仕事探しの旅をする
@takoyakitakoyaki
第一話 霧に揺蕩う人影
旧大陸を出発して、2週間くらい経っただろうか。
空腹が目立ち始めた。
水とパンをちびちび食べて、なんとか凌いできたが、そろそろ限界だ。
コンパスを覗いてから、地図をみる。
そろそろ着くはず。
そう、希望を持って虚な目を一旦閉じる。
前に向き直ると、霧の濃い視界の中にぼんやりと陸地が見えた。
「あぁ、あ。」
掠れた声が漏れる。
手で船を漕いで、急いで上陸すると足が地面に埋もれる。
どうやら浅めの湿地のようだった。
深い霧に背の高いアシや木が視界を遮るようにして生えていた。
足を地面から引き抜いて、歩き始める。
「どこなんだ?ここは。」
地図を船から取り出して、現在地を確認してみる。
現在地を探している所、突然前方から明確な殺意を受け取った。
瞬時に地図を投げ捨て、腰に据えてあった刀に手をかける。
「何者だ。」
そう叫びながら視線をそちらに向けると、影は深い霧の中に消えていった。
「何だったんだ。」
不思議に思いながら、泥まみれになった地図を拾う。
…ひとまず進むことにした。
今いる湿地は、新大陸の最南端の湿原らしい。
「一番近い村は…約1km先で、今はPM7:00な訳だから…着くのは大体30分後くらいか。」
深い霧の中を、歩き始めた。
村に着いた時間は、想定の4倍くらい遅れていた。
「まさか、沼にハマるとは…。」
泥まみれで村に到着した所、村人からは変な目で見られた。
ひとまず宿で一泊する為、銀貨を2枚払って風呂に入った。
「腰、いてーな。」
服を着て、パンを食べてベッドへそのまま飛び込んだ。
ベットはバリ硬だった。
次の日
朝食を食べて、ひとまず王都を目指すことにした。
村の門の付近でバッグの中身を確認していると、村人から声をかけられた。
「あの、すみません。」
「はい?なんです?」
「冒険者の方とお見受けします。依頼を受けていただきたいのですが、よろしいでしょうか。」
どうやら、なにか困っているらしい。
話を聞いてみると、湿地で変な影をみたり、その正体を暴きに行った若者が、行方不明になったりして、不安に思った村人らが調査依頼を出していたらしい。
路銀が少し、心もとなかったため、依頼を受けることにした。
「さて、ここに戻ってきたわけだが、どうしたものか。」
上陸した時の船がまだ残っていたが、ボロッボロにぶっ壊されていた。
「意外と高かったんだが、まぁいいか。」
諦めて、辺りを見回した。
やはり、湿地に入ってから感じている殺気は段々と強くなってきている。
「おい、そろそろ出てきてくれないか。俺以外には誰もいないから、安心してくれていい。」
すると、霧の奥から依頼のターゲットらしき奴が姿を現した。
「お前は、なにをしに来た。」
湿地の化け物がそう言った。
「貴様の調査さ。危険性が無ければ俺はこのまま帰るが、行方不明者が出ているんだよな。なにか、知らないか?」
化け物は、ついてこいと言わんばかりに背を向けて、歩き出した。
すると、化け物は、歩きながら話しかけてきた。
「お前は、ここらの人間じゃないな。あのボロ船で来たのか。」
「ボロ船か。あれ銀貨20枚だったからな。」
「それだぶん、足元見られてる。」
「え?」
そんな雑談をしていると、どうやら目的の場所に着いたらしい。
「ここだ。」
洞穴に目線を向ける。
化け物は、どうやら自分が入るのを待っているらしい。
仕方ないから、先に洞穴に入る。
少し降りていくと、明かりがついているのがわかる。
すると、後ろから急に押されて滑らかな坂を転げ落ちる。
ドン
「おわっ。」
ずっこけている所、顔を上げると、壁に磔にされた少女が目に入った。
どうやら、かなり痛ぶられたようだ。
彼女の足元には、血溜まりがあり体には切り傷、歯は所々抜けていた。
「おい、生きてるか。」
「あ、あぁぁ。」
掠れた声で何かを伝えようとしていた。
初級回復魔法で、声帯を修復して水を飲ましてみた。
「助けて。お願い、あいつを…殺して!」
どうやら喋れるようになったみたいだ。
「なぁ、あんたはここら辺にある村の者と関係のある者か?」
「えぇ…そうよ。」
さっきよりは、小さい声だ。
ひとまず磔状態を解除するために、刀で手首と足首の拘束具を切った。
すると、同時に彼女は崩れ落ちる。
そっと、受け止めてひとまず寝かせておいた。
後ろを振り向くと、奴がゆっくりと降りてきていた。
「これは…お前が?」
「…。」
「沈黙は肯定と受け取っていいのか?」
返答はない。どうやらそういう事らしい。
刀を構える。
化け物が地面を蹴って、飛びかかってきた瞬間に、姿勢を低くしながら刀を振り切った。
自分の頬にスッと血が垂れる。
後ろでは怪物が膝から崩れ落ちる音がした。
「最後に何か言うことはあるか?」
「…感謝する。」
「そうか…。」
奴の首に刃を通して、とどめを刺した。
負傷していた少女に、布を巻いて担いで村まで戻った。
村の前まで行くと村人が何人か来て言った。
「あ、あの、その子は大丈夫なんですか?」
「さぁ?医者に聞いてくれ?」
他の村人が、担いでいた少女を連れて行った。
「今回はありがとうございました。こちらをどうぞ、お納めください。」
「あ、どうも。」
報酬は、銀貨30枚だった。
正直、割に合わん。
もう、午後6時になっていたので今日も昨日と同じ宿に泊まることにした。
次の日
前日と同じように、村の前でバッグの中身を確認していると、昨日助けた少女に話しかけられた。
「もしよければ私も連れて行ってくれませんか!」
おい、俺仕事探しに旅してるだけなんだけど?マジで?
「あー、えーっと、体は大丈夫なのか?問題ないようなら好きにしたらいいんじゃないのか?」
「心配していただき。ありがとうございます!」
元気よく彼女は言うと、自己紹介をし始めた。
「私の名前は、アリシア・クラース、得意なことは料理とかです!これから、よろしくお願いします!」
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