第3話

ん…。


『フシューッ』


あれ、俺どうなったんだっけ…。


『フシューッ』


確か、


トラックに撥ねられて目が覚めたら真っ白な部屋で異世界に転移してもらうとか言われて…。


『フシューッ』


あぁ…。


そんであのクソ神に唐突に転移世界に落とされたんだったわ。


『フシューッ』


許さんあのハゲ神め。次会えたら残り寂しい髪の毛も全部毟り取ってやる。


『フシューッ!』


「んあぁぁ!なんだよもう妙に熱風が来るし!そんでどんくらい落下したか知らんけど何で俺は無傷なわけ!?ここどこだよ!?」


起きると森だった。


もう鬱蒼とした草木。しかも夕暮れが迫ってるのか日は沈みかけて月が…



月が2個ある!?本当にここ異世界なんだ…。



蒼い月と紅い月。



ほぇ〜綺麗だな。


うん、アホみたいな感想しか浮かばん。


しょうがないだろ。何せ異世界転移なんて初めてだし、こんな状況で風情もクソもあるか!


んでさっきから妙にくる熱風は何だよ!「フシューッ」って音も聞こえたけどさ〜!



周りを見渡してみると地面から生えてる2、3センチくらいの植物が発火していて———。




…後ろにドラゴンがいた。


「…ヒィッ」


紅蓮の体躯に鋭い鉤爪。


頭部には漆黒の双角。背中に生えている翼。




…あたり一帯が妙に暗いと思ったらコイツが翼を広げていたのか………。


なんでここにいるの?


まぁ俺のことなんか美味しいそうな晩飯にしか見えてないんだろうな!



ダメだ、目ぇ合わせたら殺される…。


息…いいんだよな?


転移して速攻で死ぬなんて御免だぞ!


あぁ〜クソっ!こんなことならもっと好きに生ければ良かった…。


トラックに撥ねられて死亡の上ドラゴンにも喰い殺されるってバッドエンドにも程があるだろ!?



…何でもいる世界とは聞いてるけどこんな御伽噺に出てくるようなファンタジックな生物といきなりエンカウントする俺氏、もはや前前世で何やらかしたのか気になってきた。


「あ、あにょ…美味ひくにゃいっしゅ!」


ドラゴンの巨体が30センチほどまで近づく。


『フシューッ!』


目の前にまた熱風を浴びせられる。


もう駄目だ!


俺は今日また死ぬんだな…。喰い殺されるって痛いんだろうな…。




せめて、ひと思いにやってくれ。



覚悟を決めて目を瞑った。




『……何か勘違いをしておらんかニンゲン。別に余はとって喰ったりなどせん。安心せい』


「しゃ、しゃべったー!」


『何を驚いておる…。別に竜種でも言語を発するぞ』


目を開けると「はぁやれやれ」って言わんばかりに首を振っていた。


「り、竜でも喋れるんですね…。アハハ、いやもうここがどこかすら分からなくて大変で大変で…」


『なんとニンゲン…お主、自らの意志でここに来たのではないのか?』


「いやいや!違います!ちょっとあの、え〜っとですね…」


なんていうか自分が別世界で死んで神から転移させてもらったことは黙っていたほうが良いと思った。本当に勘だけど。


『…フム、まぁよい。ニンゲン、我らの里へ来るか?』


「んぇっ?そ、それは竜が棲まうところですか?……俺、喰い殺されたりしませんかね?アハハ…」


間違いなく今のままだと野宿コースなので助かる申し出ではあるが竜の住処で美味しくいただかれるってことは勘弁願いたい。


『安心しろ。余の名において、決して他の竜どもには手出しはさせぬ。背中に乗れい』


それに、と竜は続ける。


『今、里でもニンゲンを1人保護しておってな、ニンゲンがもう1人増えたところで気にする奴はそうおるまいて』


クックックッと笑った竜。何故だかとても妖艶に見えた。


『さぁ、背中に乗るがよい。とは言っても、ものの数分で着くがな』


「へ、へぇ、失礼しまーす…。ここから近いんですか?」


『何、たったの1000キロほどだ』


1000キロ!?え?数分って言ったよね?!


ものの数分ってどんなスピードで飛ぶねん!?


戦闘機かよ!?


だが時すでに遅し。


『さあ行くぞ』と謎の竜とともにものの数秒で一気に降りられない高度まで上昇した。


そっからの記憶はあまり憶えていない。


俺、異世界転移してもうすでに二度気絶してるってすごくない?

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