第二十四話 遺跡の最奥で
約束の三日後、遺跡調査へ向かう日がやってきた。
アタシ、シャル、マドカの三人は学校外の出撃ドックに集まっていた。ユキにも声は掛けたのだがあいにくと予定があるらしくて同行できないと言われた。
「シャルはホントに一緒に来てくれるの? 無理についてこなくても……」
「ううん〜。私も、ちゃんと強くなりたいから〜」
「ほーん。もっとぽわぽわ舐めとる感じかと思っとったけど、案外覚悟決まっとるやん。この前はすまんかったな。改めてよろしゅう、シャルロット」
「シャルでいいよ〜。こちらこそよろしくお願いね、マドカ〜」
なにやら和解している二人。まあ、シャルが良いならアタシも構わない。マドカの実力は本物だし、戦闘では大いに頼らせてもらおう。
「うむ、三人とも揃っているな。準備は万全か?」
そうこうしていると、カスミが数人の生徒と共に階段からドックへ降りて来た。全員隊士制服を着ているあたり気合い充分といったところか。加えて、今回の調査が警備隊としての正式任務であることもわかる。
「大丈夫です〜。今日はよろしくお願いしますね〜、カスミさん」
「ああ。くれぐれも安全第一でなシャルロット嬢。何かあればお前の父上に顔向けできん」
「家は関係ないですよ〜。これは私の意志だから〜」
おお、さすがシャル。相変わらずこういうところは肝が据わっている。カスミもならば良しと頷き、咳払いの後に作戦概要を語り出した。
「今回の作戦目的は、〈アマト〉地下坑道の末端部に位置する空間の調査、及び正体不明の敵性存在
「はいはいっ! ノイン=ドライシュタイン、生徒総会書記だよっ。よろしくぅ!」
「俺はトウヤ=コーラル、生徒総会会計を務めている。そこの生意気な二年生以外はよろしく頼む」
「む」
ピンクの髪をブンブンと振り回してやたら元気に両手を上げているノインは、学校ではアイドル的存在の三年生女子だ。小柄なルックスと可愛らしい顔立ちで多くの生徒から人気らしい。
一方のトウヤといえば、視線を向ければ仏頂面でそっぽを向かれた。愛想がないのもあれだが、いつまでアタシのことを敵視してるのよ。もう一年前のことでしょうが。ホントに器の小さな男ね。
「今回の作戦はこの六名で行う。それでは、みんな。早速出撃だ!」
「「「おー!」」」
自己紹介も済んで姉さんの号令が下る。
手早く〈カロン〉に乗り込み、無骨な操縦桿を握り締める。
真横では、シャルの〈ヨロイ〉、マドカの〈クリスハスター〉が立ち上がっている。その反対側ではカスミの〈クラデニッツ〉、ノインとトウヤの機体も起動していた。
「二人の機体は、普通の〈ヨロイ〉とは違うのね」
『彼らの機体は特殊なカスタマイズが施されたものだからな。
なるほど、それぞれの得意分野や役割に特化させているわけね。姿が〈クラデニッツ〉に近いのも、姉さんとの連携を取りやすくするためかしら。これは間近で新たな戦闘を経験できそうでワクワクする…!
『ハルカったら〜、また変な笑いが出てるわよ〜』
うげ、声に出てたかしら。気をつけないと…。
気を取り直し、移動用の大型輸送トレーラーに機体ごと乗り込んで目的地の荒野へ出発する。前回とは違い目的地がはっきりしている今回は、直接例の荒野までこのまま乗り込んでいく手はずになっている。
ガタガタと揺れる機内で、アタシの心中では、未知の領域に足を踏み入れることへの高揚と、何が起きるかわからない一抹の不安がないまぜになっていた。
とはいえ、前回の反省を活かして、シャルの〈ヨロイ〉には全身に装備した
シャル自身の戦闘力を上げつつ自分もミスなく動けば、滅多なことはないはず。今度こそアタシがきっちり守らねば。
『よし、目的地に到着だ。ここからは
トレーラーが荒野近くの洞窟手前で停車する。坑道の入り口となっているそこは、普段は一般の立ち入りなどはなく、隔離されている危険地帯となっている場所だ。
洞窟内は薄暗く曲がりくねっていながらも青白く光るライトが設置されていて進むのに苦労はなく、敵も不思議と全然出てこなかった。
『な、なんだか怖い雰囲気だね〜』
『シャルはビビりやなあ』
『お前たち作戦行動中だぞ、静かにしろよ』
『まあまあ、トウヤくん。元気があるのはいいことだよっ!』
「呑気ね、アンタたち…」
騒がしい面々をよそに、しばらくは機械の巨人が歩む重い地響きだけが空間を占め、進むこと十数分ほど。
「ここは……」
驚くほどスムーズに進んだ先で眼前に開けたのは、薄い桃色の灯りに照らし出された空洞。通路の行き止まりには固く閉ざされた巨大な扉。〈カロン〉が封じられていた場所と同じ雰囲気を感じる。
静けさと息苦しさ。只人に足を踏み入れる事を許さない禁域の気配だ。
『妙だな』
「どうしたの姉さん?」
『いや前まではここにこんな扉はなかったはずだ。調査班の報告でもすぐ先に地下空間が広がっているだけとしか……』
それじゃあまるで急に扉が生まれたとでも? まあ、無くはないか。〈カロン〉との出会いだってイザナという幽霊に導かれての事だったし、何が起きても不思議はない。
『入ってみればわかるんとちゃう?』
『いや、駄目だ。押してもびくともしない!』
トウヤのWD〈コルニッツ〉が扉に力を加えるが全く動かない。これは……。もしや、アタシと〈カロン〉なら反応するんじゃないだろうか。
「ちょっとどいて」
『お前っ、また勝手に―――』
うるさいトウヤを押しのけて扉に近付き、試しに〈カロン〉の右掌を使って扉に触れてみた。
果たして予想通り、扉表面に光の紋様が浮かび上がり、重い地響きとともに扉が左右に開き始める。
『どうなってるんだ…』
『ハルカちゃん、すごぉーい♪』
『さすがだね〜』
『やっぱその機体は特別みたいやなあ?』
「え、ええ」
扉が開いたのはいいものの、内部は間違いなく広い空間のようだが、どうにもイヤな気配がする。ここに踏み入ってもいいものなのか。
『……姉さん』
『気持ちはわかるが、中に入らねば調査もままならん。行くぞハルカ』
『そう、よね。行きましょう』
フットペダルを恐る恐る踏んで、各々機体を空間内へ移動させる。六機全てが入り切ったところでその異変は起きた。
背後で大扉がゆっくりと動き出し、止める暇もなくその入り口を閉ざしてしまう。
「!」
『勝手に閉まったぞ!』
『なんやと?』
『みんな落ちつこうっ』
『く、やはり罠だったか…!』
『ど、どうしようハルカ~』
深呼吸しつつ、アタシたちが閉じ込められたその場所を油断なく見回す。
一見ただの空洞だが、中央には薄桃色に発光する物体が鎮座していた。その物体は巨大な杯のような形をしており、その底面と地面を繋げているのはどこか見覚えのある螺旋状の槍だ。
「あの槍は……!」
[盟主の言う通り本当に来てしまうとは。―――ようこそ、世界の境目へ]
そいつはいつから其処にいたのだろうか。
語りかけてきたのは、ボロボロのローブを頭から羽織り、巨大な杯の
その人影がこちらにむけている強烈な視線が、
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