第十八話 ライバル登場?

 説明会が開かれる講堂は、すでに大勢の生徒で賑わっていた。


 指定された席はシャルと隣り合わせ。ユキは一年生の方の席だったのでしばしのお別れとなった。


 着席して程なくすると、壇上に教師陣と何人かの生徒が上がり、いよいよ説明会が始まった。けどなぜか、生徒の一人がすごく見覚えがあるのだけれども。


「えー、こほん。みんな、今日という日に入学式転入式を迎えられたことを喜ばしく思う。私はこの警備隊士養成学校の生徒会総長を務めているカスミ=アベノだ。私から改めてこの学校のことを説明させてもらおうと思う」


 やっぱり姉さん!? この学校にいるのは知っていたけど、生徒会総長なんてやっていたのね……。


「さすがカスミさん〜」

「そ、そうね…」


 妹としては少し照れくさい。そして、壇上の姉さんを見て、男子も女子もみな憧れの視線を向けているのが一層落ち着かない。


 いや確かに姉さんはすごい人なんだけど。


 色めきだつ生徒たちの反応など一切お構いなしに、姉さんの説明は続く。


「まず、この学校の授業は知っての通り、主に座学と実技の二つに分けられている。ここに来る物の年齢は様々だが、比較的若い者が多い。ゆえに座学では一般教養を学んでもらう。そして実技だが…」


 壇上のスクリーンに、校内ランキングとランク戦の資料が映し出される。


「このように実戦形式で生徒間のランキングは常に変動する。生身での決闘、WDによる模擬戦もここに含まれる。よって各自、己の研鑽に励んでもらいたい」


 ふむ。ということは先ほどの決闘でもアタシのランキングが何か変動したのかしら。


「すでに先程、当ランキング二十一位の学生がある特待生に倒され、そのランキングが入れ替わっている」


 なぬ。


「こほん…。己の力を高めることは良いが、やり過ぎは褒められたことではない。各自、肝に銘じておいてくれ」


 これは説明会が終わったらすぐに退散した方が良いんじゃないだろうか??


「はー…巻き込まれただけなのに…」

「私も謝ってあげるから〜。落ち込まないで〜ハルカ」


 などと話している間にも説明会はつつがなく終わり、案の定姉さんからお小言をもらってしまった。シャルが取りなしてくれたからなんとかなったけど。


 次のオリエンテーションの内容は、学校設備の紹介と実力試練だった。


「実力試練、か」

「どうしたのハルカ~」

「あ、ううん。アタシ以外にも特待生がいるみたいだけど、その子たちの実力ってどうなのかなって気になってね」

「もう~。戦ってばかりだと怪我しちゃうわよ~」


 シャルの心配はありがたいが、アタシとしてはどんどん戦って経験値を稼ぎたい。そのために学校に入ったところもあるし。


「なあなあ。あんたはん、ハルカ=アベノやろ?」


 校内巡りの最中、場所が開けた中庭に移ったところでやけに馴れ馴れしい方言で話しかけられた。


 話しかけてきたのは、長く伸ばした髪で右目を半分ほど隠した糸目の少女。緩い雰囲気とは真逆に、一切の隙が見当たらない。なんらかの武術経験者ではありそうだ。そして一番気になるのは彼女の黒い制服。


「アンタも特待生か」

「お、なんや気になるん? そやで。ウチも選ばれし者っちゅうわけやねえ。あんたも都市を守った英雄はんやし、そうやんか」

「その言われ方は好きじゃないわ。で、アンタはどこの誰なのよ」

「ええねえ、噂通りエライ強気やん。ウチはマドカ=アーシア。あんたと同じく本日転入する二年生やで」


 同い歳とは。見た目より幼かったらしい。そして、アタシと同じ特待生ということは、なにか特筆すべき能力を持っているというのは間違いなさそうだ。


「ハルカ~、早く行こう~」

「なんや。逃げるんか?」

「……なんですって?」


 シャルが間に割って入ってくれたおかげでその場を離れようとしたが、聞き捨てならない言葉を投げかけられて足が止まる。


「ハルカ~。放っておこうよ~」

「そこの頭ぽわんぽわん娘は黙っといてんか。これはウチらの問題やんけ」

「アンタ、いい加減にしなさい。アタシのことを何と言おうと勝手だけど、親友の悪口は許さないわ」

「ハッ。そこまで言うんなら、一つ手合わせ願えんかなぁ。街を救った英雄さまの実力見せてもらいたいんやけど」

「上等よ」


 どうしてマドカがここまで突っかかってくるのかはわからない。けれど、喧嘩を売られたのならしっかり買うのがアタシの流儀だ。


 今回はきちんと姉さんに話を通して、実力試練を兼ねた決闘をマドカとさせてもらえることになった。シャルは横でおろおろしていたけれど、ありがたい。これで気兼ねなく戦えるというものだ。


「まったく。お前はどうしてそうトラブルばかり…」

「そう言わないでよ姉さん。いいデモンストレーションになるでしょ?」

「デモンストレーション程度では済まない気がするのは私だけか?」


 我が姉ながら勘の鋭い。やるなら徹底的に暴れようと思っていたのに。まあ、マドカがどれほどの力を持っているかにもよるけれど。


「気をつけろ、ハルカ。あのマドカという特待生は転入試験で実力の底を見せなかったと聞く。監督した教師が言うには、捉えどころがなく不気味な戦い方だったらしい。気付かない内に試験官のWDウェポンドールが打ち倒されていたとか」

「安心して姉さん。アタシは負けないわ。それより、〈カロン〉の準備ってできてるの?」

「ああ。外装の取り付けと武装の追加、どちらも完了しているぞ」

「ありがとう!」


 さて、同年代とWDを介して戦うのは初めてだ。どんな機体で、どんな戦法で、そしてどんなマナの操り方をするのだろう。


「ワクワクするわね…!」

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