第56話 彼女は術士です
翌日も自称商人の荀廉さんと一緒に行動し、夕方前に西新の都に到着した。
「都でのお泊りはお決まりですか?」
「いえ、これから宿を探すつもりです」
「それなら、是非私の家にお越しください。お寺には明日行かれるのでしょう?」
「はい、明日お参りする予定ですが、さすがにそこまで甘えるわけには参りません」
「いえいえ、そうおっしゃらずに――」
(春鈴ちゃん、どう?)
祥さんと荀廉さんが大人の会話をしている間、呪詛の中心がどこなのか聞いてみる。
(たぶん、西の方……かな)
西か……
「お寺は都の西で私の家も西にありまして、朝もゆっくりとお参り行けますので是非!」
西なんだ。
「こう言われるが、どうする、蘭玲?」
春鈴ちゃんを見る。
うんと頷いてくれた。
「星さん、ここまで言われるのでしたら……」
「おお! では早速ご案内します。私に付いて来てください」
荀廉さんの馬のあとについて、西新の都を西へと向かう。
「玲玲ちゃん、よかったの?」
祥さんが私の横に並び、小さな声で聞いてきた。
「春鈴ちゃんが呪詛の元は西にあるみたいと言うんですよ」
私も小声で返す。
「西なのね。それなら、むやみやたらに歩き回るよりも、こいつについていった方が良さそうね」
それに、万一の時も春鈴ちゃんや延くんがいたら安心だからね。
「さあ、皆さん、ここです」
「ここって……」
荀廉さんが案内してくれたのは、町のはずれにある古いお寺だった。
「申し訳ありません。ここが私の家だというのは本当です。どうか、話を聞いてくれませんか」
荀廉さんは馬を降り、私たちの前で
「どうぞ、頭をあげてください」
私と祥さんも馬を降り、荀廉さんの手を取る。
しかし、荀廉さんはピクリとも動かない。
「どうか、話を聞いてください」
祥さんと顔を見合わせる。
「わかりました。お話を聞かせていただきますので、お顔をあげてください」
「あ、ありがとうございます。皆さんこちらに」
私たちは荀廉さんにお寺の中に案内される。
「何かご事情がある様子。このお寺の状態とも関係があるのでしょうか?」
お寺は荒れていて、とても信者さんがいるような感じには見えない。
「私たちは祈祷や
「あ、お父さん!」
「え、お父さん帰ってきたの?」
その時、お寺の奥から延くんよりも大きな男の子と女の子が現れた。
「ああ、今帰ったよ。お母さんは?」
「まだ、起きないよ……」
「寝たままー」
「そうか……」
荀廉さんは子供たちを抱きしめている。
それにしても、起きないってまさか……
「すみません。皆さん、まずは妻に会っていただけますか?」
一度客間に通されて、その後案内された部屋の中には、一人の女性が横たわっていた。
「お目覚めにならないのですか?」
祥さんが代表して尋ねる。
「はい、もう一か月以上になります」
一か月……信と一緒だ。
「お話では、商家のご婦人のお体がすぐれないと言われていたようですが……」
「え……はい、商家というのはウソでこの国のとある……ここでぼかしても仕方がありませんね。実はこの国のお妃さまが原因不明の病で伏せっておられて、私はそれを治すことができる術士を探すように命じられています」
お、お妃さまが……
「ここにおられるのは?」
「私の妻の
「奥様は術士と仰られていましたが、お妃さまに何のために呼ばれていたのですか?」
「内容までは……ただ、何を頼まれても断ることはできなかったと思います」
何か事情があるみたいだ。
「それで、どうして私たちをここに連れて来たのですか?」
「私も妻にはかないませんが、これでも術士の端くれです。誰が力をお持ちかくらいわかります」
荀廉さんは力強い目で私の方を見てきた。
うう、どうしよう……
「ねえ、お母さん。おしっこ……」
あれ、延くん。いつもそんなこと言わないのに……
「急ぐの?」
「うん」
えっと、トイレはどこだろう……
「あ、厠はこちらになります」
「お姉ちゃん。私も行きたいから、延を連れて行ってくる」
春鈴ちゃんは延を連れて荀廉さんと一緒に出て行き、私と祥さんは荀彩さんの眠る部屋に残された。
「玲玲ちゃん」
「祥さん、どうしたらいいんでしょうか?」
「ふふ、玲玲ちゃんの気持ちは決まっているんでしょう。それがわかったから、延も春鈴ちゃんもあの人を連れ出してくれたのよ」
そうだったんだ。
「私、この人を助けたい」
「そう言うと思ったわ。ほら、あの人が帰って来るまでにやっちゃいましょう。術を使うところを見られない方がいいでしょう」
私は荀廉さんの奥さんの手を握り、祈った。
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