第37話 お姉ちゃん、私をギュっとして

「私がやるわ!」


 祥さんが蛇に向かって剣を振り上げる。


「当たった! 手ごたえもあった! ……でも、あまり効いてないようね」


 祥さんの剣は蛇の胴体に当たって、一瞬傷が入ったんだけどすぐに閉じてしまった。蛇はそのことに気付いているようだけど、大したことでもないというふうな感じだ。


「攻撃できるのはわかったけど、効果がないのなら意味がないわね」


「ダメだ。俺の弓は届かない」


 星さんがさっきから何度矢を放っても、蛇まで届かず下に落ちてしまっている。


「ありがとう。助かるよ」


「くぅーん」


 下に落ちた矢を拾ってきたオオカミ君の頭を撫でてあげると、嬉しそうにシッポを振ってくれた。少し元気になったみたい。


「私の剣は受けるのに星の矢を嫌がるということは、それが当たったら効くということだと思うのよね」


「たぶんそう。春鈴、奴は術か何かで俺の矢が届かないようにしていると思うんだ。何とかならない?」


 春鈴ちゃんは少し考えて、


「お姉ちゃん、私をギュっとして」


 と言って、こちらにやってきた。


「ギュッとするだけでいいの?」


「うん!」


 私は腰を落とし、春鈴ちゃんを後ろから抱く。

 私の腕の中の春鈴ちゃんは両手を合わせ何かつぶやきだした。


「もしかして、効いているのかしら。様子が変わったわね」


 そういえば、蛇の動きが不規則になって来たかも。


「ヤバっ、けろ!」


 信が私と春鈴ちゃんに飛びつき、突然の蛇の攻撃から守ってくれた。


「び、びっくりした」


「よくやったわ、信! 春鈴ちゃん、相手は嫌がっているからこのまま続けて、そっちに行かないように星と押さえておくわ。信はそのまま二人を守って!」


 祥さんと星さんが蛇の前面に立ち、剣と弓でけん制する。

 信はオオカミ君と一緒に私と春鈴ちゃんの前に立ち、蛇の攻撃から守ってくれるようだ。


 私は、この騒ぎの間もずっと何かを唱え続けている春鈴ちゃんの汗を、抱き寄せたまま拭いてあげる。


 蛇の動きは相変わらず不規則なままで、いつ来るのかわからない攻撃に祥さんたちも苦労しているみたい。


「星、とりあえず矢を射なさい! 至近距離なら当たるかもしれないわよ」


「さっきからやっているって! でも直前で落ちるんだよ!」


 後ろから見ているからよくわかるけど、星さんは何度も蛇に矢を放っている。でも、蛇に当たる前に落ちるから、何度か放ってはその度に矢を拾いに行っていた。矢の数に限りがあるから仕方がないけど、見ていてヒヤヒヤする。でも、持ち前の強運のせいか蛇の攻撃が当たりはしないんだよね。


「それでもやるの! 春鈴ちゃんが頑張っているのよ。お父さんになるんでしょ!」


「わ、わかった!」


 そっか、二人も気付いていたんだ。

 星さんは弓をつがえ、蛇に向かって矢を放つ。


「あっ!」


「通ったぜ!」


 一本の矢が蛇の胴体に刺さった!


 蛇がもがき苦しみだした。大きな口を開けてはいるが何も聞こえない。元々声を出すことができないのかもしれない。


「おじいさまの言った通りだ。この弓矢はお化けにも効く!」


 呪詛がお化けなのかどうかはこの際置いといて、蛇に傷を負わせることができるとわかっただけでもありがたい。


「私のも効くかしら」


 祥さんはのたうち回る蛇をかいくぐって、胴体に一刀を入れた。


「ダメだわ……」


 さっきと同じように剣は通ったものの、蛇についた傷は塞がってしまった。


「春鈴ちゃんは……まだ無理そうね」


 春鈴ちゃんはついさっきまで何かを唱えていたんだけど、今は私の腕の中でふぅふぅと肩で息をしている。へとへとになるまで頑張ってくれたのだ。


「玲玲ちゃん、何とかできない?」


「わ、私?」


「信の病気を治したように、この剣にも力を授けることができないかしら」


 さすがに病気と剣は違うと思うけど……


「お、お姉ちゃんなら……できるよ」


「できるの!?」


「う、うん……この呪術、お姉ちゃんの力とものすごく相性が悪いみたい。……それで私がお姉ちゃんから力をもらって結界を解いたんだけど、たぶん剣に力を込めたら大丈夫だと思うの」


 剣に力を込めるってどうやるのかな……でも、そんなこと言ってられない!


「祥さん。剣をこちらに!」


 祥さんがこちらに来ている間、信とオオカミ君が蛇の前に向かった。


「玲玲ちゃん、お願い」


 膝に乗せている春鈴ちゃんの上に、祥さんの大きな剣も乗せる。


 力を込めるってどうしたらいいんだろう……信の時は良くなってって思ったら自然に力が溢れていた。


 よし!


 私は剣に向かって邪気を祓えますようにってお願いする。


「玲玲ちゃん、また体が光って来たわよ」


「ほんとだ、姉ちゃん頑張れ!」


 祥さんと信の声が聞こえるけど、今はとにかくお願いするだけ……


「お姉ちゃん、もういいよ」


 春鈴ちゃんの声に目を開ける。あの時と同じように私の周りは少し明るくなっているようだ。


「玲玲ちゃん、貸してくれる」


 祥さんは大きな剣を片手でひょいと担ぎ上げた。


「すごいわね……。手に取っただけで分かるわ。これはさっきまでの物とは別物よ。それになんだか力も溢れてきてるし……ふふ、行ってくるわね」


 祥さんの後ろ姿が頼もしい。


「祥! 行けそうか? もうこいつが一杯みたいなんだ」


 信がオオカミ君を指さす。

 確かにシッポが下がってきてるかも。


「任せなさい! 信、あなたも下がってオオカミと一緒に玲玲ちゃんから力を分けてもらってきなさい」

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