第十六話 幼馴染みの決意

 ――― その少女は、美しい金髪に透き通るような碧眼、白磁の肌と称されるほどの美肌を持っていた。


 すれ違う人々はみな彼女のそんな可憐さに目を奪われる。百年に一度の美しさなんて絶賛する者もいた。


 加えて家柄も国内有数の財閥でもあり、幼い頃からただひたすらに羨望の眼差しを向けられてくる人生だった。


 だが、当の本人……シャルロッテ=パルファム自身はそんな評価を疎ましく思っていた。なぜなら、その評価は全て自分の外見や地位に向けられるものだと知っていたから。


「退屈ね~…。はぁ…」


 生来のおっとりとした性格のせいであまり感情を表に出さないから余計に気づかれにくいが、シャルロッテはとても賢い少女だったため、周囲の目線や思惑にもすぐに気づいてしまう。


 それに対して何も言えない自分が、たまらなく嫌で仕方なかった。


 そんな毎日を送っていたある日、幼いシャルロットは一人の少女と出会うことになる。


「なに見てるのよ、この変態。どっかに行きなさい!」

「はぁ? おまえみたいなちんちくりん、興味ねえよ。俺はその子に…」

「あら自白したわね。自分が変態ストーカー野郎だってことを!」

「ぐわぁ!?」


 たまたま親と街を買い物している最中にはぐれてしまい、途方に暮れているところに近づいてきた大人の男を、自分とさほど歳の変わらなさそうなその女の子は拳一発で撃退してしまった。


 とても鮮やかな記憶おもいで。シャルロットは生涯この時のことを忘れないだろう。それほどまでにその少女のことが輝いて映った。


「まったく…。あら、アンタ大丈夫だった?」

「う、うん、大丈夫だったわよ~。ありがとう~。えっと…」

「アタシはハルカ。アンタは?」

「わ、私はシャルロット。シャルロット=パルフ―――」

「苗字はいいわよ。んー、そうね…。シャルと呼んでもいいかしら?」


 その少女、ハルカは物凄い距離の詰め方であだ名をつけてきた。けれどそれは自分と周囲を完全に切り離しているからできるのだろうと、その時からシャルロットはぼんやり感じている。


 第一印象は、強いけれど、少し寂しい女の子。


 それからというもの、シャルロットはちょくちょくハルカと遊ぶようになる。


 話をしているうちに徐々にハルカのことを知ったのだが、彼女は相当な変人だった。過去形だけど正直今も変人だと思っている。


 なにせ学校にも行かず、ただひたすらに格闘術の修行や瞑想などの鍛錬に励んでいたのだ。なぜそんなことをするのかと尋ねても、強くなるためとしか答えてくれなかった。


「強くなる、か~」


 シャルロットからすれば、そんな発想は夢のまた夢だった。


 何もしなくとも自分は自分の美しさで生きていける。楽しめる生き方ではなくとも、そういうものだと諦めていた。別に平和なのだし強さなんて必要ないとも。


 けれど、灯篭送りの祭りの日。


 急に鳴り響いたサイレンと戦火に呑まれた街を前にして、初めて力がないことへの恐怖を覚えた。弱い自分ではうっかり死んでしまうかもしれないと絶望し膝を抱えた。


「ハルカ……」


 そんな状況を救ってくれたのは、またもや幼馴染みのハルカだった。彼女が磨いてきた強さ、そして強さへの想いが敵を退けたのだ。


 シャルロットは彼女に感謝するとともに、改めて深く心を動かされた。


 他の誰に何を言われても諦めず、折れず、重ね続けられた想いはきっと運命すら貫くことができるのだと知った。


 だから自分もそんな強さを、大切な誰かを守れるだけの強さを見つけたくなってしまった。


「だから…、私も戦うよ〜。それでいつかきっと私もハルカを守って〜、隣で一緒に心の底から笑うんだ〜」


 きっとそれは退屈や諦めとは無縁な、とても幸せで満足できる未来だと思えるから。


 かくして、鳥籠の中で下を向いていた少女は遙かなるみらいを目指すべく上を向くのであった。

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