第28話 はぁ! お前ふざけてんのか!
「ご覧の通りの有様でまともに食事を出すことができねえんだが、それでも構わなければいいぜ」
よかった。野宿しないですみそうだよ。前の村では、蝗の被害の片づけでそれどころじゃないって追い返されたんだよね。
「いいわ。五人、みんな一部屋でいいんだけど大丈夫かしら」
「一緒にね……ところで、おめえさんたちの関係を聞いてもいいか?」
「構わないわ、私と彼が夫婦で他は全部私の弟と妹よ」
祥さんと星さんが夫婦か……年齢的にはおかしくないよね。
「二人は夫婦ね……それで残りは兄弟か? ……似てねえぞ?」
「父親がみんな違うのよ」
父親どころか母親も違うし、ましてや一人は人間ですらないよって……ん? なんだかこの
「そうか……おめえたちも苦労してんだな。最近違法の人買いがいるらしくてよ。もしそうならお役人に通報しねえといけねえところだったんだ」
もしかして、あの村でのことがここまで伝わったのかな。
「あら、安心してこんなに仲がいい兄弟はいないわよ。ねえ蘭玲、信、
「うん」
「ああ」
「えへへー、お姉ちゃん」
春鈴はすかさず祥さんに抱き着く。
打ち合わせしてないのに意外とノリがいいな……
「おーおー、これは微笑ましい。部屋は二階に上がってすぐだ。鍵はコレ。真ん中の姉ちゃんもこの二人に挟まれてちゃいろいろと大変だろうが、腐らずに頑張るんだぞ」
ん?
「どういうこ……むぐぅ……」
「ほら、姉ちゃん行くぞ。疲れてんだろ」
私は信と春鈴に手を引かれあてがわれた部屋へと向かった。
「さっき、なんだかバカにされたような気がしたんだけど……」
部屋についたそうそう不満を口に出す。黄蘇さまから我慢するのもほどほどにって言われているからね。
「心配するな。あいつは姉ちゃんの魅力がわかってないんだ。何だったら………お、おいらが……」
「私はお姉ちゃんが一番好きだよ!」
春鈴ちゃんが私の胸元に飛び込んできた。
「ありがとう、春鈴ちゃん」
信はなぜだか口をパクパクと、それを祥さんと星さんが慰めているようだけど……なんで?
「これ、ほんとに美味しいよね」
今日の夕食は宿から提供してもらえないことは予測できてたので、黄蘇さまのところから携帯食をもらってきている。
お昼にも食べたんだけど、これって食べやすいし、塩味も効いていて美味しいんだよね。
「春鈴、なんて言うんだっけこれ?」
「おにぎりです。信兄ちゃん」
「に、兄ちゃん……」
信は春鈴のお兄ちゃんという言葉に、一瞬にして悩殺されてしまったみたいだ。その証拠にさっきまでおにぎりを握っていた手をそのまま春鈴ちゃんの方に伸ばし始めた。春鈴……やはりこの子は魔性の力を持っているのかもしれない。というのは置いといて、信は甘鏡さんの所では末っ子として育てられてたらしいから、年下から兄と慕われることに憧れを感じていたのだろう。私もそうだったしね。
「ほら、信。ごはんつぶがついた手で春鈴ちゃんを触らないでよ。水は貴重でなかなかもらえないんだからね」
信は春鈴ちゃんに一度伸ばした手をひっこめ、手にごはんつぶがついてないか確認している。どうしても抱き着きに行く気なのかな?
「ねえ、春鈴ちゃん。このおにぎりって全然傷んでないんだけど、こういうものなのかしら」
「元々塩を振っているから傷みにくいんですけど、今回は私が術を掛けてました」
信に頭を撫でてもらって、嬉しそうな顔で春鈴ちゃんが答える。
へぇ、春鈴ちゃんってそう言うこともできるんだね。というか信って春鈴ちゃんの頭をなでなでするだけでいいのかしら。私ならすぐにギュってしたくなるのに……信って奥手なんだよね。
「みんな食事をしながらでいいので聞いてくれ。明日からなんだけど、この先はそろそろ王権の力が弱ってくるはずなんだ」
星さんがおにぎりを片手に真面目な様子で語りだす。
「王権? ですか……」
そんな言葉、初めて聞いたような気がする。
「簡単に言うと、王国の力というか影響力よね。星」
星さんはうんと頷いた。
「それが弱くなるとどうなるんですか?」
「だんだんと王国の法が通用しなくなってきくるから、気が抜けなくなってくるんだ」
王国の中なのに、王国の法が効かないって……
「あっ! つまり、祥さんが持っている王妃さまの命令書が使えなくなるってことですか?」
「そういうこと、これまではお役人は味方だったけど、これからは敵だと思っていた方が間違いないだろうね」
なんだか怖くなってきた。だ、大丈夫かなぁ……
「心配しなくても、玲玲の周りにはすごい人たちが集まっているんだから何とでもなるよ」
そ、そうだね。これからは春鈴ちゃんも手伝ってくれるしね。
「……ところで星、信は動物を扱える。春鈴ちゃんは幻術というか妖術かしら。そして私はたぶん物理的な力が巫女の守り手としての能力だと思うのだけど、あなたは何かしら? それこそ誰が何をできるか知っておかないと危険だわ」
確かに星さんが何か能力を発揮したところを見た記憶がない。
「わ、笑わないで聞いてくれよ……」
星さんはもったいぶっているのか、一度そこで言葉を止めた。
「何かあるのね、早く言いなさい。笑わないから」
「た、たぶんだけど……」
「ほら、早く」
「勘が外れない!」
勘が……外れな……い?
「はぁ! お前ふざけてんのか!」
「ふざけていないって、それ以外思い当たらないんだってば、確かに他の人より知識があるかもしれないけど、それって玲玲に会ってから特別にわかるようになったわけじゃなくて、過去の俺が努力した結果なんだよ。それよりも昔からそんな感じはあったけど、今なら勘が外れる気がしないからたぶんそっちだと思うんだけど……」
「……黄蘇様は星のことも守り手って確かに言っていたよな。ということはやっぱりそうなのか?」
「ま、まあ。星はあてにせず、みんなで玲玲ちゃんを支えてあげましょうね」
「そんなこと言わずに俺も頼ってよ。ねえ玲玲、みんな。ねえってばー」
でも、勘が外れないって、本当はすごいことなんじゃないかな……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます