第27話 姉ちゃん、今度はなんか失礼な事考えてねえか?
「ひどいな……」
「ほんと、こんなになっちゃうのね」
黄蘇さまの
「今回の蝗は意外とすぐに収まるかもしれないね」
「どういうことですか?」
左隣で馬を走らせている星さんに尋ねる。
「黄蘇様が言ってたでしょう。このあたりに人が近寄らないように
人の手が入っていたなら雨が降らなくても何とか枯れないようにしていたはずだから、蝗が食べられるものもあったのかもしれないけど、放置されていたのならそうなのかも。枯れかけていた雑草ばかりだったもんね。
「これも、あいつらの仕業なのかなぁ」
私のすぐ前で馬を操っている信が呟く。
「信君、あいつらって西新の? さあ、どうだろう。元々蝗は干ばつとともに発生することが多いから偶然の可能性も高いよ」
知らなかった。干ばつがあったら蝗が出るんだ……
「星さんがそう言うことに詳しいのは試験で勉強したからですか?」
「うん、科挙の試験は昔起こったことから出てくることが多いんだ。干ばつのあとは蝗は発生しやすいというのもそうだけど、洪水のあとは頻繁に疫病が起こっているとか、遼夏の国ができる前のことも含めて歴史を勉強したね」
すごい、遼夏の国ができてから300年って黄蘇さまが言っていたけど、その前からだとすると……よくわからないけどものすごく前からのことを勉強しないといけないんだ。
「それって、何か役に立つのかしら?」
今度は右隣で春鈴ちゃんを後ろに乗せた祥さんが尋ねる。
「そうだね、災害を未然に防ぐことができたらいいんだけど、いつ起こるかわからないことに気を張り続けるわけにはいかないでしょう。でも、何か起こった時に次に何が起こるかわかっていたら、その予防はできると思うんだ。そうやって被害をできるだけ少なくするのが国を預かるものの使命じゃないかな。ねえ、信君」
「あ、ああ、そうだな……」
目の前の信はそういうと黙り込んでしまった。
な、なんだかよくわからないけど、場が固くなっちゃったな。ちょっと話題を変えたほうがいいかも。
「そ、そうだ。ねえ春鈴ちゃん、馬をもらってきちゃったけどよかったの?」
祥さんの背中に掴まっている春鈴ちゃんに尋ねる。
私たちの馬が繋いであった馬小屋に毛並みの美しい
「うん、他にも何頭か飼ってるし、野生の馬も近くにいるの」
今は子狐じゃなくて女の子の春鈴ちゃんが答えてくれる。服も目立たないように私たちに合わせたものを着てくれているんだけど、ただ、これだけ可愛かったら何着てても一緒なんじゃないかなって気もしている。たぶんみんな振り向くはずだよ。
それにしても野生のお馬さんもいるのか……食べ物もほとんど自給自足しているって言っていたし、黄蘇さまの庵は結構な広さなのかもしれない。
「どう?」
今度は私の前に座って、新しい仲間の黒鹿毛の子を操っている信に尋ねる。
「素直ないい子だぜ」
「あら、他の馬と違ったりしないの?」
他の馬と?
「……」
信は黒鹿毛の子に語り掛けているようだ。
「普通の馬には違いねえんだが、力はかなり上かも知んねえぞ。まだ全力出させてねえからよくわかんねえけど、いけそうな感じはするな」
「そうなの!? それじゃ、もし西新との戦争になった時、黄蘇様に頼んで馬を借りたら、勝てるんじゃないかしら」
春鈴ちゃんは野生の馬もいると言っていた。戦争のことはよくわからないけど、いい馬がたくさんいたら有利になるのかな。
「あ、それはお母さんが許さないと思います。人の世に関与することを嫌うので」
「そうだったわね、無理言ったわ」
黄蘇さま、最初は春鈴ちゃんが私たちに近づかないようにしていたくらいだもんね。
「でもよかった、春鈴ちゃんに会えて」
「えへへ、私もお姉ちゃんに会えて嬉しい。お母さんの言うことに背いて帰ってきてよかった」
んー、すぐにでもギュッとしたいよ。信、馬を寄せてくれないかな。
「姉ちゃん、余計な事考えているだろう。危ねえからダメだぜ」
ば、バレた!
「まさか、心を読んだの?」
信は人間に命令はできないようなことを言っていたけど、心は読めるのかな……
「信じゃなくてもわかるわよ。玲玲ちゃんの顔、デレデレだもの」
か、顔に……
慌てて両手で顔を隠す。
「だから姉ちゃん、危ねえからちゃんと掴まってなって」
そうだった。馬が三頭になったから、前よりも速度を上げているんだ。落ちたら怪我しちゃうよ。
「ごめん」
慌てて前の信の腰に手をやる……
今日初めて信の後ろに乗ったんだけど、体は小さいのに意外としっかりしているんだよね。祥さんの時も星さんの時も安心できたけど、信の方がいいかもしれない。だって、景色がよく見えるから。
「……姉ちゃん、今度はなんか失礼な事考えてねえか?」
「そうかな? 気のせいだと思うよ」
「あなたたち、じゃれてないで急ぐわよ。もし次の町で宿が取れないのなら、その先まで足を延ばさないの行けないのだから」
新しい仲間も増えた私たちは、いつものように星さんを先頭にして、蝗が通り過ぎた荒野を次の町へとひた走る。
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