運命の出会い
「はぁ…」
まずは、周囲の状況を探ろうと歩き回るが何も見つからない。
何時間経っただろうか。
景色は変わらず鬱蒼とした森の中、小道がずっと続いている。
物語であればとっくにおばあちゃんの家に着いているはずだ。
(景色はよく似てるけど、やっぱり違う世界なんだ。)
今のところ物語の世界との違いは与えられた能力だけだが、使おうとしても身体が少し熱く感じるだけで何も起きない。
「こんな状態で誰かに会ったらまずいよね…。せめて隠れられる場所でも見つけないと。」
──森の中から音がした。
それが足音だと気づいた瞬間、音が大きく早くなった。
(こっちに走ってきてる…!?)
目前に迫った死の恐怖で冷静さを失い、脇目も振らず駆け出した。
(ダメ…すぐ追いつかれる…!)
今までまともに走ったこともない赤ずきんはすぐに息が切れ、後ろからの気配が徐々に近づいてくる。
このまま逃げても意味がないと考えた赤ずきんは意を決して振り返る。
先ほどまでなぜ能力が使えなかったか、今なら分かる。怖かったのだ。
(でも、殺されるくらいなら…)
目に映ったのはこちらに向けて駆けてくる1匹の狼だった。
「他の参加者って狼なの!?」
言葉が通じれば戦わないで済む可能性もあるかもと考えていた赤ずきんは一瞬戸惑うが、覚悟を決める。
血が血管を、皮膚を突き破ろうとしているのが感じられる。
初めて感じる強い痛みに歯を喰いしばりながらも、狼からは目を離さない。
「はあああ!」
視界に突然男が飛び込み、一刀のもとに狼を切り伏せた。
「お嬢ちゃん、大丈夫かい?」
赤ずきんは目の前の光景に身体が熱くなる。
「お嬢ちゃん?どこか怪我したのかい?」
「…い、いえっ!大丈夫です、ありがとうございます!」
「そうか、それは良かった。」
赤ずきんには自分を狼から守ってくれた男が物語での猟師と重なって見えた。
自由のない世界では彼と関わる時間はごくわずかで何も知ることが出来ない。
それでも彼は私にとって命の恩人であり、初恋の相手だ。
彼のような人とこの自由な世界で会えるとは。
「あ、あの…!」
叶わぬ願いだと分かってはいるが、思いが抑えきれない。
「私と一緒に戦ってくれませんか?」
参加者である男は驚愕の表情を浮かべ、考え込む。
(あぁ、この出会いは運命だ…)
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