第十四話 『最強』という願い
見渡す限り人も物もなに一つ物質が存在しない、どこまでも純白が広がる空間。
[もうここにきちゃったのね、おねえさん]
存在しているのは空白だけというその場所で、アタシとその子どもの霊体は対峙していた。地下の坑道で出会った霊だ。名前は…。
「アンタは…イザナ? アタシはどうなったの? ここは、どこ?」
[ここはね、ゆりかごのなか。おねえさんのたましいがあぶないとおもって、ひなんさせたの]
たましい…魂が危なかった、か。そうだ、確かアタシは敵の攻撃を受け止めて、姉さんやみんなを守って…?
「そういえばみんなは!? アタシはちゃんと守れたの!?」
[―――おねえさんは、どうしたいの? "このこ" といっしょになにをするの?]
「えっ? 急に何を…」
アタシのことなんてどうでもいい。みんなが無事なのかどうかが気になるのに!
[こたえて。おねえさんのねがいはなに?]
「アタシの願い………」
そんなことは決まっている。アタシは今度こそ『最強』になる。この転生した新しい世界で、誰にも負けない自由な強さを得ることを願っている。
[どうして、つよくなりたいの?]
……どうして、だったっけ。
そもそもの理由は、別にありふれたものだ。友達を守りたかった。家族に笑っていてほしかった。民に喜んでもらいたかった。世界が平和であってほしかった。言葉にしてみれば、ただそれだけのことで。その手段が『最強』であることだったというだけ。
だからきっと本来拘ることじゃないのだろう。けれど、アタシの魂が叫ぶのだ、諦めるなと。
「何物にも囚われない真の『最強』。誰に何と言われようと、アタシはそこを目指すわ。今度こそ、誰の目も気にせず、守りたい物を守って、手に入れたい物を全部手に入れるためにね!!」
心の底からはっきりと言い切る。
現世で初めて明確な敵と戦って怖れていたのは負けることじゃなくて、状況や人に流されて何一つ為せない自分の弱さ。なら、今こそ、転生した際の熱く滾る気持ちを取り戻さなければ。
[うん、いいとおもう。それがおねえさんのこたえというのなら。・・・おいでませ、せかいのまんなかのむこうがわへ]
握手をするかのように差し出されたイザナの手を、わけはわからずとも強く握り返す。視界が再び閃光で染まったかと思えば、急速に意識が引き伸ばされる感覚。
『―――――ルカ、ハルカ! しっかりしろっ!』
「ん………」
誰かに名前を呼ばれている。不思議と軽くなった瞼をハッと開くと、続いてコクピットを襲い続けている激しい振動に現実へ引き戻される。
モニターに映し出されているのは、砲口を向けてくる敵と、こちらを揺さぶってくるカスミの
そうか、敵の粒子砲を〈カロン〉で受け止めていたはずだけど、アタシは少しの間気絶していたらしい。
『ハルカ! もういい、このままでは機体がもたないからっ』
「いいえ姉さん。ここからは、アタシに任せてもらうわ」
『なんだと…? いや、その機体の様子は…』
気付けば、気合いが全身に漲っている。枯渇していたマナが、今や持て余すほどに体中を満たしていた。そしてそれは〈カロン〉にも大きな変化をもたらしていた。
手脚に搭載された四つの駆動炉が今までは眠っていたとでもいう様に全力で回転し、全身の黒鋼のフレームへ迸る蒼白いマナの燐光を炎のように伝え巡らせている。
「これでアンタもやっと本気というわけね、〈カロン〉!」
ならばもう迷うまいと、受け止めて拮抗していたマナの砲撃を跳ねのけて、天空に浮かぶ敵の
『姿が変わっただとォ…? ドクター、なんだか知らんがマズいぞさっさと撃ちやがれッ』
「させない!」
フットペダルの一踏みで背中のスラスターとバーニアから炎が翼のように翻る。踏み締めた大地にクレーターが穿たれ、〈カロン〉の巨体が一瞬にして空中艦の前へ飛び上がった。
『なんて速さですかぁ…けれど甘いですねぇ!』
空中艦〈テェンイー〉の両翼下から巨大なアームがこちらを捕まえようと突き出される。この艦自体が巨大な
「ぶっ壊しなさい〈カロン〉!」
凝縮したマナを手刀に帯びてX字に振り抜き、〈テェンイー〉の翼ごと両腕を容易く切り裂いた。
小爆発を起こして姿勢を崩した空中艦の横腹を蹴り飛ばす。距離を取って、特大のマナバレットで艦を破壊しようと力を掌に込める。
『ははっ。残念ですがぁ、この揚陸艇が破壊されたとしても関係ないのですよぉ。本命はこちらですからぁ!』
「っ」
術を行使しなくとも新たな脅威を直感で察知した。煙を上げる空中艦の機体下部ハッチががこんと開き、中から敵の目的が顔を見せた。
継ぎ目のないつるりとした異様な楕円形の巨大物体。研ぎ澄まされた感覚が教えてくれる。アレは、敵が設置していた螺旋状の槍と組み合わせて破壊の “波” を巻き起こす爆弾のような兵器だ。撃たせるわけにはいかない。
「ただ破壊しても、どのみち余波で街は崩壊するってわけね…。だったら!」
思い出せ。前世でアタシが『最強』だった
「
カスミがやったように始まりの
「…
言の葉を紡ぎながら、左掌で照準を付けて弓を引くように右拳を引き絞り力を溜める。蒼炎の煌めきが一点に集中し、槍のような鋭さを湛えた巨大な矢じりを生み出した。
「
言い放つと同時に右腕を振り切り、蒼白く煌めくマナの矢じりに後ろから拳を全力で叩きつける。
極大の炎槍が真っ直ぐな尾を引いて、地上から空めがけて駆け昇って。
その圧倒的な力の奔流が、今まさに艦から落下し始めていた爆弾を呑み込んで跡形もなく消滅させた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます