第二十話 初の依頼

 マドカとの模擬戦が終わってカスミ姉さんから無茶をするなと怒られたりはしたものの、早くもアタシは学校生活というものに音を上げそうになっていた。


「だぁああああ、面倒くさいっ!」

「そう言わないの~」


 なにがしんどいって、座学が退屈すぎる。確かにアタシはまだ十五歳だが、魂は前世で多くのことを学んでいるし、理論的な考え方もできる。数学や一般教養などは今さら教えてもらわなくとも、既に十四歳までにあらかた理解しているのだ。


 もちろん、この都市やこの国の歴史や世界のことを知るのは重要だが、かったるいことこの上ない。


 シャルの方は、家庭教師に勉強を見てもらっていたということで、授業についていくのに不便はないらしい。まあ、代わりに実技は結構大変らしいけれど。


「でも、隊士の養成学校なのに、先生はみんな優しいよね~」

「辞められても困るからでしょ。一年前の戦いで、多くの警備隊士が死亡や離職でいなくなってしまったんだから」

「そうよね…。だからこそ、わたしたちが頑張らないとよね~!」

「ええ、その通りねー」

「もう〜、冷たいわよハルカ~」


 幼馴染みとそんな軽口を叩き合いながら廊下を歩いていると、掲示板と睨めっこをするユキと出会った。


「ユキじゃない。そんなところで何しているの?」

「あっ、ハルカ先輩! お久しぶり! シャルロット先輩も!」


 相変わらず元気な様子の後輩が振り向く。


「もう~、シャルでいいよ~ユキちゃん」

「わかったよ、シャル先輩!」

「はいはい…。それで、掲示板なんて眺めてどうしたの?」


 おっとりしたシャルと、元気はつらつとしたユキ。対照的な二人のやり取りに和みそうになりつつ、もう一度疑問を口にした。


「ああ、そうだった。課外依頼を受けようと思って。単位のためにも、経験を積むためにも必要なことだからねっ!」

「課外依頼…そういえば、そんなものもあったわね」


 この隊士養成学校は単位制となっており、進級・卒業までに必要数を取得しなければならない。授業に出席し、課題をこなすことで単位は得られるのだが、それとは別に実技授業をこなすことも必要となってくる。


 そこでトレーニングや模擬戦以外に設けられているのが、ユキの言う課外依頼というやつだ。


 内容は都市内のパトロールだったり、都市郊外の野盗排除だったりと様々だ。そういえば〈アマト〉地下坑道の探索というのもあったか。


 一年前に〈カロン〉を見つけた地下坑道には、多くの未知の遺跡や技術が遺物として眠っている。中央技術研究開発機関所長のアルマと共に〈カロン〉の調査をする中で明らかになったことだ。


 そんな未知のエリアを探索することも〈アマト〉警備隊の任務となっており、腕の立つ学生もまたそれを依頼として請け負っているのだとか。


「ハルカ先輩聞いてる?」

「へっ? あ、ごめん…」

「まったくもう〜。ハルカったら、また考え事して〜」

「ごめんって。それで、どうしたのよ」

「一緒に依頼に行こう! って話だよ、ハルカ先輩」


 一緒にということは、アタシとシャルとユキの三人でか。


「それはまあ…構わないけれど、なんの依頼を受けるのかしら」

「これなんてどうかなって!」


 ユキが指差したのは郊外での野盗排除依頼で危険度ランクはD。敵もWDウェポンドールを所持している可能性はあるが、数は多くても一機。あとは生身の人間ばかりらしい。


 ふむ。これくらいなら、シャルが危なくなっても守りながら動けそうね。


「よし。実地経験はどのみち必要だし、この依頼を受けましょうか」

「やったあ!」

「ちょっと、依頼書握り潰したらダメでしょユキ……」


 と、いうわけで。


 アタシたち三人は生徒会に依頼受諾書を提出して無事許可されたことで、郊外へ繰り出すこととなった。書類関係はシャルが出してくれたし、郊外への足となるトレーラーはなぜか大型免許を持っているユキが運転してくれる。


 あれ。


「…………アタシなにもしてなくない??」


 ショックだ。意気揚々と依頼に飛び出したというのに、今のところいいとこなしとは。


 凹んでいるアタシを慰めようとシャルが頭を撫でてくれている。不甲斐なさすぎ。


「あはは、落ち込まないでよハルカ先輩! WDウェポンドールを動かす段になったら、存分に頼らせてもらうからさっ!」

「そうね…目的地に着いたら起こして…」

「寝ちゃ駄目よハルカ〜」


 こうなったらふて寝してやろうとトレーラー内のシートを倒してうとうとするアタシであった。


 そうこうしている内に、アタシたちは目的地である〈アマト〉北西郊外区域に到着した。民家はほとんどなく寂れており、むき出しの岩肌が荒野感を強めている場所だ。遮蔽が多い分待ち伏せにはうってつけかもしれない。


「着いたよみんな。WDウェポンドールに乗って準備しよう!」

「そうね。ひとまず周囲を探索しながら、野盗は見つけ次第撃破しましょう」

「軽く言わないで~。まだ操縦に慣れていないんだから~」


 まあこればかりは仕方ない。操縦訓練も兼ねての依頼参加なわけだし。


 困り顔で渋るシャルを彼女のWDに押し込んで、アタシも〈カロン〉のコクピットに身を滑らせた。


 エンジンにマナを注ぎ、各種機器の状態をチェック。近代兵装が皆無に近かったこの機体も、アルマの協力でチューンアップされている。まあ索敵センサーや基本的な火器管制システムなどは外付け装甲の方に搭載されているから、〈カロン〉自体は、結局アタシのマナセンサー頼りだけど。


 トレーラーから機体を出して、ユキとシャルの様子を確認する。


『よし、やるぞー!』

『ううん…大丈夫かしら~…』


 ユキの機体は、模擬戦で戦ったマドカと同様に〈ヨロイ〉にカスタムを施した物で、軽量ながらバックパックや各マウントラックに武器を携行している。手数で戦う派らしい。


 シャルの方はといえば、シールドを全身に装備した守り主体の装備で、機体そのものは〈ヨロイ〉のはずだが、着ぶくれしたような別のフォルムになってしまっている。まあ、これならちょっとの攻撃ではやられないから安心ではある。


「さて、それじゃあいきましょうか!」


 手早く打ち合わせを済ませると、アタシたち三人と三機は砂塵が舞う荒野に繰り出した。

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