第二話 隠された恥
地図を眺めながら、歩を進める。
湿地近くの村を出て、2時間ほど歩いてついたのは、木や草が生い茂った森だった。
地図には、「未開拓地」と書いてあった。
「このまま突っ切るが問題ないか?」
そう彼女に問うと元気よく
「はい!」
と、返事をした。
〜夜〜
日も暮れてきて、あたりが暗くなり始めてきたので、そろそろ野営の準備をしようと考えていた所、数件の廃屋群を発見した。
「今日は、あそこで休みませんか?」
「あぁ、そうだな。」
そうして、廃屋に入ってから数分後に雨がポツポツと降り始め、やがて大雨になった。
「助かりましたね。にしても、ここは元々村か何かだったんでしょうけど。今では見る影も無いですね…。」
そう言われて、廃屋の壁を調べてみると、あまり古いものではない事がわかった。
「もしかしたら、まだ誰かいるかもしれないぞ?寝ている間に襲われたりしてな。」
と、冗談のつもりで言ったのだが、予想以上に怖がっていたので、話題を変えることにした。
「そういえば、クラースはなんで俺について来ようと思ったんだ?」
そう尋ねると彼女はちょっと不服そうに、
「アリシアと呼んでください、」
と、言った。
「これからは、一緒に旅をするんですから、もっと打ち解けた感じてお願いします。」
「お、おう。」
「理由ですか。まぁ、強いて言うなら外の世界を見に行きたかったんです。あの村でなにもせず腐っていくなんて真っ平ごめんですよ。だから、私は貴方について行って色んなことを知るために冒険しようと決心したんです。」
彼女は真剣な眼差しで答えた。
「そう言えば、どうして村に来た時泥まみれだったんですか?」
あー、それ今聞いく?
「それはな……色々あったんだよ。」
流石に、苦手な蛇から全力で逃げるために走っていたら、泥沼に落ちて1時間くらい抜け出せずにいたなんていえるはずもない。
「まぁ、晩飯にしよう。えーと、シチューでいっか。」
そうして、シチューを作ろうとした所、牛乳がないことに気がついた。
「…持ってないとは思うんだが、アリシア、牛乳持ってないか?」
すると、彼女はキョトンとして、
「ないですけど…。」
と、言った。ですよねー。
今持っている材料で作れそうなものは、特に思いつかなかった。
「なぁ、アリシア、たしか料理が得意とか言ってなかったか?」
「はい!材料さえあれば、大抵の庶民料理は作れますよ!」
と、めっちゃ自信満々に、ドンと来い的な感じのジェスチャーをしながら言った。
「それならきょうの晩飯任せてもいいか?」
「もちろんです‼︎」
それから、20分くらい経って、
「出来ましたよー。」
と、声をかけられた。
矢を作る作業の手を止めて、火を焚いていたところまで行ったところ、あまりにも異様で神経を逆撫でする光景を目にしてしまった。
「え?…まさか、このムカデが晩飯か…?」
スッと、顔から血の気が引いていくのがわかる。
「はい、そうですよ。湿地や森などによくいる、ウェネーヌムカデの丸焼きです。私、昔からこれが大好物でして。あ、毒は抜いてあるので安心してくださいね。でも、頭は食べちゃダメですよ。牙の毒は取り除けないので。」
「……あぁ。」
言葉が出ない。マジでこれ食うの?これ食ったら何かこう、大切なものを失ってしまうような気がする。
「それでは、早速。」
彼女はそう言って、まるで豚の串焼き肉にでもかぶりつくかのように、色鮮やかに輝くムカデにかぶりついた。
バリバリと外骨格を割りながら、頭以外全てをあっという間に食べ終えてしてしまった。
「食べないんですか?美味しいですよ。」
俺も…ここまでか…。
そう思いながら、目を瞑って串を取る。
そして、全力でムカデにかぶりつく。
すると、食感はアリシアが食べていた時の硬そうな印象とは真逆で、外はパリパリ中身は虫とは思えないほどに肉が詰まっている。
皮のパリっとした鶏肉でも食べているかのようだった。
味付けも、実に美味で塩胡椒とレモンのような風味が爽やかでとても食べやすかった。
ムカデの肉でなければの話だが!
何度か吐きそうになりながらも食べきった。
晩飯を済ませた後、寝る支度をし、布を広げてその上に横たわった。
胃の中のムカデが、まだ食道を逆流してきそうな感覚があったがなんとか堪えた。
雨は止んで、虫の鳴き声しか聞こえない暗闇の中、そっと上体を起こす。
上を見上げると、満天の星が空を彩っていた。
月が少々傾いるのを見て、2時くらいであることを認識する。
そして、目が覚めた原因である悪臭の元を探しに立ち上がる。
肉の腐った匂いだ。
そこらの野生動物が、捕食されて死骸が残っているのだろう。
そう思い、廃屋周辺の森を探していると、離れれば離れるほど臭いが弱まっていることに気がついた。
「どうやら、嫌な予感がするな。」
2人で野営していた廃屋に戻って家の中を覗いてみた。
「チッ。予感的中か。」
そこには、アリシアの姿はなく、少量の血痕と浅い爪痕が残っているだけだった。
アリシアのものと思われる血痕は、別の廃屋に続いていることがわかった。
廃屋に入り血痕を辿っていくと、地下室への扉を見つけることができた。
梯子を急いで滑り降りて振り向くと、何かの赤い液体や、肉片と一緒にそのまま鍋に入れられたアリシアと、悪臭の元である何かの腐った死体、人喰い鬼として広く知られるグールが目に入った。
すかさず刀を引き抜き、構える。
それよりも素早くグールが、飛びかかってきたため、身を屈めてかわして他のグールに視線をやった。
数は4、どうせ他の場所にも巣があるだろうから8、9体くらいと見積もってもいいだろう。
他のグールと、距離的に孤立している鍋の右側の奴にに切り掛かる。
グールは、後ろに飛んで回避すると強靭な脚力で飛びかかってきた。
そいつの頭を踏みつけて、体を捻りながらふりかえり、後ろに迫っていたグールの首をおとす。
そして足元のグールに刀を回して首を切り裂き、とどめを刺す。
そこまですると、他のグールは壁の穴から逃げていった。
「おい、大丈夫か!」
鍋からアリシアを、出して上の廃屋に運んだ。
すこし落ち着いて、治療し終えたところで、ようやく気がついたらしい。
「ん、あれ?先に起きてたんですか。」
と、彼女は言った。
「あぁ。」
どうやら、今までずっと寝ていたらしい。
なにも知らないのなら無理に教える必要もないと思い、
「さっさと出発の準備をしろ。」
と言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます