エピローグ

「広末首相、消費税24%に引き上げ。しかしそれ見合う世界最大の社会福祉制度設置により、支持率は驚異の72%…っか。相変わらずやり手だね~。」


そう言って私は新聞を机にポンと置く。


そして胸ポケットからライターとタバコを取り出し、タバコに火をつけると、次はパソコンを開き、カタカタと検索を始める。


「…日本のGDPは世界ランキングで未だ3位であるものの、2位の中国を超す勢いで迫っている。英国メディアは『今の日本国民はまるで一人の指揮官の下で働く軍人のようだ。絶対にリタイアしないほどのセーフティーネットを基盤として、一人一人が国のために動いたからこその経済成長だろう。日本人の国民性がなければ、この社会主義体制は成立しない。』と評価している…。なるほどね。まあ実際、みんな犬になりましたからね」


私はにやつきながらフーッと煙を吹かす。部屋の中に広がる煙は轟音で回している換気扇に吸い込まれる。


「さてと…、今日も仕事しますか…」


私はガタが来てギシギシと音がうるさく鳴る椅子から立ち上がって背伸びをすると、タンスへと向かい、一張羅の上下黒ジャージを取り出して、着替え始める。

冬も越え、春が顔を出してきた3月。もう気温も上がってきた頃だ。

着替えが終わると、デスクの上に置いてある、タバコ、ライター、スマホを持って外に出る。


「今日はどんな情報を売りつけてやろっかな~」


日本一の情報屋という看板を背負っている私だ。毎日膨大な情報が入ってくるし、自分で収集している。だからそうそう食いっぱぐれることはない。

だが今の日本は政府が一番。政府の情報を絶対とし、皆それ以外は眼中にない。アホらしい幸福論に洗脳された人のお眼鏡にかなう情報を提供するのはかなり難度が高い。


ぶらぶらと街を歩いていると、わりかし人通りの多い所に出た。皆が忙しそうに働いている。

この二年でサラリーマンの人が増えた。そして反対にホストやキャバクラなどの水商売の店が減った。まぁ…、そういうことだ。お国の方針がそうなんだろう。



ブー…、ブー…、ブー…――


ポケットの中でスマホが震える。私は通話ボタンをタップする。


「…はい。もしもし…。――あぁ、それなら首尾良く進んでるよ。今は知り合いと一緒に計画立ててる。――うん。わかった。それを調べれば良いのね。了解。――何言ってんの。私は日本一の情報屋だよ。舐めてもらっちゃ困るって。」


「――わかってる。八咫烏、潰すよ。そっちの方が面白い。」


ピッ


…やっぱり今の日本、つまらなくなったからな。前までは日本推進党が革命起こす方が面白いと思ったから、そっちに協力したけど。


私はポケットからタバコとライターを取り出し、タバコに火をつけ、煙を吹かす。周りの人が化け物を見るような顔で私に嫌悪の感情をぶつけてくるが、構わず吸い続けた。だってタバコは美味いから。


「知らない方が幸せ」とか言う幸福論に当てはめれば、規制されているタバコの味を知っている私は不幸なのだろうか。でも今の私は幸せだ。



どうだっていい。もう犬は見飽きた。



烏を地に落としてあげよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ナンバー8 シジョウケイ @bug-u

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