第18話 ここで帰れってひどくない?

 体の芯が熱い。それも次第に強くなってくる。でも、辛いというわけではなく、どちらかというと力が湧いてくる感じだ。


「星、見て。玲玲ちゃんの体が光っているわ」


 確かに、周りが明るくなっているような気がする。


「ねえちゃん……なんか、楽になってきたかも……」


 信は目を開けこちらを見てきた。まだ焦点が合って無いようでぼんやりとしているようだけど、息遣いはさっきよりも落ち着いているみたい。


「信、ここにいるから寝てていいよ」


 空いている左手で信の頭を撫でてあげる。


「えへへ、気持ちいい……」


 信は目を閉じ、スースーと寝息を立てはじめた。


「あ、熱もちょっと下がっているよ」


 部屋に留まり私たちの様子を見ていた星さんが、改めて信の診察を始めた。


「玲玲ちゃん、気分はどう?」


 信の手を握っている私の周りは明るいままだ。


「体の中がポカポカしています」


「もしかして、それが巫女の能力なのかしら?」


 これが私の力なのかわからないけど、信が良くなってくれるのなら何だってかまわない。


「臓腑も動き出している。これなら何とかなりそうだ」


 よ、よかったぁ。あ、あれ?


「玲玲ちゃん! りんり……」


 祥さんの声が遠くに聞こえる……








「ん……ここは?」


 私、寝ちゃってたのかな。


「玲玲、目が覚めた。気分はどう?」


 声がした方に視線を移す。星さんは椅子に座って、私の方を見ていた。


「体が少しだるいかも……」


 ここは寝台の上かな。いつの間に横になったんだろう……あっ!


「信は?」


 慌てて飛び起きる。

 そうだ、信が熱を出していたんだ。


「まだ寝てるみたい。熱も引いているから、安心していいと思う」


 よかったー……あれ?


「信と祥さんは?」


 部屋の中には私と星さんしかいない。目が覚めて二人がいないと、あの時のことが浮かんで不安になる。


「別の部屋にいるよ。一応、信少年と俺たちって無関係になっているからね」


 そうだった。この先は一緒に旅することになると思うけど、念のためにこの村にいる間は他人の振りをしておくんだった。


「見に行くことはできますか?」


「もちろん、玲玲、起き上がれる?」


 私は寝台の上から立ち上がろうとする。


「あ、あれ?」


 くらくらしてうまく立ち上がれない。


「ほら、手を出して」


 星さんに肩を貸してもらい、信が寝ている部屋へと向かう。





 コンコン!


「開いているわよ」


 祥さんの声に導かれ、部屋の中に入る。


「祥さん、信は?」


「玲玲ちゃん、起きたのね。大丈夫……って訳でもないようね。ふらふらじゃない。ほら、ここに座って。信はそこ、まだ寝ているわよ」


 信は寝台の上でスースーと寝息を立てている。顔色もさっきよりもよさそうだ。

 私は祥さんが差し出してくれた椅子に腰かけた。


「よかった。信はあの後、目を覚ましましたか?」


「ええ、何度か目を覚まして、そのたびに玲玲ちゃんの様子を聞いてたわ。自分が死にそうになっていたのにね」


 ふふ、信らしい。


「姉さん、出発はどうするんだ? 信少年が元気になったのなら、俺たちはいつまでもここにいられないぜ」


「そうねえ……明日一日は様子を見るということでいいと思うんだけど、その先となったら怪しまれるわね」


 せっかく一緒になれたのに、ここで別れることだけは避けたい。


「まあ、明日の信を見て決めましょう。それよりもあなた、ここまで玲玲ちゃんを連れてきてくれてありがとう。信も大丈夫なようだし、もう帰ってもいいわよ」


 そうか……星さんは元々関係ないんだから私たちに付き合う必要はないんだよね。この先もっと危険になるかもしれないんだから、ここで別れた方がいいのかもしれない。


「帰れってどこに? ……えっ! もしかして家にってこと!? それってひどくない? 第一、玲玲は俺の嫁なんだから最後まで付き合うよ」


 嫁って……星さん、その設定まだ生きてんの?


「嫁と言っても、あの宿屋の親父から買ったというだけでしょう。それも裏なんだから、騙されたあなたが悪いのよ」


「い、いや、でも、玲玲も事が済んだら俺と一緒になってくれるって言ったから……」


 そんなことを言ったかな……


「玲玲ちゃん、ほんとなの?」


 うーん……


「思い出した! 星さんは私が言った話がほんとなら嫁にしないって言いました」


「あ、あの時は玲玲がウソ言っていると思って……」


「ということは、玲玲ちゃんが言っていることがほんとだと証明できたらいいのね。それでどうしたらいいのかしら?」


 あの時は確か……


「ね、猫! 信が猫を集めたら信じるって言ってた」


「ふーん、おいらが猫を集めたら、姉ちゃんはこいつの嫁にならなくて済むのか?」


 信! 目が覚めたんだ。


「あ、ああ、俺の目の前に猫を集められたら信じてやるよ!」


「わかった、ちょっと待ってな」


 信は目を閉じ何か呟きだした。


「信、あなた止めなさい! 病み上がりなのよ。それに今ここでネコを集めたら目立っちゃうじゃない」


「あれ、猫見れないの? ああ、残念。ほんとに残念だ。俺は納得いくまで、玲玲についていくからな!」


 しばらくはこの四人での旅か……ふふ、賑やかになりそう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る