幕間
SS 巨乳学園 不可説不可説転☆表①
同姓同名あるいは似た名前の人物が出ますが別人です。
...........Demiurge. β0.0072992700729927
◇
秋川トオルは、親元を離れ全寮制男子校に通う高校生だった。
温厚な性格で、至って真面目な男であり、常識も分別もある。
インドア派とはいえ、幼少期から続けている剣道は部活動でも活かされていた。
そんな彼には好きなモノ――いや異常に愛するモノが二つある。
ひとつはノベルゲームだ。
伝奇的要素があればなお良し。
もうひとつは――巨乳である。
とはいえ、後者の
心秘かな嗜みというわけだ。
そんな彼が、天啓のように出会ってしまったノベルゲームがあった。
『巨乳学園
西暦203x年――。
僻地に存在する全寮制ミッションスクールを舞台に連続殺人事件が起きる。
端的に言えばひぐ●しの劣化版なのだが、ほとんどの登場人物が紺ブレ巨乳JKという特徴がある。
どこに需要があるのかという内容なので当然ながら人気は無かった。
シナリオやキャラデザも稚拙だったかもしれない。
だが、秋川トオルはこのノベルゲームを愛した。
自分が夢に見た世界なのだ。
この世界に入り、活躍する己を妄想しつつ全シナリオを攻略した。
~略~
軌道上にひと筋の閃光が現れる。
その光は、秋川トオルが暮らす学生寮の一室を打った。
辺りを揺るがすほどの轟音が響いた後、部屋の灯りが消える。
目立たない彼の失踪が判明するのは三日後の事となった。
――天が下した罰だったのかもしれない。
◇
目覚めると座り心地の悪いシートに座っていた。
窓の外では、見慣れない山景色が後ろへと流れていく。
雲ひとつない空に、青い空が拡がっている。
「ど、どうしたの?
秋川トオルに話しかけたのは、隣に座っている女子高生だ。
学生寮にいたはずが、何時の間にかバスに乗っている。
車内を見回すが、他の乗客は居なかった。
「え、あ、いや――」
これ以降、彼の事を秋川と呼ぶ人間は、一人を除き存在しない。
ゆえに本書においても、トールまたは後述するフルネームにて記載する事とする。
「――えっと、このバスはどこ行きですか?」
そう言いつつも、トールは話しかけて来た女子高生をマジマジと見ている。
全寮制の男子校に通っている為、久方ぶりに同年代の女子を目にしたのかもしれない。
不安よりも、隣に座る美少女――否、巨乳JK――否、紺ブレ巨乳JKへの興味が勝ったのだ。
「な、何、ジロジロ見ているのよ」
紺のブレザーが、白いブラウスを包んでいた。首元には、ストライプエンジの紅いリボンタイがある。
タータンチェックのプリーツスカートからは白い脚が伸びていた。
何より、トールの目を奪ったのは、紺ブレの胸元に在るエンブレムの盛り上がりぶりだろう。
――な、なんて素晴らしい巨乳なんだッ!
「いや、というより――」
失礼が過ぎると自覚し、ようやく胸元から目を離したトールは、女子高生の瞳を真っすぐに見つめる。
「――どなたですか?」
「――!!」
いよいよ女子高生の顔に衝撃が走る。
「あ、あなたって――相当に物覚えが――悪いのね――」
額に人差し指を当てながら、溜息をひとつ吐いた。
女子高生の中で、事態を解釈する術を見付けたようだ。
「さっきも言った通り――クラス委員の加藤・ロベニカ・美樹よ」
――え!?
「昨日、転校してきたばかりのキミが、夜のうちに寮を脱走して町の交番に保護されていると聞いて――」
――
「ずぼらな担任教師に代わって、私が迎えに行ったのよ」
――そして、紛う事なき巨乳ッ!!
「な、何なの?」
「ロベニカ――さん――」
――ま、まさか……?
「ひょっとして、このバスは聖マルコ
「――あ、当たり前じゃない――馬鹿にしているの?」
「違いますッ」
ロベニカが急速に不機嫌そうな表情となったため、トールは慌てて両手を振り否定をした。
何より、状況が呑み込めた安心感がある。
「なるほど」
ようやくトールは合点のいった表情を浮かべた。
――夢か。
聖マルコ
山奥に存立するプロテスタント系のミッションスクールながら共学で、なぜか、全員がクリスチャンネームで呼び合うという校則まであった。
この学園こそが、彼の愛したノベルゲームの舞台なのである。
「待てよ――転校生ということは――」
ロベニカの不信そうな視線など意に介さず、トールは独り言を呟き始めた。
自身の夢ならば好きにしようと考えたのかもしれない。
「――ボクは、引き立て要員なのか」
クリスチャンネームらしからぬミドルネームを名乗る転校生、
転校生という非モブ属性を与えられながら、脇役男子にありがちな不遇キャラだったのだ。
◇
「うわぁ」
教室に入り、思わずトールは感嘆の声を上げる。
――お、女の子がいっぱい居るぞッ!!
男子校の教室とは、すでに漂う香りが異なった。
思わず立ち止まって瞳を閉じると、大きく深呼吸をしてしまう。
「ちょ、ちょっと――」
連れ立ったロベニカは、不気味なものを見るような視線をトールに送った。
――共学って、やっぱり最高だなぁ。
生徒の半分は女子なのである。しかも、トールの願望を具現化させたかの如く――紺ブレ巨乳JKが教室を行き交っていた。
――もちろん、普通サイズの子もいるけどね。
最前列に座って、始業前から教科書に目を落としている真面目そうな女子に目がいく。
――眼鏡っ娘のアドリアさんだ。けど、実は殺人鬼に協力してるんだよね。
「ひょっとして――」
教室まで付き添ったロベニカが、入口で立ち止まっているトールを振り返った。
「――自分の席も忘れたの?」
「あ、そういえば――そうですね」
「まったく、もう――」
呆れた様子ながら、ロベニカは窓際に在る後ろの座席を指差した。
「あそこよ。隣に座ってるのが――」
「マリさんですね。はい、ありがとうございます」
「え?」
なぜマリの名前だけは憶えているのか――というジト目のロベニカを残し、トールは律儀に頭を下げてから自席へと向かう。
――ホント、みんな想像通りにカワイイなぁ――そして――大きい。
嬉しくなったトールは、お隣さんとなる鯖屋・マリーア・真理に軽く会釈をしつつ自席に座る。
マリは冷然とした眼差しを少し向けただけで、何も告げずに前方へと視線を戻した。
――マリルートに入ってデレるまで、絶対に笑わないんだよね。
ただし、デレてからの彼女は、並み居るヒロインの中でも最大級の破壊力を持つとトールは知っている。
――はあ――でも、ボクは佐吉だからなぁ。
引き立て役の、
少しばかり寂しい気持ちになったところで、始業を知らせるチャイムが響いた。
立っていた生徒達も自席へと戻って行く。
「おはようございますわ~」
能天気な声を上げ担任教師が教室に入って来た。
教師とは思えぬ煽情的なスーツを身に纏い、タイトミニから伸びる脚は黒いガーターストッキングで覆われている。
ドレスシャツの胸元も限界まで拡げているため、男子生徒達は彼女の話に一切集中できないという問題があった。
「あらあら、転校生ちゃんも戻ってきて、イヴァンナ先生もひと安心ですわよ~」
などと言って微笑む女の名は、
「ね、トール君」
担任教師にして、ひとり目の殺人鬼である。
原作通りならば――、
「は、はい」
――今宵、彼女はある女生徒を殺す。
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