第三話 宝探しの幕開け
腰が痛い。
どうやらグールとの戦闘時に、体を捻ったのが良くなかったらしい。
「あの、なんか服が鉄臭いんですが…。」
不安そうな感じで、アリシアが尋ねてきた。
「じゃあ、この先の山岳にあるマーキュリーって町にでもいってみるか。」
「はい、そうしましょう。」
アリシアが、返事をしてから続ける。
「そういえばその町、結構栄えているらしくて、王都の2分の1ほどの規模があるらしいですよ。なんでも鉱山資源が豊富で、主に金属加工などの第二次産業などで生計を立ててるらしいですね。」
「へぇー、そうなのか。なら、このなまくらも少しはマシになりそうだな。」
自分の持っている刀に手を置きながら言う。
「そうですね。どうにも私にはそうも見えますが、大陸各地の名工が集まる町でもあります。きっと腕のいい鍛治士が見つかりますよ。」
そう言われて、少し興味が湧いてきた。
森を抜けて、崖を削って作られた狭い道を登って行く。
そして、後ろでアリシアが、ぜぇぜぇ言い始めた頃に町が見えてきた。
傾斜の激しい町並みに、煙突から出る白い煙と白の漆喰の壁が朝日に照らされて、輝いているように見えた。
「ここがマーキュリーか。ところで、あの光ってるのはなんだ?知ってるか。アリシア。」
街灯らしき物に吊るされた物を、指差しながら聞いてみると、アリシアは待ってましたと言わんばかりに説明を始めた。
「あれは熱球と言って、真空にしたガラスの中に入っているフィラメントを加熱して発光させているらしいですよ!あれはここにいた研究者達の努力と工夫の結晶なんです。ここが発祥の地でもあるんです。」
と、説明してくれた。
「そうなのか。意外と物知りなんだな。」
「意外は余計ですよ!」
そんな話をしながら、街を歩いて行く。
町では、色々な話声が聞こえてきた。
「なぁ、最近物価上がってきてるよな。」
「だな。どうせ国が物品の関税でも上げたんだろ。特に酒だな。ドワーフらがよく買ってる鬼殺し?とかいうやつが高くなったんだろ。そんで、金の周りが悪くなったと。」
「それだ。武器や薬が高くて、最近赤字続きでな。」
というものや、
「聞いたか?街道付近の草むらで切り出された人肉が見つかったらしいぜ。」
「マジで?でもなんでそんなものがあったんだ?」
「どうやら、そこからちょっと離れたところに、男と思われるバラバラな死体と、そいつの手帳が落ちてたらしくて内容は、村が飢饉に陥って親が子供をが食べたり、夫が妻を殺して鍋で煮たりと、そんな地獄から命からがら逃げ出してきた所、村のやつに追いつかれて殺されたと治安維持の奴らは見ているらしいな。」
「えらく物騒だな。最近飢饉になるようなことあったか?」
「さぁ?」
そんな人々の会話に少し気を配りながら、町を回っていた所、刀匠の話題が耳に入った。
「カルクさん、刀製作の腕はいいんだけど、どうにも頑固すぎだと思うんだよね。」
「私も。なんかこう、排他的?っていうのかな、ザ・職人みたいな?」
そこへ、話しかけてみた。
「なぁ、あんたそのカルクって奴は刀鍛冶なのか?」
「え?あぁ、カルクさんなら、ここの通りをまっすぐ行ったところにある武器屋さんだけど。あの人気難しいから、そう簡単には武器作ってくれないと思うな。」
「そうか。情報提供感謝する。」
と言って、アリシアの元に戻った。
「どうやら、あそこみたいですね。えーと?カルク・テールム店って書いてあります。」
外観はかなり寂れており、店名を読むのもやっとなほど苔やつるが巻き付いていた。
アリシア、読めたな。
「どうします?話を聞く限り、無駄足になっちゃうかもしれませんが。」
「まぁ、行くだけ行ってみるか。」
「わかりました。」
店の壊れ掛けの扉を、力を込めて押してみた。
やはり、錆びている。
もっと強い力で押してみてもガタガタ音がするだけで、びくともしない。
「あの、これ、多分引くことで開くんだと思いますけど…」
そう言いながら彼女が扉を軽く引くと、キィと音を立てて開いた。
