度破壊されようと、即時に勢いを取り戻し “回復” する。そしてアンタの “破壊” にそれを貫通するだけのパワーはないわ!」
ゴウの力が触れる万象を崩壊させるようなものではないことはすでに知っている。だから、シャルの持つ能力で充分封殺できるというわけだ。もちろん完璧じゃない。弱点は―――。
『なら、そのこざかしい盾以外から打ち崩してくれる!!』
「ま、そうなるわよね。マドカ、次はアンタの見せ場よ」
シャルがマナを介して概念を付与する術を行使できるのは、まだ盾のみ。機体そのものを狙われたらひとたまりもない。こちらも手を変えよう。
『マドカちゃん~お願い~』
『ようやった、今度はウチに任せえ!
攻撃を跳ねのけて後退したシャルと再度入れ替わって、マドカも得意技の分身を披露する。輪郭を二機分に増やした〈クリスハスター〉が果敢に飛び込み、双刃の槍で〈オウノカサネ〉を打ち据える。先ほどまでとは違って、純粋に増えた手数がゴウを追い詰めていく。
『妙な技を…!』
『妙なんはお互い様やろ。さっさと道を開けてもらうで!』
『あまり俺を舐めるなッ』
『な、なんや!?』
突然〈オウノカサネ〉がその両腕を激しく地面に叩きつけた。〈クリスハスター〉が、足場に波及した “破壊” の波によって刹那の間バランスを崩す。その隙に〈オウノカサネ〉がその姿を変貌させていく。
重機のような両腕が真ん中のパーティングラインで分割し、肩の側部パーツに接続されることで計四本の腕が独立して可動し、それらの拳全てに “破壊” の光が宿る。さらに頭部のツノパーツがスライドして、バイザーアイが見えるようになる。本気モードというわけか。
『“
『がっ……』
『マドカ!』
間断なく繰り出された拳のラッシュで幻影の上から〈クリスハスター〉を殴り飛ばし、〈オウノカサネ〉が真っすぐこちらへ襲い掛かってくる。巨体に似合わぬ俊敏な動きで放たれる拳は、受ければ〈カロン〉といえどダメージを免れないだろう。
ならば。
「
『ぉおおおおおおおお!』
「“
相手は人間、全力を出すわけにはいかない。だから、こちらも蒼い炎と化したマナを両の拳にのみ宿して応戦する。相手に合わせる形で放った乱打で “破壊” のマナを霧散、勢いのままに四本の腕部全てを砕いた。
武器は奪ったが、まだ闘志を感じる。奥の手がある、とすれば。
『甘い……これで終わりではないぞ!』
分厚い〈オウノカサネ〉の胸部装甲が展開し、その下に搭載されていた砲口が凶暴な光を迸らせる。
見覚えがある。あれは。
「マナ粒子砲…!」
『驚いたか? この距離なら避けられまい、沈めハルカ=アベノ!』
高出力の光線が発射される。なるほど確かに不可避の距離。加えて向こうは光の速度を持つ粒子砲。まさか一年前にクィナ国が装備していた最新兵器とこんなところでまみえるとは。だが、アタシと〈カロン〉なら避ける必要はない!
「
蒼炎を集中させた機体前面の装甲で〈オウノカサネ〉の粒子砲を受け止め、その威力も込められたマナの概念も、悉くを完全に無効化しきった。
『ば、馬鹿な………』
「諦めなさいゴウ。アンタじゃ、アタシには勝てないわ」
『舐める、なあああああああああああ』
やぶれかぶれといった様子で突撃してくるゴウ。いや無策の特攻ではない、破損した腕を捨て置いてなお行える攻撃方法はある。
至近距離から姿勢を崩した〈オウノカサネ〉が振り上げた右脚に、橙色のマナ光が収束していく。蹴りによる “破壊” の行使か。だが、同じことはこちらにもできるのだ。
「はぁああああああ!!」
〈カロン〉の脚にも蒼い炎を纏わせて、〈オウノカサネ〉の挙動に合わせて蹴り抜いた。狙うのは脆弱な関節部。
結果、膝の辺りでへし折られた〈オウノカサネ〉の脚部がちぎれ飛び、そのまま機体を地面に沈めた。
『どう、してだ。どうしてそこまでの強さを……。機体性能、だけではないな……』
半ば独り言のようなゴウの問いかけに、アタシは答えるべきか迷った。まさか転生してきたから前世での術を使えるだなんて言えない。
だから、こう言うに留めるとしよう。
「この程度じゃまだまだよ。なんたって、アタシは『最強』を目指しているからね」
『最強だと…? なるほどな、道理で……』
ゴウは気絶してしまったのか、彼の声はそこで途切れてしまった。
そうだ。アタシは、今度こそ何者にも負けず、何事にも脅かされない絶対の強さを手に入れてみせる。
その決意を改めて自覚しつつ、アタシはシャルとマドカと共に先へ急ぐのだった。
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