第6話 ちょっとの間にえらく好かれたものね
おばばさんからは、一日でも早く向かった方がいいと言われている。しかし、途中に困難が待ち受けているとも言っていたから、できるだけのことはしたほうがいいということで、ここ数日は準備にいそしんでいる。
「玲玲ちゃん、馬には乗れるの?」
「え……あまり、うまくないです」
家に農作業用の馬はいたけど、おじいちゃん馬だったからほとんど乗ることが無かった。だから、乗れないことは無いけど、うまく操れるかと言ったら怪しくなる。
「朱雀廟は南の
「馬車で行かないのですか?」
そんなに遠いのなら馬車の方が楽だと思うけど……
「王宮出入りの商人に聞いたら、途中馬車だと通れない道があるみたいなのよ。回り道もあるって言っていたけど結構時間がかかるらしいわ。それに、おばばが困難があるって言っていたじゃない。そういう時は小回りが利く馬の方が都合がいいのよね」
そうなんだ。それなら仕方がないね。
「信も馬に乗れるんだね」
「まあな」
「玲玲ちゃん聞いて、この子ったら、商人の家から来たっていうのに最初から馬に乗れてたのよ。いったいどこで習ってたのかしら」
「お、おいらの家には馬がいたんだ」
へえ、馬がいたってことは信の家は行商人だったのかな。普通の商人だとなかなか持てないんだよね。結構食べるんだあの子たち。
「信の生まれはどこ?」
「お、王都」
王都の行商人か。たまに張南村にも王都の商人が来ていたけど、その中に信のご両親もいたりして。
「それじゃ、私は馬の手配をしてくるわね。信は何か希望はある?」
「トロくない奴なら何でもいいよ」
信って馬のくせとか気にならないのかな。
「わかった、あとから気に入らないとか言わないでよ」
「言わねえからさっさと行けよ」
「玲玲ちゃん、信と二人っきりで怖いかもしれないけど、襲われたら大きな声で叫ぶのよ」
「いいから行けって!」
祥さんは、手をヒラヒラをさせながら王宮へと向かった。
「さてと、私は夕食の準備をするね」
「頼むな、おいらもちょっと用事があるから出てくる」
あれ、珍しい。
……ははーん、もしかして別れを惜しむ人でもいるのかな。
「ちゃんと挨拶してくるんだよ」
「な、何言ってんだ。行ってくるからな」
私は離れを出て行く信を見送り、厨房へと向かった。
「今日届いた食材は……明日の朝の分はこれだけあればいいし……お弁当も作ろうかな、あとは残してももったいないし全部使っちゃおう」
旅先ではどんな食事になるかわからないからね。たくさん作っても二人なら何とか食べてくれるでしょう。
「あ、いたいた。玲玲ちゃん」
「
「聞いたわよ、もう出発だって。せっかく仲良くなれたのに残念。はい、頼まれていた服、持って来たわ」
出発の日の朝、蓮花さんは間に合ってよかったと言って服を渡しにきてくれた。
ここにいたのはほんの数日だったけど、時間のある時には話に付き合ってくれたんだ。別れるのが名残惜しいよ。
「結構長い旅になるんでしょ。買ってきた下着で足りるの?」
「あ、途中で洗うから大丈夫ですよ」
蓮花さんは私を引き寄せ『男二人と旅なんだから気をつけなさいよ』と忠告してくれた。
「あはは」
「蓮花、聞こえたわよ。玲玲ちゃんは大切な巫女様なんだからちゃんとお守りするわよ。ねえ、信」
「ああ、姉ちゃんに近づくものは容赦しねえ!」
「まあ! ちょっとの間にえらく好かれたものね」
「あはははは……」
「でも、気を付けて行くのよ。用が終わったらここに戻ってくるんでしょう。待っているからね」
そういうと蓮花さんは、仕事があるからと言って戻っていった。
「これであらかたの準備は済んだわね。それじゃ、おばばのところに行きましょうか」
私たち三人は、王宮の庭の端にあるおばばさんの小屋まで向かった。
「おばば、しばらくお別れよ」
いつものように雑多な部屋で、おばばさんは向こうを向いて座っていた。
「時間をかけよって……ワシが行けたらいいんじゃが、すまん」
「な、何よ、おばばらしくもない。黙ってさっさと行けって言えばいいのよ」
おばばさんはこちらを向き、
「ふん。お前たちがいつまでも出発せんから暇で暇でたまらんでの、易を立ててみとったわい」
「そ、それで?」
「助け人が来る」
「どこで?」
「それは知らん。お前たちで探せ」
「ばあちゃん、そりゃないよー」
「なんのために、お前たちに力の使い方を教えてきたと思ってるんじゃ。玲玲を守ってやらんか」
「わかってるわよ」
「心配すんな、ばあちゃん」
「それと玲玲、おぬし、また力が増しとるぞ。覚醒はまだのようじゃがの」
相変わらず自分ではわからないけどね。
「おばばさん、ありがとうございました」
「みんな生きて帰ってこいよ。ほら、さっさと行かんか!」
おばばさんの小屋を出た私たちは、誰にも見送られることなく王宮を後にした。
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