25話 最期の敵。
★更新間隔が空いたので各人の状況おさらい
<トール、ジャンヌ、グリンニス及び少女艦隊>
ロスチスラフの遺志を引き継ぎ、サヴォイア領邦の毒殺部隊を根絶やしにすべく進軍中。
<テルミナとイヴァンナ>
青鳩の本拠地であるグリフィス領邦へ向かっている。
<フェオドラ、エカテリーナ>
オソロセア領邦にて領邦内の混乱を収拾中。
<ダニエル、ニコライ、青鳩上層部>
さらなる混乱の種を仕込むため、ファーレン経由でトスカナ領邦へ向かっている。
そして、マリ、オリヴァー、コルネリウス、ブリジッド達は、イドゥン太上帝やマリの実母の情報を求め地球地表世界のカムバラ島へ。
その島で、ラムダとは異なる神を祀る
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招かれるままに一行は、ハイデンと呼ばれる板間に案内されていた。
板間の奥は一段高い壇となっており、そのさらに奥は鈍い光を放つ金箔で覆われた器具や朱色に染まった柱で構成されている。
誰の目にも神事や祭事に用いられる場所なのだろうと推察は出来た。
カムバラの民から「巫女様」と呼ばれる少女は壇に上がると、膝を曲げて板の間に座りマリ達を見回した。
「どぞどぞ。皆さんもご遠慮なく」
彼女の表情と身振りから、板の間に座れと言っているのだと各人も理解したのだが、床に直接座るという習慣にオビタルは慣れていない。
何より、まず解決すべき問題がある。
「あなたは何を言っているの?」
聞き覚えのある音節だとは感じながらも、マリは「巫女様」とされる少女の言葉を一つも理解できていなかった。
このままでは今回の会見に意味が無くなるのだ。
「あわわ、そうでした。そうでした──少々お待ちを」
彼女は慌てた様子で紅い腰巻から細長い円筒状の器具を取り出した。
「驚かないで下さいね」
そう言って彼女は微笑むと、後ろ髪を手早く結い上げた後に、自身の
高周波の機械音と共に、脊髄からメタリックな筒が飛び出し転がり落ちる。
「ひっ」
オリヴァーの口から小さな悲鳴が漏れた。
「f@sふぁkj%!」
彼女はこれまでと異なる音節を放ちつつ、腰巻から取り出した別の筒を、自らの脊髄部分に穿たされた穴に差し込んでいく。
調子を確かめるかのように何度か首を振った。
「あ、あ、あ──本日は晴天なり。本日は晴天なり──分かります?」
明らかにオビタルとは異なる存在と分かる一連の所作だったが、ともあれマリ達と同じ言語が彼女の口から語られるようにはなった。
「改めまして。拓哉様をお慕いする永遠の巫女姫、ミコですぅ」
言葉が理解できるようになると、益々と毒気を抜かれる自己紹介に聞こえる。
「ここはメーティスの支援を受けられない場所なんです。だから、全てがスタンドアロンになっちゃいまして──」
「な、何? メーティスだと?」
思わずオリヴァーは腰を上げた。
メーティスという名を知らぬオビタルは居ない。
「ならば、悪魔の手先ではないかっ!」
カイゼル髭を震わせ、オリヴァーが怒声を放った。
カムバラ島で暮らす地表人類との繋がりを強くする為に、この場所を訪れて巫女に平伏した事もあるオリヴァーだったが、彼女と直接に言葉を交わした経験など無い。
むしろ、まともな会話も出来ない白痴を巫女などと祀る自身の遠縁達を眺め、オビタルとしてさらなる高みを目指さねばという思いを強める結果となっていた。
オリヴァーとしては、ケシ栽培とヘロイン精製が滞りなく行われ、溢れるほどの利益が適正に分配されていれば良かったのだ。
「悪魔──ですか?」
不思議そうな表情をミコが浮かべる。
教会の経典に拠るならば、メーティスとは女神ラムダと対になる存在、つまりは宗教的には悪魔を意味するのだ。
メーティスは超越知性体群であり、彼等の推し進めたエクソダスルーティンこそが、女神ラムダによる世界創生の起点となったとされている。
エクソダスルーティンが何を意味するのか、そして世界創生は先史時代との歴史的断絶を意味するのか──この点について明確に応えられる神学者は未だ存在しない。
「悪魔かどうかは視座によるのでしょうけど──、ま、皆さんお座り下さいませ。ささ」
ミコの発する妙な圧に押され、マリ達は板の間に腰を降ろした。
正座は無理そうだと考えたマリは斜めに足を崩して座り、コルネリウスとオリヴァーは不慣れな様子で胡座をかいている。
ブリジッドのみは拝殿入口付近を守るかのようにして立っていた。
「皆さんの言葉、オビタル語──というよりエスペラント語亜種なのですが、言語分類的にはラテン系言語という事になります」
「ふむん、エスペラント語──」
聞き覚えのある用語だったのか、コルネリウスが小さく呟いた。
「まあ、何語かなんてどーでも良いですね。とりあえず意思の疎通が図れるようになった事が重要ですっ」
その点については、マリ達にも異論が無い。
