第十一話 戦闘、再び

 突然の襲撃により避難所となっている〈アマト〉中央警察署、署内に設営された臨時整備ドックにて。


「ハルカ! お前はここにいろ!」

「嫌よ。アタシも戦うわ。向こうの専用機持ちがまた来ても、アタシなら対処できるもの」


 アタシとカスミ姉さんは、〈カロン〉を間に挟むようにして言い争っていた。理由は簡単。姉さんが出撃を認めてくれないからだ。


「確かにお前は強い。だが、向こうも準備の時間を取っている。対策してこないと思うか?」

「そんなことわかってるわ。だけど、どんな対策を打たれてもアタシと〈カロン〉は負けないわよ」

「良い加減にしろよ、おまえ!」


 真横でWDウェポンドールを整備していた精悍な顔つきの青年が、急に怒鳴り声をあげる。先ほど会議室にいた人物だ。確か名前は…。


「トウヤ、だったかしら。なんの用よ。アタシ達の会話に首を突っ込まないでくれるかしら」

「隊の結束を乱すような奴は戦場にいて欲しくないんだ。カスミさんが困ってるのがわからないのかよ!」


 なんだこいつ。アタシがいなかったら、厄介な敵三機を追い返すこともできなかった癖に。そんな怒りが沸々と湧き出てくるが、今口にしても仕方がないと嘆息し、アタシは一足飛びに〈カロン〉は飛び乗った。


「ハルカ! 話はまだ!」

「ごめん、姉さん。言い争ってる場合じゃないみたい」

「何を…?」


 数分前からうなじを刺激する鋭い気配。はっきり知覚した直後、敵襲を知らせるけたたましいアラートがドック内に響き渡った。


「このタイミングで…!」

「向こうも準備万端らしいわね。先陣はアタシに任せて。蹴散らすわ」

「待て、ハルカ!」


 姉さんの制止を振り切って、〈カロン〉の炉にマナを送り込む。握った無骨な操縦桿を通じて機体が目覚めるのを感じる。黒鋼の巨躯が身を起こし、双眸が輝きを放った。


 ドックの大扉から勢いよく飛び出し、都市の大通りを駆ける。


 前方、敵WDを確認。数は四機。


「雑魚はどきなさいっ!」


 整備ドックから拝借した武器の一つ、携行式ミサイルランチャーを〈カロン〉の肩に担いで構える。積載された弾頭にマナのオーラを付与。一斉発射。


 付与したマナを操作して弾頭の軌道を変えることで迎撃をかいくぐり、直撃させる。すれ違いざまに敵機が四機とも吹き飛んだ。


「っし、このやり方は有効ね。なら、次は…!」


 左方から距離を詰めてくる二機の新手が、ライフルで銃撃を仕掛けてくる。空になったミサイルランチャーを盾にして防ぎつつ、腰部装甲から二振りの短刀ショートブレイドを取り出し、放つ。


 凄まじい速さで空を裂いた二つの刃が、反応する隙も与えずに敵WDの頭部を貫通し、地面へと打ち倒した。


 “貫通” の概念を付与した一撃。ただの鋼鉄の装甲では防ぎようがない。遅れて姿を現した別の機体も殴り飛ばしながら、アタシは満面の笑みを我慢できなかった。


 やれる。充分に戦えるじゃないか。このまま敵陣に攻め入って、全員倒して―――。


『あまり、調子に乗らないことね!』

『同意。ここからはこちらのターン』

「!」


 オープンチャットに二人分の音声。


 左から正確無比な狙撃。右から荒々しい爪による斬撃。機体をわずかに捻り、両肩に懸架していた大刀ブレードを抜かずにそれらを受ける。刀身が砕け散るが気にしない。捻った腰を戻すついでに右側の敵に拳を叩き込んだ。と思ったが上手くいなされた。


 全身に剣のような鋭いパーツを装備した格闘機。カスミの話によると〈イア〉という機体だったか。狙撃してきた方は、アタシが戦った〈ヂァオ〉という射撃型だろう。


「やはり来たわね」

『ちっ、これを凌ぐなんて。ホント厄介!』

『落ち着いてリン。作戦通りに』

『わかっているわ、フォン姉!』


 期せずして敵パイロットの名前を知ってしまったが、気にかけている場合ではない。〈イア〉がすかさず振動する爪の一撃を繰り出してくる。折れた大刀でそれを防ぎ、背中のウェポンラックからソードの一撃を抜きざまに浴びせて鍔迫り合いに持ち込む。


 だが、攻防の最中にも狙撃は止まない。どうにか立ち位置を入れ替えて対処しているものの、さすがにうっとおしい。何か手はないかと〈カロン〉の機体情報を探ると、モニター左端に小さなウィンドウが表示された。


[【翼鱗フェザースケイル】、再装填リロード完了]


「壊れたはずなのに…? なんだかわからないけど、ありがたいわ。―――【翼鱗フェザースケイル】!」


 バックパックから盾のような小型兵器が七基展開し、〈イア〉にまとわりつくようにして動きを封じる。その隙に背を向けて真上に跳ぶ。狙撃の殺気を感じた場所を探す。


 数十メートル離れた高台で片膝をついて狙撃銃をこちらに向ける機体、〈ヂァオ〉が見えた。


「そこね!」

『どこまでもでたらめ…!!』


 〈ヂァオ〉の両肩のポッドから発射される幾つものミサイル。


 頭部からの【弾雨バレットレイン】でそれらを撃ち落としつつ、脚部バーニアを噴かせて高台へ急行する。


 あちらの狙撃能力は厄介だが、直撃しなければ威力は大したことはない。数発なら掠っても問題ない。


『舐めないで。…マナブースト、【飛爪フェイヂァオ】!』


 唐突に〈ヂァオ〉内部のマナ反応が膨れ上がり、放たれた弾丸にうっすらと青白いエネルギーが宿った。弾速が段違いに上がっている。


 掌からマナバレットを撃ってギリギリ相殺できたが、着地を強いられてしまった。


「急にマナの量が増えた? まさかあの粒子砲の機体と同じように…!」

『もう防がせない。ここで潰す』

「まったく、厄介ね」

『私も忘れないでくれるかしら!』


 一度後退しようとしたところに背後から〈イア〉が接近してくる。【翼鱗フェザースケイル】はまだ健在なのにどうしてと驚きつつも、気配に向かってソードを振り抜く。だが。


『喰らいつけ、【輪牙ルェンイア】!!』

「か、はっ……」


 斬撃はかわされ、逆に〈イア〉の両腕から展開された爪がチェーンソーのように高速振動し、こちらのフレーム剥き出しの装甲に浅くない傷を刻む。致命傷ではないが衝撃で後ずさってしまった。


「急に、なによ。二機とも出力が上がってる…。やっぱり、こいつらもマナの貯蔵タンクを…?」

『聞こえてるわ、黒ピカのパイロット。どう、私たちの機体の力は? 恐れ入ったかしら!』

「ふん。大したことないわね、こんなもの。すぐにまたぶっ飛ばしてやるわ!」


 そうだ。前世で戦った鬼どもと比べれば、こんな状況大したことない。兵器ロボットに乗って戦っている今は扱える力の規模が違うし、近接戦という弱点もカバーできている。


「アタシは『最強』よ、負けたりしないわ!」


 武装にマナをみなぎらせて臨戦態勢を取る〈イア〉と〈ヂァオ〉の二機に対して、こちらもマナを隅々まで纏わせたソードを中段に構え直した。

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