第二話 デビュー戦
灯籠送りで開かれる武芸祭りでは、ルールによってあらゆる武器の使用を許されている。
普通なら剣や槍、弓矢、ハンマーのような一般的武器で戦うものだが…。
「はー…。まさか、
『ルールで禁止されていないからなぁ! ハハハハ、降参するなら今のうちだぜ!』
一回戦の相手、先ほど絡んできた大男、名前はノークスというらしい―――は、あろうことか全長四〜五メートルある人型兵器WDを持ち出してきた。見た目や装備はシンプルで、よく見かける量産型だろう。一部独特の形状なのは専用機の証か。
確かにこの世界ではある種平等に力比べができる武器には違いない。ただしそれはお互いWDに乗っていれば、だ。
そして客観的に見て、彼我の戦力差を絶望的にしているのは。
『しかも素手だとぉ!? 笑い過ぎて腹が壊れちまうぜ!』
そう。一方のアタシが選んだ武器は…素手、ステゴロ、つまり拳オンリーだ。
観客もあり得ない組み合わせにどよめいているのが聞こえてくる。まあ、当然だ。普通なら惨敗する未来しかあり得ない。
普通、ならね。
「これが冗談かどうか戦ってみればわかるわ。さっさと始めましょうよ」
『イカれてるぜ、まったくよ! そんなに死にてえなら、望み通りにしてやる!』
「それでは! ハルカ=アベノ選手vsノークス=リアド選手による第一試合、開始ィ!」
試合開始の鐘がなると同時に、相手の
人の身など遥かに凌駕する踏み込みとスピードで迫る巨体に対して、アタシがやるべきことは左右の掌をゆらりと掲げて待ち構えるだけ。
鋼鉄の塊が大質量で迫り来る。だが、人の形をしている以上、弱点もそこに倣うものだ。片足が踏み込んだ瞬間だけはその場にとどまるのなら、たとえ数秒の話だとしても潜り込んで触ることはできる。
『ちょこまかと…。なにするつもりだよ、えぇ!?』
「こうするのよ!」
物質が備える、その物質たらんとする構成式。マナの流れとも呼べるソレにほんの少しだけ干渉して歪める。
「―――【
マナの流れを操ることで、WDの脚を動かしている駆動部分を刹那の間、現在の座標上に縫い留める。
そうするとどうなるか。全力疾走している最中に足が止まれば、人がどうなるか想像してほしい。
「当然、コケるわよね?」
『なっ……!?』
操縦している男の動揺が漏れ聞こえたがもう遅かった。バランスを崩した
無理な負荷が掛かったのだろう。機体脚部からは破損を示す煙と火花が散っている。これはさすがに勝った。
「武器破損により、戦闘続行不能! ハルカ=アベノ選手の勝利ー!!」
高らかな審判の宣言を聞きながら、アタシは結果に満足しつつも、あごに手を当てて考え込んでしまっていた。
WDは人の姿をしている兵器である以上弱点も人と同じ。それは証明できた。であるならば、次に考えるべきは、利点も人と同じになり得るということ。
その為にはただ操縦するだけのではなく、己が半身として使役出来れば―――
「ふふ…。思っていたより面白そうね。ワクワクしてきたわ!」
倒されて意気消沈する対戦相手も、口をあんぐり開けて驚いている観客席のシャルも全て無視して、アタシは新しい力を手にする未来を楽しみにするのだった。
そんなこんなで。
二回戦目以降も特に苦労することなく試合を制していき、ついに決勝戦となった。
それ自体は予想通りだったのだが、問題なのは相手だ。
目の前で満面の笑みを浮かべている、艶やかな黒髪ポニーテールと刃のような目つきを持つ長身の少女に疑問を投げかける。
「……どうして姉さんがここに?」
「ふふ、悪いか? 愛する
いやそんな姉心とか知らないけど。
まったく…。父といい姉といい、我が家にはおせっかいばかりか。
カスミ=アベノ。彼女はアタシの実の姉で、膨大なマナを保有する【
まあ…今の実力を確かめたかったし、丁度いい。
「久々に手合わせしてちょうだい、姉さん」
「うむ。手加減はなしだぞ、ハルカ!」
つくづく、火力バカな姉だ。しかし単純ゆえにかなり強いのも事実。武人と呼ぶに相応しい気迫に加えて、マナの量が桁違いである。
しかも、以前最後に手合わせした時よりも流れの揺らぎが少ない。コントロールする力も相当鍛えているらしいことがわかる。
対するアタシは拾っておいた木の棒を下段に構える。いぶかしむ表情を見せたカスミだが、これでいいのだと軽く微笑む。
「それでは、カスミ=アベノ選手vsハルカ=アベノ選手による最終戦、開始ィ!」
試合開始の合図。初撃は取られた。
ふわりと風が吹くような気軽さでカスミの右足が前に出る。高速の突きが迫る。纏ったマナが螺旋を描き、ドリルのように大気を削った。
「おぉー…」
我が姉ながらなんという威力。だが、戦いにおいては力が全てではない。
握った木の棒に残されているマナの残滓に
強化した棒を下段から軽く上に振り上げ、襲い来るマナの螺旋に添えるように当てる。
横にいなして軌道をずらす。逃げ場を失った威力が大地を穿つ。
剣術はまだほとんど学べていないが、これくらいはできるものだ。格闘術の要領で間合いの把握、見切りは得意になった。
「さすがだが、いつまで続くかな!」
「限界までかしら」
「余裕そうだな!!」
続けて振るわれる斬撃はどれも、膨大な密度のマナを束ねて “斬る” ことに特化している。
そうしてカスミの突撃と斬撃に耐えて打ちあうこと数分。非常に地味な絵面が続く中、ついに均衡は崩れた。
「どう、して…!」
「これがマナコントロールの賜物よ、姉さん」
優勢に見えた姉がいきなり片膝をついて、持っていた刀を地面に落とした。肩で息をしていて疲労を隠せない様子だが、無理もない。
アタシが取った戦法はただ一つ。
木の棒に残っていた、木が元来備える “吸収” の概念を最大限に引き出すことで、剣と打ちあうごとにカスミからマナを奪い続けた。その結果がこれである。
「姉さんは、もっとマナの流れる向きにも意識を向けるべきね」
「く…さすがだ、我が妹…」
限界が来たのか、ぱたりと倒れ伏した姉を見下ろしつつ、もっと効率的かつ迅速に勝負を決める方法が必要だと感じていた。こちらも結構体を動かして疲れてしまった。
何度目かになる勝利に観客がどよめくが、それも聞き飽きた。色々試したいこともあるし、早く帰って新たな修行案を練ろう。そんなことを思うアタシだったが、それを行動に移すことは叶わなかった。
ウゥウウウウウウウウウウ!!
にぎわう祭りの場に似つかわしくない甲高いサイレンが、突如として歓声を引き裂いた。
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