第2話 狂気の出会い

いわく、ウチの学校の怪談話の中にこのようなモノがある。


「開かずの間のオカルト部の部室には放課後、女子生徒の幽霊が現れる。その幽霊はとても美人で男を誘惑し、あの世に連れていてしまう。」


高校生にしては鹿馬鹿しい作り話だろうが、実際にこのオカルト部の部室で去年、自殺した生徒がいるのだ。その事件が原因でオカルト部は廃部になってしまった。

自殺したのはオカルト部の部長であり、才色兼備の持ち主であった乱場寛太らんば かんた。何を隠そう自分の自慢の兄であった。兄の自殺は交通事故で無くなった恋人の後追い自殺だと言われている。実際にその様な遺書も自室から発見されている。

しかし、自分はそれに納得する事はできなかった。確かに兄は恋人を亡くしてからどこかおかしくなってしまった。ただ、何かを必死に足掻いているようにもみえた。夜な夜な何かを調べ、研究しているのを隣の部屋にいた自分は知っている。確かな確証など無いが、この開かずの間のオカルト部の部室を調べるだけの動機としては充分だった。

放課後の学校、周囲に人気が無い事を確認して部室に鍵を差し込む。


ガチャリ


兄の部屋で見つけた部室で見つけた謎の鍵だったがやはり部室の鍵だったようだ。開かずの間は呆気なく開いた。

誰も居るはずのない部屋の中に一人の女子生徒が立っていた。その女子生徒はカラスの濡れた羽のような美しい黒髪、雪のような白い肌を備えた噂の怪談の通りの美人だった。しかし、自分が最も驚いた事は


しょうねぇちゃん?」


その姿が自分の初恋であり、死んだ兄の恋人の清井星子きよい しょうこと瓜二つだった事である。


「驚いた。似たような気配がすると思い姿を現したが、寛太にそっくりじゃあないか。君は一体何者なんだい?」


謎の少女の口から兄の名前が出る。その口調はどこか兄に似ている。


「俺はその寛太の弟の乱場雫蓮らんばだれんです。君はもしかして清井星子きよい しょうこさんの親族の方でしょうか?」


現実的に考えると妹とかだろうか。自分と似たような事情なのかもしれない。


「なるほど、弟か、そっくりなわけだ。しかし、清井星子きよい しょうことは忌々しいな名前を口にする。僕には結局、その名前が与えられ無かった。そうだね、僕は清井星子きよい しょうの娘の清井神影きよいみかげとでも名乗ろう。」


どこからツコッミをいれたらいいのか。いや、コレは触らぬ神に祟りなしというヤツだ。詮索するのはやめよう。呆然としていると彼女は更にまくしたてるように喋る。


「ところで弟くん、ここは何も見なかった事にして出ていてはもらえないだろうが、さすがの私も寛太と瓜二つの君を消すのはためらわれる。」


と更にわけの分からない事を言い始めた。


「すみません。俺は亡くなった兄について知りたいんです。なので、兄が使っていた部室を調べさせてはくれませんか?その為にこの学校に入学したようなモノなんです。」


「フム、理解した。ソレなら僕が協力してやってもいい。ただし、世の中には知らぬが仏ということもあるぞ。」


「覚悟の上です。どのような事実であれ知りたいのです。」


「そうだなぁ、実を言うと僕も寛太の遺品をここで探していたのだがね。どうも不届きな輩達が寛太の亡き後にソレを盗んでいったようなのだよ。だから弟くんが探しているような物はもうココには残っていないのだよ。」


「そんな‥‥」


いきなり道が途絶えてしまった。


「だが、回収する算段はある。寛太の遺品はヤバイ物だらけでね。絶対に何らかの問題が起きる。ソレを調査すれば手がかりをつかめるはずさ。君、この部室以外の事で何か変な噂や事件があるのを聞いた事は無いか?」


普通なら馬鹿馬鹿しいと呆れる事だろう。だが、兄が何かヤバイ事をしていたのは自分が一番知っている。そして実際にこの学校では今とある事件が話題になっていた。


「最近、放課後に残っていた不良集団が一斉に倒れるという事件が起きた。意識を取り戻した連中いわく、クスクスという不気味な笑い声を聞いたかと思うと、激痛が走りやがて体に力が入らなくなっていったとの事だった。実際に倒れた連中の体から何かに刺されたような跡が見つかったのでヤバイ薬剤による幻覚ではないかと噂されているが真相は解っていない。また、倒れた連中が貧血状態だった事から生徒達の間では放課後の吸血鬼事件と話題になっている。」


と自分が聞いた事を伝えると彼女は


「ビンゴだ。ソレを調査しよう。無論、弟くんも協力してくれるね?」


と笑顔で彼女は逆に俺に協力を要請してきた。


「え〜と、調査の協力って具体的に何をすれば‥‥」


変人とはいえ、初恋の人物と瓜二つの顔で迫られては断われ無かった。後に俺はこの判断を大きく後悔することになる。


「そうだね、君には悪いが的になってもらおうと思う。準備は僕がやる。君はピンチになったら僕を呼ぶだけでいい。」


わけが解らないが、面倒な事は何も無さそうだ。


「呼ぶって、アドレスでも交換しますか?」


「悪いが僕はスマホ何て持っていない。」


そう言うと、彼女は俺の手を握った。綺麗な手が触れる。ドキドキして頭が真っ白になる。


「コレで契約パスができた。君が念じれば僕を召喚できる。あっ、念じる時は目をつぶって、僕が許可するまで目を開けたらダメだよ。でないと僕は君を殺してしまうかもしれない。」


「あぁ‥。」


何か変な事を言っているが、頭が回らない。俺は適当な返事を返して、部室を後にしてしまった。





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