第23話 人付き合いも久々で忘れておったわ
子狐の後を追って、建物の中に入る。星さん、信、私、祥さんの順番だ。
「すごい! 明らかにこの世のものじゃないね」
玄関を入った途端、星さんは興味深げにあちらこちらを眺めている。
驚いたことに建物の中はかなり広く、廊下の先にはいくつも部屋があるように見えるんだけど、外から見た建物の大きさと比べてもあまりに不自然すぎるのだ。
「それにしても、あの子どこに行ったのかしら」
玄関から見える範囲に子狐の姿は見当たらない。
「で、どうすんだ?」
「誰か来てくれたらいいんだけど……」
さっきまで人の気配はなかったのに、今は何かがいるような感じがしているんだよね。
みんなでどうしたものか思案していると、どこからともなく声が聞こえてきた。
『お待ちしておりました巫女殿、それにお付きの皆様もどうか中にお進みください』
四人で顔を見合わせ、その声に従うことにした。
星さんを先頭に、細長い板が縦に張られ、手入れが行き届いた廊下を進む。入り口で履物を脱ぐように言われたので、みんな素足だ。
「ほら見て、
普段私たちは家の中でも靴を履いて過ごしている。靴を脱ぐのは寝台の上や絨毯のところなど決まった場所だけで、こんなふうに家じゅうを素足で歩くのは初めての経験だった。だから、最初は足の裏が汚れたらどうしようと思っていたんだけど、これだけきれいならそんな心配もいらないみたい。
廊下の左側はすぐ外で、そこから柔らかな日差しが差し込んでいる。右側には薄い板に紙が貼られた扉のようなものがいくつも並んでいて、紙のところは透けているし、私たちが動くと少し揺れているから、もしかしたらそこには板が入ってないのかもしれない。星さんがいくつかの扉を開けてみようと試みているけど、板の部分にも紙の部分にもなぜか触れることすらできないようだ。
「どこに行ったらいいのかしら」
中にお進みくださいって言われたけど、部屋の中には入れないし、これだけ扉があったらどこに行ったらいいのかわからないよ。
『この先で主がお待ちです。このまま進みください』
「っと、まだ先みたいだな」
言葉に従い先に進む。
やがて、ある部屋の前まで来ると、スッと扉が横に開いた。
「ここってことね」
部屋の中は新鮮な芝のような香りのする青々とした敷物があって、その奥の一段高い場所に白い衣に赤色の
「巫女よ、
透明感のある美しい声に、誰もがその場で聞き惚れてしまっていた。
「ん? どうした。早く来ぬか。そこでは遠かろう」
「あ、はい」
私たちはその人の前まで進む。
「は、初めまして、
同じように祥さんたちも自己紹介を行う。
「ここまで大変じゃったの。まずはその座布団の上に座るがよい」
その場所には人数分の四角い小さな薄手の布団が置いてあり、私たちは指示通りその上に腰かけた。
「
やっぱり。
「黄蘇様は、もしかして神様ですか?」
これだけのことが起こっているんだ。神様であっても不思議じゃないよ。
「神でもないの、我は
妖なんだ。
その時横の扉が開き、黄蘇さんと同じ格好をした可愛らしい10才くらいの女の子が入って来た。
「お茶をお持ちしました」
「おお、そうじゃ。お茶を出さぬといかんのじゃった。人付き合いも久々で忘れておったわ」
女の子は私たちの前に湯気が立ち上がる緑色のお茶を出してくれた。私たちが普段飲んでいるお茶は茶色。こんな色の飲み物は初めて。祥さんも不思議そうな顔で見ているから、かなり珍しいんだと思う。
「緑茶じゃ、初めて見るのか? 毒などは入っておらし、人が飲んでも大丈夫なものじゃぞ」
「みなさん、温かいうちに飲んでください」
お茶を運んでくれた女の子はそう言うと私の隣に座った。
「何じゃ
春鈴と呼ばれた女の子は私の隣でうんと頷く。
私たちはそのままお茶を頂くことにした。だって、春鈴ちゃんが期待した目で見てくるんだもん。それに緊張してのどが渇いていたからね。とても美味しそうに見えたんだ。
「あー」
「なんだかホッとするわね」
なんと言うんだろう。これまで飲んできたどんな飲み物より、体も心も落ち着かせてくれる感じがする。
「美味しかったよ。春鈴ちゃん」
春鈴ちゃんのえへへって顔がものすごく可愛い。妹がいたらこんな感じなのかな。
あれ? この子の……
「黄蘇様は先ほどご自身を妖とおっしゃられてましたが、人間に危害を加えたりするおつもりはあるのでしょうか?」
せ、星さん。それ聞いちゃうんだ。
春鈴ちゃんに尋ねたいことがあったんだけど、それどころじゃなくなったよ。
「ふむ、人も人の世も我にとってはどうでもいいことなんじゃが、過去に一度だけ介入したことがあったのう」
「介入ですか?」
「ああ、だがおぬしらが心配しているようなことはしとらん。人に友がおっての、そやつ手助けをしただけじゃ。
濮蘭さんか……遼夏の国も広いから、さすがに名前だけじゃわからないよ。
「どのような方なのですか?」
「お主の前の巫女じゃな。もう300年程前になるかのう、遼夏の国を作るのを我と共に手伝ったのじゃ」
さ、300年前!? さすがに生きてないよ。と思い、みんなに同意を求めようとしたら、祥さんと信が何か考えている様子……
二人には心当たりがあるの?
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