「ミコに何かを尋ねに来たのでしょう? 分かる範囲でばんばんとお答えしましょう! 勿論、知らない事の方が多いんですけども──」
頼って良いのか否か、些か心もとない台詞を告げて自らの胸を叩いた。
「まず──」
「なあ、デミウルゴスって──」
「いつ帰してく──」
マリ、コルネリウス、そしてオリヴァーの声が重なった。
「──おっと、悪いな。嬢からでいいよ」
「──くっ──俺は後でいい」
両名から質問権を譲られたマリは、会釈と
「まず──ここは、どこなの? 私にはここがカムバラ島と思えない。というよりも、地球かどうかすらも分からない」
辿ってきたルートは目隠しをされていた為に分からなかった。
だが、手を水で清めた際に見えた白く巨大な塔は、カムバラ島へ船で接舷した際にも目に入るであろう大きさだったのである。
つまり、何らかの手段で遠方に転移したとマリは考えていた。
地球を訪れた記憶の無いグリンニス・カドガンが、カムバラ島の砂浜でマリの母と映像に残っていたのも、その辺りに原因があるのだろうと推測したのだ。
グリンニスは遥か遠方の地から、気付かぬうちにカムバラ島へ転移を──、
「ここも、地球です。皆様が鎮座する場所こそ、神原市にて
幾つか意味の分からない単語はあったが、地球であるという事実だけは共通理解となった。
「なら、カムバラ島の外には出てないってことなのか? いや、となると何だってデミウルゴスが──」
無二の親友、否、兄弟とも言える故ガイウス・カッシウスから、存在の揺り籠と伝え聞いていた白く巨大な塔の名がデミウルゴスなのだ。
デミウルゴスを生涯に渡って追い求めた友柄への弔意から、コルネリウスとしても明確にしておきたい部分である。
「その辺りをミコは上手に説明できないんですけど、古典時間として表すならば、凡そ三千年前の認知事象面に来た事になります」
オビタルにとって帝国開闢以前の歴史とは、詳細が伝承されていない神話の時代とも言える。
彼等に残された史科は、先史時代より遥か昔に遡る古典文明に関わる内容が大半なのだ。
「デミウルゴスが皆さんの認知事象面──ええと、つまり世界に存在しないのも当然です。皆さんが暮らすアフターワールドの揺り籠となっているのですから」
アフターワールドという言葉に、マリとオリヴァーは素早く反応を示した。白痴に成り果てたブリジットですら一瞬だけ瞳の中に知性の欠片を宿らせている。
「どういう意味? それは銀冠に約された
「嬢ちゃん、残念ながら違うんだよ」
同じ女神を奉じながらも、グノーシス船団国は黄泉としてのアフターワールドを否定していた。
アフターワールドを実際に存在する異なる真の世界と見なし、そこへ至る道標を求め彷徨う民であると自らを規定したのだ。
但し、カッシウスの啓示を知るコルネリウスの解釈は何れとも異なった。
「俺達が殺し合う世界こそがアフターワールドだ。──が、その世界を支える亀の甲羅では、全てが遡行し終局ならぬ原初の無へと走り続けている」
「あら、オジサマは良くご存知のようですね」
「──昔のダチから聞きかじっただけさ」
「ははぁ、なるほど。ご友人は糞女──こほんこほん。えと、
「その名は知らん」
コルネリウスは肩を竦め口を閉ざした。
「あれ、そこは聞いてないんですかね。何だか話がややこしく──でもでも、トオル絡みの人が来たら親切にしろと言われてますし──(ぶつぶつ)」
眉根を寄せ俯いたミコは長い独り言を呟いた後にようやく顔を上げた。
「う〜ん、長い話になりそうですから場所を変えましょうか」
固い床以外の場所に案内してくれるというならば誰にも異存が無かった。
「先々の戦いで、恐らくは重要な役割が皆さんにも有るでしょうし──」
「戦い?」
復活派勢力、青鳩、さらにはスキピオ率いるグノーシス船団国。
マリの脳裏に、トールと敵対する幾つかの勢力が浮かんだが、自身が何らかの形で役立てる状況は想像できなかった。
非力な女男爵メイドに為せる事などたかが知れているのだ。
──トール様の役に立てるなら嬉しいけど……。どうかしらね。
「戦いです。遥か遠方より迫り来る敵。超越知性体群メーティスは、彼等に対する怯えからエクソダス派が最大勢力となったほどです。暴を極めし純然たる悪の申し子である奴らの名は──」
ミコは天井を指差し高らかに宣した。
「ホモ・サピエンス!」
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★ラムダ教会の教義について
[転] 15話 アナタハ、メガミヲシンジマスカ?
https://kakuyomu.jp/works/16817330648495045364/episodes/16817330651575015916
★エクソダス
古代イスラエル人のエジプトからの脱出。出エジプト記。
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