第45話 内定式の行動②
◆ 内定式の行動②
適当に空港で時間を潰してから移動開始しようとしたところ、電車より高速バスの方が乗り換えが楽なことが分かった。
北海道出身の岩垣は都内の乗り換えに明るくない。
となれば、CIL最寄り駅の1つ隣の駅まで直通で行ける高速バスを使用する必然性はある。
交通渋滞も考慮の必要はないだろう。
十分に余裕は持っている。
高速バスに乗り、駅の喫茶店で時間を調整。
13:17にCIL最寄り駅に到着する電車に乗って移動した。
電車を降りると、同じ電車から見覚えのある顔が降りるのが見えた。
食堂の壁に張り出された内定者の顔写真で見た。
確か天野由梨だったはず。
他に人が来るまで待とうかとも考えていたのだがその必要はなさそうだ。
余計なことをしなくて済むならその方が良い。駅の改札には監視カメラがあるから、入った時刻と出た時刻に不一致があれば、何をしていたのかと後々疑われる切っ掛けを作りかねないからだ。
天野がホームの階段を昇っていくのを見て、その後ろからついていく。
改札を出ると、バス乗り場の方向。駅の出口で小田原がCILの看板を持って立っているのが見えた。
彼女は天野にバスの案内をしている。
歩く速度を調整して、丁度その会話が終わった頃に小田原の元に到着した。
「岩垣さんですか?」
小田原は私の顔を見てそう問いかけた。
少しばかり迷った様子があったが、ちゃんと私は岩垣ゆづきとして認識されているらしい。
「はい。岩垣です。
……小田原さんですか? 今朝は電話対応ありがとうございます。
すいません、朝早くに連絡してしまって」
岩垣のしゃべり方を真似て告げる。
小田原はもう私のことを岩垣だと信じて疑わずに返した。
「いえいえ。連絡頂けて安心しました。
私は8時半には出社していますので全然問題なかったですよ。
それに飛行機無事に乗れたようで良かったです」
「ええ、それは本当に。
チケットとホテルとっていただきありがとうございました」
「お役に立てたら何よりです。
こちらをどうぞ」
小田原からバスチケットが渡される。
それからバス停の位置について説明を受けた。
お礼を言って、指示されたエスカレーターを降りてバス停へ。
既に天野が待っていた。
スーツ姿の彼女へと会釈してその隣で待つ。
バスが来るまでにあと2人内定者がやって来た。
地元出身の高校生宮本と、宮城の大学生豊福。
同乗者が4人もいれば上等だ。
バスが来ると4人で乗車する。
他には老人夫婦が乗ってきたくらいで、バスは空いていた。
さて。
別に必ずしも必要ではないのだが、私に対する疑いの目を減らすために、もっと言うならば私の無実を証明して貰うために、誰か1人に犠牲になって貰うとしよう。
男性より女性が好ましい。
となると天野と宮本なのだが、どちらもあまり身体が丈夫そうではないので適任だ。
どっちでもいいが、高専生という岩垣の立場からして、宮本の方が取り入りやすいだろう。
バスに乗り込む間際、宮本へ声をかける。
「CILの内定者さんですよね」
宮本は人見知りするようで回答を逡巡したが、やがて頷いた。
「私もです。
岩垣と言います。北海道から来ました」
「北海道? 凄いですね。
あ、宮本です。この近くに住んでます」
「地元の人なんですね。
なら一緒に居れば迷うことはなさそうです。
隣、良いですか?」
宮本は即座に頷いてくれた。
私は彼女の隣に座る。
雑談しているとバスが出発する。
駅前の渋滞を抜け、大きな幹線道路へ。
そこから左折してCILへ向かう県道に入った。
宮本との会話を一時途切れさせると、彼女は水筒をとりだした。
これ幸いと、窓の外を指さして注意を引く。
「電車で見て気になったんですけど、あの建物って何ですか?」
「え? ああ、あれは大きな機械メーカーのビルですよ。
会議室とか、イベントホールとかあるみたいです。
屋上にはレストランがあって誰でも入れたりします。昔、1回だけ家族で行ったことがあります」
宮本が建物へと意識を向けている隙に、目薬の容器に入れていた下剤を水筒のコップへと注入した。
何食わぬ顔で相槌を打つと、宮本は下剤入りの飲み物に口をつける。
効果は10分後には出る。
空になった目薬の容器はバスの座席の隙間に隠した。
ゴミだと判断して、バス会社が処分してくれるだろう。
バスは途中で停車することもなく、CIL新社屋最寄りのバス停に到着した。
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