第二十三話 潜む陰謀
「あの依頼書は偽物…? ちょっと、どういうことなのよ姉さん」
〈アマト〉北西郊外区域の荒野での遭遇戦からどうにか帰還したアタシは、シャルとユキと合流して再会を喜んでから少し休んで、カスミ姉さんに呼び出されて生徒会室を訪れていた。
依頼内容について訊きたいことがあったし丁度良かったのだが……、そこで告げられたのは驚きの内容だった。
「どういうことなの、姉さん?」
「ああ言葉の通りだ。お前たちが提出した依頼書は、何者かによって偽造されていた。北西部の野盗退治は先週完了しているし、その時ですら脅威ランクはCだった。加えて依頼に受理印を押した生徒もこの学校には存在しない人物だ……。信じられないことだが、何者かの罠だとしか考えられん」
あの荒野に行くことを誰かに誘導されたというのか。一体何の目的があってそんなことを。いやそれは一旦さておくとしても、あの敵の正体は気になる。
「ひとまずアタシたちを嵌めたヤツのことはいいわ。けど、あの単眼四脚の
「その質問にはお姉さんが答えましょうか」
「アルマじゃない。どうしてここに?」
生徒会室に入ってきた黒スーツをかっちりと着こなしている女性、アルマ。〈アマト〉中央技術研究開発機関所長という大層な肩書を持つ彼女は、いつもは研究所に籠りきりのはずだから学校に顔を出すというのは相当レアだ。それだけ大きな問題なのだろうか。
「どうしてだなんてご挨拶ねえ。君の遭遇した敵についてわかったことを急いで教えてあげようと思ったのに」
「もうなにかわかったの!?」
さすがの腕だが、それにしても速すぎないだろうか。まるでこういう事態を予期していたかのようだけれど、さて。
「結論から言うと、あの
ふむ…。WDが人型兵器であるなら、WBとは獣型兵器ということかしら。
「大きなシステムっていったいなんなの?」
「今のところ仮説の域は出ないのだけれどね。〈カロン〉が眠っていた洞窟に連なるマナのエネルギーラインを管理する地下坑道の統括システムだと、私は考えているわ。あのWBはそのシステムの眷属よ」
システムと眷属。それはつまり、アタシが前世で使役していた【式神】のような存在ということか。道理で術を行使した時のマナの感触が単純すぎるわけだ。元よりただの操り人形だったとはね。
「ん、ちょっと待ってよ。それならあのWBが出現したのは、あの荒野の地下に遺跡があったから…?」
「さすがねハルカ君、お察しの通り。探索班の調べではあそこには〈カロン〉が封印されていたのと同等の広さを持つ地下空間が広がっている見込みなのよ」
「そうだったの…」
ひょっとしたら〈カロン〉に反応した可能性もありそうだ。その場合、シャルとユキを危険にさらしたのは自分ということになる。
「……」
「それでアルマ博士。今すぐに対処が必要な脅威なのですか?」
「ううん、カスミ君が危惧しているような事態にはならないと思うわよ。ただ調査は必須でしょうね」
「わかりました。ハルカ、お前にも力を借りることになると思うが構わないか?」
「もちろんよ姉さん。アタシとしても放っておけないしね」
せっかくならこれを機に、〈カロン〉のことをもっと知りたい。この一年間に得られた情報は少なかったし、遺跡とやらの謎が解ければそれが叶うかもしれない。
「で…。アンタはずっと黙って聞いてるけど、どうしてアタシを助けに来れたの?」
ふと、ソファにだらーんと腰掛けるマドカに話を振ってみる。
そもそも依頼が偽造されていたというなら、指定の場所をどうやって探り当てたのだろうか。俄然怪しく感じてしまう。
「ん? そんなん簡単な話や。ハルカはんと会長はんの通信で、大まかな電波の受信座標はわかったからなあ。それを逆探知して追っかけてん」
「科学の力スゴいわね…」
「あほう、こんなん乙女のたしなみやで」
「そんなバカな嗜みがあってたまるもんですか!?」
などとツッコミを入れている場合ではない。その逆探知のおかげで助かったのだし、素直に感謝すべきだ。
「まあ…ありがとう、助けに来てくれて」
「はっ、リベンジしとらんうちに死なれたら困るやないか。しっかりしてくれへんと」
「そういうことね…。はいはい、忠告と思って聞いておくわ」
「こほん。話は終わったか? 聞いての通りな訳だが、この遺跡調査をお前たちにも頼みたいと思うんだがどうだろうか」
アタシとマドカで遺跡調査。確かに戦力的には申し分ない。シャルとユキにも声を掛けてみようか。二人が嫌でなければ…。
「ええで。その話ウチものったるわ」
「アタシも問題ないわ」
「協力感謝する。遺跡調査に同行できるようにしておくから、三日後の課外授業の際に二人と私は別行動として遺跡へ向かうことになる。そのつもりでいてくれ」
そう言われてカスミに数枚の書類を渡される。地下遺跡についての情報を軽くまとめた用紙のようだ。読んでおけということだろう。
そうして他の要件が溜まっているらしく慌ただしくどこかに指示を出し始めたカスミを置いて、アタシとマドカは生徒会室を後にした。
「でもほんま気ぃつけーや、ハルカはん」
「ええ…。偽造された依頼書なんて明らかに学内の誰かが犯人よね。一体どこのどいつなのやら」
「まあ、転入早々悪目立ちしとったからなあ。しゃーないんとちゃう?」
半分はアンタのせいでしょうがと内心呆れながら、今日は疲れすぎて一刻も早く寝たいがその前にまず汗を流そうと、シャワー室を目指すのだった。
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