第20話 ハチの迎撃


 ソファーに座ってコアウィンドウを呼び出してすぐに動きがあった。リリスがゴブリン達を後方に移動させて、土の壁でドームを作っている。


(ん?あ、そっかあいつらは野生化させるために死なれると困るのか。)


 リリスが慌てて出て行ったのは、繁殖要員が減らされるのを防ぐためだったらしい。


(ソーサラーとジェネだけになるけど大丈夫か?)


 そんなことを考えている内にハチが大部屋に突入してきた。通路にぎっしり詰まった状態から心太を押し出したように一気に出てきて気持ち悪い。


(うわぁ…。きしょ。羽音もすげぇし何より数がヤバいな。)


 大部屋に入ったハチは通路側の壁、天井に張り付いて待機している。黄色と黒のでっかいハチが壁面でうぞうぞ蠢いている。


(マジで数がやべぇな…。何匹いるんだ?)


「コア、侵入者の数は分かるか?」


 :侵入者は蜂系統種、ソルジャー10600、コマンダー160の計10760です。


(1万超えならSPは5万か…。ゴブリンのSPにもよるけど、こいつらの養殖も考えるべきだよな。数は増えやすいみたいだし、食料を供給しながら圧力かければ増えるか…?)


 現時点で数が多いハチ共の養殖を検討するが、女王蜂しか産卵出来ないことを考えると、メスが短期間で出産して倍々で増えるゴブリンの方が向いていると結論付けた。


 ハチを根絶させると決めたところで、また動きがあった。


 通路から出てくるハチがいなくなって、羽音が静かになった。壁と天井にびっしり張り付いたハチは今度は顎をカチカチ鳴らしている。


(なんだ?威嚇?羽音の方がよっぽどウザかったんだけど。)


 微妙な威嚇を笑っていると、1体のソーサラーが通路に向かって駆け出した。


「あ?なんだあいつ、死にたいのか?」


 ソーサラーにも頭の悪い個体がいるのかと少し失望しながら見ていると、通路付近のハチを一瞬でバラバラに引き裂いた。


(え?ソーサラーってあんな強いんか⁉︎)


 ソーサラーの名前に合わない戦闘能力に驚いていると、通路まで辿り着いたソーサラーは土の壁で通路を塞いでしまった。


(あー、あれリリスか。ソーサラーに化けてたんだな。)


 ここまで来れば流石に分かった。ゴブリンの中でも魔法職のソーサラーにあんな戦い方は無理だろう。それにゴブリン部隊にはまだ10体揃っている。


(油断させるためか?まぁそれしかないか、逃げられたら意味無くなるし。)


 謎のソーサラーの正体が分かったところで、リリスが変化を解いて姿を現した。


 それまで様子見をしていたハチ共が一斉に飛び立ち、ゴブリン部隊の方へと突っ込んできた。


「あーあ、逃げられてるよ。悪魔だって分かるもんなんだな。」


 突っ込まれる側のゴブリン部隊も必死だ。ソーサラーは炎の壁を作り出して、ジェネラルはそれを越えてきたハチを叩き斬っている。


 それでも手が足りる訳もなく、ソーサラーは持っている木の杖を振り回して防戦一方になってしまった。


「流石に11体じゃ手が足りないよな。ってかまだやられてないの凄くね?」


 ゴブリン部隊の善戦ぶりに感心していると、リリスの攻撃が始まった。


 火炎放射のように火を放ったかと思うと、今度は切り刻まれる。次は放水と砂嵐が吹き飛ばし、氷の槍が貫いた。

 闇の光線がハチを消し飛ばし、一条の雷が焼き焦がす。


 どうやら色々試しているようだ。使える属性を全部使ってハチを蹂躙し始めた。

(光は回復だけなんか?まぁ熱が無ければただの明かりだもんな。)


 最適解は風だったのか、攻撃が見えないのにハチがバラバラになって死んでいく。バラバラで数えにくいけど、1回腕を振るうだけで15から20体くらいを細切れにしている。


 ゴブリンに向かうハチが減って余裕が出来たのか、ソーサラー達も火球を放ってハチを焼き始めた。ジェネラルはソーサラー隊の背後で回り込まれるのを防いでいる。


 リリスの火力(風)とソーサラー隊の火力で、ハチは完全に詰みになった。リリスは無理だとソーサラーを狙っても反撃され、攻めあぐねているとリリスに切り刻まれる。


(これは勝ったな。まぁ元からリリス1人で余裕って言ってたし。)


 どちらを狙っても殺されると悟ったハチ達は、封鎖された通路を掘る部隊が少数で後退した。リリスが作った土の壁に取り付いて一心不乱に針を刺そうとしている。


「お?退路が断たれてることは理解してるのか。でもその壁は壊せるかな?」


 リリスだってハチが撤退しようとするくらいのことは考えてるはず。そのために塞いだんだろうし、簡単には壊せないようにしてあるはずだ。


 壁破壊部隊を見ていたら、いきなりそいつらがバラバラに千切れ飛んだ。


 視点をリリスに戻すと、どうやら殲滅が終わったらしい。周りを見回してまだ生きているのを探していた。


「終わったか…。コア、あと何体生きてる?」


 :残存個体は104です。現在10656の魂を捕獲しています。


「あの中から生きてるのを探すのはダルそうだな。ゴブリンに手伝わせるのも不意打ちされたら死にそうだし。」


 :残存個体の情報を眷属に送信しますか?


「あ、そんな機能あるんか。じゃあリリスに送って。」


 :送信が完了しました。


 コアウィンドウでリリスを見ると、遠い場所にも迷いなく火球を飛ばしている。少しすると、


 :侵入者の排除及び魂の捕獲が完了しました。魂を送信しますか?


「あぁ、送信してくれ。」


 やっとハチの殲滅が終わったらしい。邪神様宛てに魂を送れる段階になった。


(侵入者を全部殺さないと送れないのはちょっと不便だよなぁ…。)


 少し魂のシステムに不満が出てきたが、お待ちかねのSPに少しワクワクしている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る