第二十五話 召喚される怪物
目元はローブで隠されていてわからない。男か女かもわからない。だが、機体のモニターを通り抜けてこちらに突き刺さる圧倒的な敵意。それだけは確かなものだった。
そんな相手が、扉が勝手に閉まったタイミングでアタシたちの前に急に現れた。どう考えたって罠に嵌めてきた張本人だろう。
「アンタはいったい何者よ。この状況はアンタの仕業なの?」
[そうとも言えるし、そうとも言えない。言ったでしょう。ここは境目、足を踏み入れた時点で如何なる事象も定まりはしない]
「どういう意味…?」
言っていることは半分も理解できないが本能で確信する。
―――こいつは間違いなく敵だ。
困惑するこちらには構わずローブ姿の人影は、自身が座る
その途端、体の芯を揺らすほどの地鳴りが空洞中に轟き、アタシのマナセンサーと機体のエナジーセンサーの両方で強大なマナ波長を感じ取る。
『気を付けろ。総員、戦闘態勢を取れ!』
『『了解!』』
『シャル、マドカ。二人も構えて!』
『わかっとる!』
『う、うん~』
武器を構えたカスミたち三人に遅れて、マドカの〈クリスハスター〉は双剣を取り出し、シャルの〈ヨロイ〉も両脇に長射程キャノン砲を抱えた。よし、ひとまずは何が起こっても全員を守らないと…!
[できない。オマエはまた全てを失うことになる]
「ッ!?」
なんだ急に、頭の中で声が。このローブ姿の声か。いやどういう意味だ、また失う…なにを…? こいつはアタシのことを知っている? この十五年間にこんなやつに会った記憶なんて微塵もない。
『ハルカ! 気をしっかり保て!』
「くっ……」
駄目だ。今は目の前で起きていることに対処しないといけないのに、心なしか〈カロン〉の反応も鈍い。操縦桿を通じて伝わってくるこの感覚は…怯えや戸惑い? 兵器に過ぎない〈カロン〉がなぜ。
だが、事態はこちらの復調を待ってはくれない。大地が鳴動し、中央の杯の内から目に見える程のマナの濁流が溢れ出てくる。カタチを持たないただのエネルギーの集合体であるそれらが、次第にローブ姿の取り巻くようにして蠢き始めた。
「なにをするつもり……?」
[偽りの世界を破壊する。全てが不安定な此処ではそれが叶う]
ローブ姿の手元。おぼつかない手つきで、その男あるいは女が指を動かして印らしきものを結ぶのが見えた。横から縦の順に四縦五横に走る九つの直線を空中に画する動き。
あれがなんなのか知っている。アタシは、知っている、はずだ。なのに思い出せない。
[讀み、誦まれ、澱み狂え。其はこの世ならざる禁忌の具現。其はかつて在りし幻想のカケラ!!]
なんだこれ。イヤな予感が強まりっぱなしだ。あの祝詞、いや籠められているマイナスの概念からして呪言か、その力持つ言葉に呼応するようにマナが暗黒に染まっていく。
杯から無限に溢れて、集合、集積、蠢動するマナの
「させないっての…!」
『ハルカ!?』
阻止せねば、と。手が勝手に動いた。操縦桿のトリガーを反射的に引いて〈カロン〉の腕部連射砲から弾丸を吐き出す。
しかしまるで水面に石を投げれば沈むように、弾丸のことごとくを分厚いマナの
その一瞬は、フード姿の人物に決定的な隙を与えてしまった。
[
呪言が完成したことで、ただのエネルギーの集まりに過ぎなかったマナの
始めに現れたのは無数の手脚。続けて顕現したのは、幾つもの節に分かれたとてつもなく長い胴体。空洞内を埋め尽くさんばかりの巨大さで、頭から尾までを目で追いきれない。そしてそれは生身ではなく、機械の体を持つ獣。
現れたのは巨大
『なんなの……あれ…………』
『化け物を喚び出しただと!』
呆然とするシャルとカスミの声。無理もない。初めて見る訳の分からない敵なんて、どう考えたらいいかわからないはずだもの。
だがアタシの記憶は答えを持っている。
召喚された化け物の姿は、前世で一度だけ戦った山に住む大百足という怪異に酷似していた。
「どうしてこんなもの…!」
[龍の巫女たるオマエを屠るには相応しいでしょう。盟主復活の糧となるがいい!]
ローブ姿が踊り、指揮するように振り動かす腕に合わせて巨大WBが鎌首をもたげる。その頭部から生えた鋭く尖った二本の脚が勢いよく打ち鳴らされた。
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