第44話 えっ! そうなの……わかった、我慢……する
「今朝届いたお母様からの手紙に書いてあったが、玲玲は信の嫁に来てくれるんだってね」
「は、はい」
私は信と一緒に他のみんなが離れに向かった後も謁見の間に残って、王妃さまと対面している。
「あたいとしては嬉しい限りなんだが、かと言って、はいそうですかと受け入れるわけにはいかないんだ」
来た。
信のお嫁さんになるのには、やっぱり身分とか家柄とかの資格がいるのかな。田舎の農家の生まれだからそんなもの持ってないし……
「おいらは姉ちゃん以外と一緒になる気はねえぞ」
「わかっているよ。でも、王家を守るためには必要な事なんだ。もし、
そうだよ。税金を上げられちゃったり、賦役を課されちゃったりしたら、生活するのにも困ってしまう。
「姉ちゃんはそんなことしねえよ」
「それも知っているさ。なんせ黄龍の巫女様だからね」
「王妃さま、巫女というのは資格になるんですか?」
「資格? 資格というか玲玲の前の巫女様である濮蘭様は、この国の最初の王妃さまだからね。そのお方が、巫女はこの国の民のために一生を捧げるものだと言っているんだから間違いはないさ」
そうなんだ。というか、おばばさんって王妃さまだったの!?
「ん? ということは、ばあちゃんっておいらの」
「ああ、うちの旦那は濮蘭さまの8代、あんたは9代目の子孫だね」
へぇー、信とおばばさんはあまり似てないけど、血のつながりがあるんだね。
「ばあちゃんはおいらにそんなこと一言も言わなかったぜ」
「初代の王妃様がいつまでも生きてちゃ都合が悪いから、一応死んだことになってんだ。だから、わざわざ話してないんだろう」
黄蘇さまの話ではおばばさんは300歳を越えているということだから、人には言えないよね不気味がられちゃうよ。ただ、それにしても、
「おばばさんは元の王妃様なのに、なぜあんな場所に住んでいるんですか?」
いくら内緒にしないといけないとはいえ、あの場所は元王妃さまが住むにはみすぼらし過ぎる。
「私も聞いた話なんだけどね。最初は離れにおられたみたいなんだけど、いつの間にか勝手にあの場所に小屋を作って移っちまったらしいんだよ」
なるほど、それで離れの造りは豪華だったんだ。
「あ、私たちが離れを使っていいんですか? おばばさんが戻られるんじゃ……」
「何度言っても戻らないし、かと言ってあの場所に建物を作ろうとしても、そんな必要は無いって怒るしでお手上げさ。むしろあんたたちが使った方が余計なことを言われないって、喜んでいるんじゃないかねえ」
王妃さまは肩をすくめながらそう話した。
「じゃあ、遠慮なく使わせてもらうぜ。それで、姉ちゃんはおれの嫁として迎えていいんだよな」
「おっと、本題が残ってた。もう一個調べて問題なかったらかまわないよ。ちょっと、蓮花を呼んどくれ」
蓮花さんって、あの蓮花さんだよね。
「お呼びでしょうか。王妃さま」
すぐに蓮花さんが現れた。たぶん近くに控えていたんだと思う。
「すまないね。玲玲を調べてくれないか」
「畏まりました。玲玲、こっちに来てくれる」
私は蓮花さんに連れられて謁見の間の外に出た。
「蓮花さん?」
謁見の間から出た途端、蓮花さんは立ち止まって動かない。
「玲玲! 元気そうでよかったよ」
蓮花さんは振り向きざまに抱きついてきた。
「わっわっ! うん、みんなも無事に帰れたよ」
「それにしても、信くんと一緒になるのか。玉の輿じゃん。あ、こっちに付いて来て」
蓮花さんは私の手を引いて歩いていく。
「信のことは知っていたの?」
「もちろん、王妃さま付きの侍女だからね。あ、ここだ。中に入ってくれるかな」
蓮花さんのあとについて部屋に入る。
部屋の中は真っ暗。窓が閉められているみたい。
「ちょっと待ってて、すぐに明るくするから」
蓮花さんは手に持った灯りを燭台に移していく。
「ここは?」
明るくなった部屋の中には椅子が一つと籠が置いてあるだけ。いったい何が始まるんだろう。
「玲玲を調べるために用意したんだ。それじゃ、着ている物を全部脱いでくれるかな」
ど、どういうこと?
「よしっ、玲玲は安産型だね。お産もそんなに苦労しないんじゃないか。あ、服を着てもいいよ」
「あ、はい。私って安産型ですか。蓮花さんは詳しいんですね」
話しながら籠の中に畳まれた服を手に取り、身に付けていく。
「詳しいというか王宮の侍女の子たちを見てきた結果だね。玲玲に似た体形の子が何人かいたけど、ほとんどがお産の時もそんなに辛そうに見えなかったよ」
そういえば蓮花さんは、侍女の子たちの体形をみんな知っているって言っていたな……
「そうだ、蓮花さんは赤ちゃんは? おっと」
「ほら、危ないからそこに椅子に腰かけて着なよ。私はまだ独身だよ。相手がいないんだ」
蓮花さんはズボンを履き損なって転びそうになった私の手を取り、椅子に座らせてくれた。
「ありがとうございます。祥さんなんてどうです。年も近いんじゃないですか?」
朱雀廟に向かう前の二人の様子は、なかなかいい感じに見えたけど。
「えっ! あいつって男が好きじゃないの?」
見た目からだとそう思うよね。
「いえ、女の子が好きなようですよ」
「そうなんだ……年はちょっと下か。あとは将来有望かどうかだな」
「なんだか、私付きの武官になるようです」
「王宮の武官! それも巫女様付き!」
蓮花さんの目の色が変わった。
「玲玲、ありがとう。祥か……有りだな。あ、準備ができたようだね。急ごう、王妃様がお待ちだ」
「王妃様、玲玲を調べましたが問題はありませんでした」
謁見の間に戻った蓮花さんは王妃様の前で頭を下げ、私を調べた結果を伝えている。
「ありがとう蓮花。下がっていいよ。さて玲玲、嫌な思いさせて悪かったね。これも決まりなんだ許しておくれ」
「は、はい」
ここまでしないと王宮に入ることができないって知らなかったよ。
「姉ちゃん、何を調べられたんだ」
信が何も知らない顔でこっちを見ている。
「内緒だよ」
言えないよ。裸にされて体中……あそこの中まで調べられたなんて。
「玲玲、信が成人してあんたと結婚するときにもう一度調べなきゃいけないんだ。それまで自分を大事にな」
「は、はい、王妃さま」
「心配しなくても、姉ちゃんはおいらが守る」
信の言葉はありがたいけど、絶対わかってないよね。これには君の協力がないといけないんだよ。
「あのね…………」
私は信の耳元で意味を教える。
「えっ! そうなの……わかった、我慢……する」
「すまないね、好いた二人同士が近くにいて辛いとは思うが、これも王国を守るためなんだわかっておくれ」
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