第13話 猫、いませんね
星さんの荷馬車は王都に向かって進んでいる。
元々は西の道を通って王都は迂回する予定だったけど、祥さんに離れ離れになったらまっすぐ南の朱雀廟を目指すように言われているから、最短距離の王都を通ることにしたのだ。
ただ、祥さんと信の二人がどこにいるのかわからないので、途中にある村にも立ち寄って情報を集めているんだけど……
「いったい、何の話をしているんだろう……」
今日二つ目の村でも、星さんは村人と楽しそうに話している。
たぶんこの人とも初対面だよね。猫が集まっている場所が無いか聞いているだけのはずなのに、なんでそんなに盛り上がるの? 馬車で荷物番をしている私のところまで、その内容までは聞こえないから気になる。
あ、終わったみたい。
星さんは村人とにこやかに別れ、こちらに戻ってきた。
「お待たせ、玲玲。信少年はこの村にも寄ってないみたいだね」
「星さん、何と言って、聞いているんですか?」
「ん、いつ雨が降るのか知るために猫のことを調べてるって言ってるよ」
雨? 猫?
そういえば雨になる前に猫が何かやってたような気がする。
「そんなことで、皆さん信じてくれるんですか?」
「そんなことって……動物を侮ってはいけないよ。まあ、村の人たちも同じようなものだけど、結局、どんなことしてでも雨が降ってほしいんだろうね。みんな快く教えてくれたよ」
こんな胡散臭い人にまで……やっぱりみんな
「なんか失礼な事思ってない?」
「ううん、さあ、次の場所に急ぎましょう!」
「……まあいいけど、次は王都だよ。どうするの?」
そっか、この先はもう王都なんだ。
「王宮に寄ってみます?」
王宮にはおばばさんがいる。何か教えてくれるかもしれない。
「それは止めた方がいいだろうね。玲玲たちは誰かに追われてるんでしょ。たぶん見張られているよ」
王宮に行かない方がいいのか。うーん、他に信が寄りそうなところは……
「あっ、それなら寄ってもらいたいところがあります」
「何かあてがあるの? 俺も王都は久しぶりだから、場所は着いてから教えてね」
広い王都の中を
王都はその周りを高い城壁に囲まれていて、東西南北にそれぞれ二か所ずつ門がある。二か所なのは、身分によって使える門が決まっているからだ。
「星さん、どこから入るんですか?」
王宮は王都の北側にあるから、ここから一番近い北門を通れば王宮に近づくことになる。さっき星さんは王宮には寄らないと言っていたから、違う門から入るのなら立ち寄ってもらう場所の位置を確認しないといけない。私が王都にいたといっても、王宮の外のことはほとんど知らないし地図も持ってないからね。一度立ち寄った時の記憶を頼りに行くしかないのだ。
「ん? 北側から入るよ」
「えっ、王宮に近づくことになりませんか?」
「うん、そうだね。でも俺たちがあえて違う門から入ったら、余計に目立っちゃうと思うわない?」
そういうこともあるんだ。確かに王都に入る人たちを監視していたら、遠回りしている人を見かけたらとりあえず調べてみようとなるかもしれない。
北の城壁に到着すると、一般の人が使う門の前に列ができていた。
「なんで列ができているの?」
「えっ、知らないの? 王都に入るのには許可がいるんだよ」
そうなんだ。最初王都に来た時は王宮の馬車だったし、出るときは何も言われなかった。でも、そう言われてみたら、門の外に人が集まっていたような気もする。
「どうしよう……私、許可なんてもらってないです」
「大丈夫、俺に任せて。ただちょっと打ち合わせする時間は無いようだから、話だけは合わせてね」
列は意外とスムーズに流れている。みんな許可をもらっているということだろう。
すぐに私たちの番がやってきた。
「はい、次! 許可証を見せろ!」
「はあ、こちらになります」
星さんは荷物入れの中から木の札を出し、それをお役人に見せる。たぶん、あれが許可の
「こ、これは!?」
許可証を見たお役人は、星さんの顔をしげしげと眺めている。
「……し、して、そこの娘は?」
「私の許嫁です。結婚式にこれを着せてやろうと思い、王都の仕立屋まで行くところでございます」
星さんは先ほどもらったきれいな
というか、許嫁って……
「ほぉー、これは見事だ。素晴らしい花嫁衣装ができることであろう。娘よ、良いところに嫁ぐことになったな。さあ、もうすぐ暗くなる。早く通るがよい」
お役人は笑顔で私たちを通してくれた。
星さんに突っ込みたいのはやまやまだけど、一応王都に入ることができたから良しとするか。
荷馬車は王都を南北に走る通りの一つを南に向かって進んでいる。この道は祥さんたちと王宮を出た時に最初に通った道だ。
キョロキョロと周りを見渡すが、怪しい人影は見えない……よね。
「あのー、星さんって何者ですか?」
御者台の星さんにできるだけ近づき、尋ねる。私たちの会話を聞いている人はいないと思うけど、万一のためだ。
「ただの田舎の
勘当って、何をやらかしたんだ……ま、まあ、あまり首を突っ込まない方がいいような気がするし、これ以上の詮索は止めておこう。でも、お役人さんの驚き様からすると、星さんの親ってどこかの偉い人なのかも。
馬車は王都をさらに南へと進む。
「あ、そこの角を左に曲がってください」
この街並みには見覚えがある。祥さんが追っ手を撒くために曲がった角だ。
「左ね」
星さんは手綱を操り荷馬車を東へとむける。
この前はこの先で祥さんが路地に入ったんだよね。
でも、今日はここはそのまままっすぐ進んで、お店の前に猫は……いないな。代わりというか、落ち着かない様子の男の人が立っている。お店の人っぽい格好だけど、どうしたんだろう。
「星さん、一応このお店なんですけど……猫、いませんね」
星さんに心当たりがあると言った場所はこのお店。信が実家だと言った
「へぇ、ここなんだ……そう、わかった」
星さんは荷馬車をゆっくりと進ませ、お店の前で止める。
「あのー、すみません。この辺りでこの生地を買ってくれるところはありませんか?」
は、話しかけちゃうんだ!
「そ、それは! 是非当店で買わせてください!」
あ、あれ?
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