第二十一話 未知の敵との遭遇
荒野が広がる郊外を三機で行進すること一時間。アタシたちは、民家も完全に見えなくなり、廃墟や何もない大地ばかりが広がる地帯に足を踏み入れていた。
今のところ敵は出てきていないし、マナセンサーにもそれらしい反応はない。
「野盗というくらいだし…どこかにアジトでもあるのかしら」
『そうかもね! でも、だったらもう出てきていてもおかしくない?』
『きっと怖くなって逃げちゃったんだよ~』
「アンタと一緒にしないの、シャル。盗賊なんてやってる人間よ。そう簡単に逃げたりしないわ…。きっとどこかに隠れて、こちらを狙っているはず」
とは言ったものの、周辺は荒野ばかりで身を隠す場所なんてない。地下に秘密の空間とかあれば別かもしれないけれど。
などと考えていると、ピクリと自身の眉がつり上がるを感じた。マナセンサーに感あり。素早く移動する対象が一つ。
「……来る!」
『そこだよ!!』
アタシが〈カロン〉を振り向かせるのと、ユキの〈ヨロイ〉が二丁の短機関銃を連射したのは同時だった。
発射された弾丸が大地に積もった砂を削る。当たっていない。周囲を見回すと、爆発音とともに砂の下から、巨大な影が飛び出してきた。
「ホントにそんなところに隠れていたとはね…!」
アレも
悪路に適応したカスタムを施しているのか、でこぼこな荒野をとんでもないスピードで滑るように走り始めた。まるで野を駆ける獣のようだ。
「どうやって動かしているのかしら」
『あれが盗賊の機体…! 速すぎだよ!?』
『ど、どうしよう~!』
「落ち着いてユキ、シャル。アタシが突っ込むから、二人はそこから援護射撃をお願い。あの機動力さえ潰せればこちらの勝ちよ!」
スラスターを噴かせて、前に飛び出す。瞬間的な速さなら追いつけないほどじゃない。問題は……。
「走りにくいったらないわね」
こちらは人間のように普通に二本の脚で走っている。これだけ不安定な足場だとどうしても速度は出せない。だから、二人には動かないように援護を頼んだのだ。前世で山狩りに参加した時も、自ら動き回って動物や妖を仕留めていたことだし、やるべきことは変わらない。
右手で
普通なら重すぎて扱えない大盾だが、あの機体は、安定した機動を行える多脚によってそれを活かしているわけか。
「だったら!」
フットペダルを蹴り付けて、大地から足を離してバーニア全開で跳ぶ。足場など関係ない大空へ舞い上がり、ライフルで撃ち返されるのを姿勢制御でかわしながら、最上段から刃を敵へ振り下ろした。当然、それも大盾で止められてしまう。
だが、狙いは攻撃よりも密着することだ。
「舞いなさい、【
バックパックから射出した鱗のような盾のような小型兵器が敵機へまとわりつくように襲い掛かる。近距離から連続して攻撃する遠隔武装だが、敵はこの程度なら関係ないとたかを括っているだろう。
だが甘い。アタシは一年前の戦闘での経験を経て、物体にマナの術式を込めて操る戦い方を会得済みしている。そして今放った数基に込めたのは "貫通" 。
「貫けッ!」
乱れ飛んだ【
着地、様子を確認。反撃はなし。
『大丈夫、先輩!?』
『ハルカ〜怪我とかしていない〜?』
「ええ。問題ないわよ、割とすんなり倒せたしね」
ユキとシャルに答えつつ、そういえば敵パイロットは無事だろうかと一応マナセンサーで調べてみた。
「えっ……?」
だが反応はなかった。生体反応なし。今しがた戦っていた機体には操縦者が乗っていない。それがアタシの感覚による答え。
「そんな、あり得ないわ…」
『ど、どうしたの〜?』
『先輩たち! なんか、さっきから地響きが収まらないよ!?』
はっとする。ユキの言う通りだった。なんなのよ、この地響きは…。
状況を把握する暇もなく、今度は緊急通信が入ったことを示すアラート音。モニターに映し出されたのは焦りを滲ませたカスミだった。
「どうしたの姉さん。ちょっと今こっちは手が離せなくて」
『馬鹿者! 今すぐそこから逃げろ! そkは、……の、禁止………域だ!』
「姉さん? 聞こえないわよ!」
ノイズまみれの通信はすぐに途切れる。代わりに足元の地響きが一層大きくなった。かと思えば、前触れなく静寂が訪れ。
次の、瞬間。
――――――――――――!!
全方位から耳をつん裂くような悲鳴とも咆哮とも似つかぬ音が炸裂し、砂の柱があちこちで噴き上がる。視界を覆う砂のヴェールの向こう側から、ぎらりと輝く無数の単眼がアタシたちを凝視しているのが垣間見えた。
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