第3話 ちゃんぽん屋編①

遊女屋が立ち並ぶ区画の入り口である大門を走り抜けた。


その後は見えた山に向かってとにかく走った。


山の麓から道ともいえない茂みに入りとにかく上へ上へと登った。


そうして俺はどうにか追っ手から逃げ切ることに成功した。


その山のだいぶ高いところにある木々が少し空いたところに座り、吹き出す汗がひいていくのを待った。


俺がいる場所から麓の方を眺めた。


俺から見て左から右に入江が深く差し込むような港がみえる。


陸から海のへ扇型の小島が飛び出していた。


遠目にもその島への人の往来が激しいのがみえる。


あれは出島じゃないか。


出島は1636年から1639円までは対ポルトガル貿易、1641年から1859年まで対オランダ貿易が行われた。


となると、先ほどの遊女屋が集まっていた区画は丸山遊廓だろう。


長崎の丸山遊廓は、東京の吉原、京都の島原と並んで日本三大遊郭にも数えられた。


俺は江戸時代の長崎にいるのだ。


そして推しメンも何故かここ長崎に転生している。


しかも花魁として。


前世では握手会で手を握るまでが限界だった。


だが今世は違う。


金さえあれば……最後まで……できる……。


俺は長崎港に日が落ちるのを眺めながら必死に金を稼ぐ方法を思案した。


しかし、名案が浮かぶことはなく、辺りはすっかり暗くなった。


「ぐーー」


空腹が限界に達した。


ああ、ちゃんぽん食いてえな。


突如、俺に稲妻が走った。


ちゃ、ちゃ、ちゃ、ちゃんぽん屋だ!!


ちゃんぽんとは長崎の伝統料理だ。


ちゃんぽんは「四海樓」という中華飯店で誕生した。


それは明治時代のことだった。


この時代が江戸時代ならば、まだちゃんぽんは存在しないはずだ。


今ならちゃんぽんの創始者になれる。


そうなれば俺は飲食の帝王となること間違いないだろう。


血が沸き立ってきた。


「ちゃんぽん屋を当てて、俺は推しを抱く!!!」


俺は空腹も忘れて長崎の夜空に向かって叫んだ。

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