SS 巨乳学園 不可説不可説転☆裏②

同姓同名あるいは似た名前の人物が出ますが別人です。


...........Demiurge. β0.0072992700729927


 ◇


 大司おおつかさ恭一きょういちは、潰れかけた寺の住職だった。


 不埒な性格で、恐ろしく自分勝手な男であり、仏の道からほど遠い男だった。

 宗派は浄土宗とはいえ、幼少期の苦労が原因で極楽浄土など信じていない。

 

 そんな彼には好きなモノ――いや異常に愛するモノが二つある。


 ひとつはサスペンス系の二時間ドラマだ。

 濡れ場があればなお良し。


 もうひとつは――巨乳である。


 とはいえ、後者の嗜好については公にしていない。

 残り少ない檀家が離れる恐れがある為だ。


 そんな彼が、天啓のように出会ってしまった二時間ドラマがあった。


 『巨乳学園 那由他』

 

 西暦203x年――。


 僻地に存在する全寮制ミッションスクールを舞台に連続殺人事件が起きる。


 ~略~


 軌道上にひと筋の閃光が現れる。


 その光は、仏堂でCreepy Nutsに乗せて木魚を叩く大司恭一を打った。


 辺りを揺るがすほどの轟音が響いた後、ロウソクの灯りが消える。


 檀家に嫌われている彼の失踪が判明するのは半年後の事となった。


 ――天が下した罰だったのかもしれない。

 

 ◇


 目覚めると何も見えない暗闇で身を丸めていた。


 ――な、なんじゃ? どこなのだ?

 

 身を起そうとしたが、全身を縄で縛られており身動きも取れない。


 周囲に響く耳障りな高周波音と振動から車のトランクだと思い至り、ますます大司はパニックに陥った。


 だが、悲鳴を上げようにも、猿ぐつわのせいで声を出す事も叶わなかった。


「うーうー」


 と、呻くほかないのだ。


 寺の仏堂にいたはずが、何時いつの間にか訳の分からぬ状況となっている。


 恐怖の数十分が過ぎた後、ようやく高周波音と振動が止んだ。


 ――て、停車したのか?

 

「おい、オッサンをそろそろ出してやれ」

「へい」


 外から聞こえる声に救われたという安堵感より、ガラの悪そうな口調に対する怯えの方が勝った。


 他人を、しかも偉大な僧侶をトランクに押し込めるなど、極道か反グレとしか思えなかったのだ。


「よっと」


 車のトランクが開き、入って来た陽光の眩しさに大司は目を細め再び呻いた。


「うーうーうー」

「へへ」


 声音から想像した通りの人相をした男が、大司の視界に入る。

 なお、プロレスラーのようにガタイも良い。


 ――ぜ、前科十犯ぐらいの悪党ではないかっ。

 ――儂は殺されるに違いない。うう、こんな事ならばケチらずミカにバーキンを買ってやり、無駄にデカい乳を揉ませてもらうべきだったのだ――くううう。


 この期に及んでも、南無阿弥陀仏ではなく、現世への心残りが先に湧く。

 檀家が離れるのも頷ける信心の無さである。


「ホー助、ちぃと楽にさせてやるよ」


 そう言ってプロレスラーは、まず大司の猿ぐつわを取った。


「ここなら叫んだって誰にも聞こえねぇからさ」

「くはっ――いや――ここは――わっわわわわ」


 ようやく口許が解放された喜びを味わう間もなく、大司は縛られたまま男に抱えられた。


「お姫様みたいじゃないか、ホー助」


 車外には、もうひとりの男が居たのである。

 サングラスを掛けたスーツ姿の男は、楽しそうな表情で告げた。


「い、いや、人違いではないかな?――儂はホー助という者ではなく、大司恭一という立派な寺の住職で――」

「ああ?」


 スーツ姿の男が、ドスの効いた応えを返す。


「山道で頭打っておかしくなりやがったか?」

檀家だんかに聞けば――いや、ボケ老人ばかりだな――それよりスナックBoccoのミカに――はぐぅ」


 鼻頭を殴られ、大司は言葉を続けられなくなった。


「何が檀家だ、コノヤロウ。テメェは用務員だろうが」


 ――用務員?


「あ、あの――」

「ほらよっと」


 プロレスラーは、抱えていた大司を地面に放り投げる。


「ひぃぃ――イタ、痛、いたたた」


 縛られた状態では受け身も取れず、身体中をしたたかに打った。

 気付けば、砂利道のほとりには広い池が見える。


 ――ま、まさか!?

 ――沈められるのでは?


「じゃあな。猿股ホー助さんよ」

「え――」


 ようやくであるが、その名が大司の記憶野を打った。


 ――猿股――ホー助だと?


「池でゆっくり泳いでこいよ」

「いだ、いだだだ」


 プロレスラーが大司の身体を容赦なく蹴り転がしていく。


「あいや、あいや、待たれよッ!!」


 ――分かった、分かったぞッ!


「ホントに口数が多くなりながったな。テメェのように融通の利かない馬鹿は――」

「心を入れ替えた。この猿股ホー助、心を入れ替えたああッ!!」


 ――これは夢だ。


「あん?」

「全力で盗んでくるとも。そしてアンタらに渡す」


 ――先週の金曜日に見たドラマではないか。

 ――紺ブレ巨乳JKが、わんさか出るのでフホホしたせいか、夢にまで出てきたのだな。


「ほう――随分と殊勝な事を言うようになったな」


 スーツ姿の男が疑わしそうに大司を見た。


「約束する」


 ――ドラマが始まって早々に水死体で上がる用務員が居たわい……。

 ――寡黙で生徒思いの用務員。

 ――チンピラどもの悪企みを断ったせいで殺されたな。


「儂は、アンタらの言う事を――」


 ――何てアホな男だろうかと思って見ていたのだが……。


「――な~んでも聞く」


 こうして、大司恭一改め、猿股ホー助の、聖マルコ巨瀬こせ乳ノ木学園における用務員生活が始まったのである。


「フホ、フホホ」


 ――夢じゃ夢じゃ。巨乳JKちゃんと戯れるぞ~い♪

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