第1話 後編

目覚めるとそこは何もない空間だった。


なーんにもない。ここまで何もないとか、せめて何かあってくれよ。


真っ白な空間にベッドが一つ。そこに俺は寝ていた。


死んだのだろうか?まあ死んだんだろうな。あんなデカいトラックが横転してきてたし。


避けようもなかったしな…。


生きている望みは早々に捨て、ここはどこなのかを考える。


「昨日も2時間睡眠だったからなんかスッキリしたな。この布団気持ち良すぎないか?」


今考えることではないことに疑問を持った。


いや、だけどこの布団やばいくらいふかふかしてるんだよ。なんだこれ?何でできてるか全く見当もつかないけどマジで布団が飛びそうなくらいふわっふわしてる!


それから体をペタペタ触り異変がないことを確かめ、布団から出ようとしたとき、目の前にヨボヨボの爺さんが現れた。


「オヌシには異世界転移してもらう」


「いきなりだな、じいさん。お決まりのテンプレだがこういう時は超美人の女神とか出てくるシーンだろ。女神じゃないのか」


誰も老いぼれはお呼びじゃない。見なかったことにするから帰れ。


「お?お?そんなこと言って良いのか?わしゃこれでも神々の中でも主神であるくらい偉いんじゃぞ?せっかくおぬしらがよく言う『ちーと』とやらを授けてやろうと思ったのに」


「申し訳ございません。ほんの出来心にございます」


「ふんっ、最初からそう言えばいいんじゃ」


くっ…まさかの主神級かよ!!すっごいメンチ切ってきたけど。


全くどいつもこいつもと目の前のヨボヨボの老いぼれが言って…いえ、主神様が何か仰っているが俺はこれから異世界転移するのだろうか。


つーか心も読めるのな…。(泣)


「主神様?えっと、俺はこれから異世界に転移するのでしょうか?」


「そうじゃ。これから転移してもらう。」


「チートを貰えるんですか?」


「ちーとはわしが直接授けるわけじゃないんじゃよ。誰が転移させるかで決まる。つまり格が高い神に転移して貰えばちーとは授かりやすいんじゃ」


「え?確定でチートを貰えるわけじゃないんですか?」


「そんなわけなかろう。まあ、わしが転移させてもせいぜい…人間が1000メートルから落下して生きてられるくらいの確率だったかのう…?」


無理ゲーやん!


何言うてんのこのジジイ。人間が1000メートルから落ちて生きてられるわけないだろ!


原型を留めてるかすら怪しいだろ!


「失礼じゃな!これでも高確率なのじゃぞ!そこいらの平々凡々の神どもはせいぜい人間が太陽まで自力で行けるくらいの確率だというのに…」


「それはもう0なんよ!完全な0%じゃねぇか!」


アホらしい!チートなんて貰えないのかよ!


「…もうチートとかいいから早く転生させてくれ」


「ぬ、ちーとは良いのか?」


「ああ、別に要らん。平穏な暮らしをさせてくれればそれでいい」


「ぬ〜ん…。なんじゃ、面白みのないやつじゃのう…。ちょーっと揶揄っただけなのに…男がイジけるのは見ててつまらんのう…」


「は?嘘なん?ちょっと、冗談でしょ?」


いや嘘かーい!…………とはならんわ!


「おいこらジジイ」


「あんなもの口からの出まかせに決まっておろう。なんじゃ信じた?信じた?グフフッ、可愛いやつじゃのうw」


最近の神は煽り系でも流行ってんのかな。めっちゃ腹立つ…。


笑い方キモすぎ…。


「…そこまで思われると流石に凹むぞ…」


「自業自得やんけ。おじいちゃん、落ち込んでるとこ悪いけどはよ転移させてくれん?」


このくだりいつまで続くのか知らんけど早く転移するならさせてほしい。


「ああもう、分かったわい。じゃあ簡単な説明だけするぞ。まず、おぬしの転移する世界じゃが、人間に魔族、魔物に精霊、神と、なんでもおる世界となっておる」


「え?そんなに種族がいるの?てか神もいるならアンタは転移しないのか?」


「ワシみたいな高位の神は転移できん。あと今からおぬしの転移する世界の神という存在は、…せいぜい半身半神の者や大衆に勝手に奉られたただの力のない者だったりのワシから言わせれば半端者たちじゃな」


「ああ…そうなの」


「よし、手を出すんじゃ。どちらでもよいぞ」


「?…こうでいいのか?」


「…よしっ。———ッ———、———。…今おぬしにわしから祝福を授けた。これで少なくとも簡単に死ぬことはあるまい」


「なんか言ってたけどなんて言ったんだ?」


側からみれば口パクしてただけにしか見えなかった。てっきりとち狂ったのかと。


「神の言葉は人間には聞くことはできん」


「へぇ…それで、どんな祝福が?」


「まだまだゆっくり説明してやりたいが…生憎と時間もない。何せ今からホリデーロードショーで魔女の宅配便があるからな!見逃すわけにはいかんのじゃよ!」


「おお、そうか!そりゃ大事だもんな!じゃあしょうがないか…とはならんわ!残りもちゃんと説明しようか?じいさん?」


「ぶっちゃけおぬしよりホリデーロードショーのほうが大事じゃ」


「おいこのハゲジジイ」


「てなわけで行ってら」


「ん?なに言ってぇぇぇぇぇぇぇえ?!?!」


真っ白な空間にひとつ穴が空いた。


Q.どこに?



A.床。



つまり俺はまともな説明は何ひとつされずにこの手の甲にある、王冠と雷のような祝福を授けられて真っ白な空間から転移する世界へと放り出されたのである。


「あっ、伝え忘れておったがわしの名は———じゃぞ〜!」


「どぉでもいいわ!!これなんとかしろぉ!」


落下の強風で何も聞こえねぇよ!!


「じゃあ達者での〜」


…主神だがなんだか知らんがあのクソ神次会えたら絶対コロス!




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