……俺、もうボケ始めたか。
それはそうと、武器を鍛え直してもらうために中に入った。
店の中はそれほど荒れておらず、意外にきちんとしていた。
「さっきからドアを壊しそうなほど押してたのはあんたか。一体なにしにきた。」
カウンターにいた筋肉ゴリゴリのドワーフがそういう。
「いや、すまない。店の扉は大体押して開くものだと思っていた。」
「はぁ。」
カウンターのドワーフはため息をつくと、尋ねてきた。
「武器のオーダーメイドか?それなら、腕前を示してもらおうか。」
「いや、違う。俺は、」
と、要件を言い合える前にドワーフが言葉をかぶせてきた。
「言い訳なんざ聞きたくねーよ。来な。」
そういって、カウンターの下にしまってあったであろうバトルアックスを取り出して、店の裏手に出ていった。
「これ戦うのか?前の戦闘で腰が痛いんだが?」
「でもそれはもう2日くらい前じゃないですか。いけますよ。」
彼女は、グッドを突き出しながらそう言い放った。
「……。」
外に出ると、そのドワーフがバトルアックスを構えて名乗りを上げ始めた。
「俺の名前はカルク・テールムだ。ここの店主をしている。お前は?」
仕方ない。
「俺は第4階級冒険者だ。…残念だが、名は伏せさせてもらう。」
「いくぞ。」
カルクはそういうと、地面をえぐる速さで踏み込み、自分の頭めがけて斧を振り下ろした。
馬鹿げた速度だったがそれを刀でいなし、再度刀を構え直した。
するとカルクは、急に構えを解いて、
「フッ、いいだろう。」
そう言い、笑みを浮かべると、
「ついてきな。」
と言った。
中に入ってみると、カウンターで刀の設計図を広げて、ニヤついているカルクがいた。
「お前さんには、最高級の武器を用意してやらねぇとな。」
その設計図を覗いてみると、まさに精巧という他ない刀の設計がなされてあった。
「なぁ、俺は別に最高の刀が欲しいわけじゃないぞ?この刀を打ち直してくれればいいだけだ。それにこんな伝説レベルの刀を買う金はない。」
そういうと、カルクは、
「ははは。金なんぞ要らんさ。お前さんのような者にこそ作られた武器なんだからな。ただ、こいつを作る材料がない。アダマンタイトだ。それも、質のいいやつ。」
だとすると、ダイヤモンドやレニウムを多く含むものではない。
いや、あくまで武器の打ち直しをしに来たんだった。
「残念だが、俺にはその武器は必要ない。この刀を打ち直してくれるだけでいい。」
「それで、アダマンタイトのありかだが、」
だめだ、聞いちゃいない。
「それって、ここの近くの大洞窟に入らなければ見つからないんですよね。しかも、かなり下層の方じゃないと質の良いものは無いとか。」
「よく知ってるなお嬢さん。」
ちょっと待ってくれ。アリシアまでその刀の話題にのらないでくれ。
「お、おい。」
「はい、なんです?」
「あくまで武器の打ち直しに来ただけで、伝説級の武器を手に入れにきたわけじゃないんだ…。」
「…。」
「…。」
なんで、俺がおかしいみたいな空気になっているんだ。
「そういうことですか!」
なにが?
「アダマンタイトを探すためにも、武器や防具の強化は必要ですもんね!」
なんでそうなった。アリシア。
…なんか、もういいや。
「ずっと口挟んできてたのはそういうことか!よし、わかった。いいだろう。」
そういって、自分の腰に据えてあった刀を取り上げるとカルクは、鍛冶場に走っていった。
「…。」
結果的に、武器の強化をしてもらうことになりはしたが…。
「打ち直しと防具強化には2週間くらいかかるだろうから、完成したら来てくれ。」
と、鍛冶場のほうから言われたのでひとまず店から出た。
「なぁ、アリシア。」
「何ですか?」
「…宿、取りに行くか。」
「そうしましょう!」
東から指す陽光に照らされ、諦めの気持ちで清々しく歩き始めた。
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