第9話 建国計画
俺が後々人間を辞めることが決まったところで、ヒュージスパイダーの生成に6万を使った。
生成されたヒュージスパイダーは、鳥肌が立つくらいのデカさで、身体と脚に生えた毛が気持ち悪かった。
(うぇ…、虫なのにフサフサの毛が生えてるのキモいな。)
生成しておきながら酷いことを考えていると、リリスが外の警戒に行くように指示してくれた。
「マスター、MP回復待ちをしている間に相談しておきたいことが…。コアによる外部の魔力の吸収が1時間に70MP程になります。これはマスターの食費に自動でDPに変換する設定にしてもよろしいですか?」
「24時間で1600くらいか…。じゃあそれで。1日の食費を500くらいに抑えれば、1000ずつ貯められるか…。そういえばDPショップはまだ見てなかったな。」
「はい、DPショップはまた後ほど確認いただければ。」
「その前に今後、ハチ狩りの後の方針です。このダンジョンは盆地を取り囲む山脈の一部ですが、現段階での盆地内の情報では人間種が生息している可能性は限りなく低いです。」
「ハチの迎撃、ハチの巣への襲撃を終えた後の方針を決めましょう。」
「クロウとスピードファルコン達を使って偵察は続けますが、何か目標があるのであれば、そちらを優先します。」
そう言われると悩むが、リリスにとってこの盆地はもう制圧が確定しているんだろう。確かに待ちの時間だから、先のことを考えるのもいいかもしれない。
「その前に確認なんだけど、リリスは周辺国の情報を持ってるんだよな?それでどこに国があるとか分からんの?」
「周辺国の情報はありますが、立地などの情報ではなくて人口や物価、軍事力に経済力といった数値的な情報です。説明文ではなくて数値の箇条書きのようなイメージでしょうか。」
「ふーん、じゃあそれを軽く教えてくれ。周辺にどれだけの国と人口があるのか知りたい。」
「はい、まずは周辺では1番の大国がドルシント王国です。7つの城塞都市と周辺の農地を領有しており、周辺国では突き抜けた国力のようです。人口は約34000の内2000が奴隷です。」
「2つ目が都市国家ミスベルです。1つの都市と周辺の農地の典型的な都市国家です。人口は2000の内60が奴隷です。」
「3つ目が都市国家イスカです。1つの都市と周辺の農地の都市国家で、人口は2300で奴隷はおらず、皆兵制度のある特殊な国家です。」
「4つ目が都市国家パーシリカです。1つの都市と周辺の農地の都市国家です。人口は1500で内400が奴隷です。かなり大規模な神殿が建設されており、巡礼者が毎年1000人程あるようです。」
「なるほどね…。周辺国の総人口が約4万か。ドルシント?そこだけダントツでデカいけどなんでか分かる?」
「そこまでは…、ただドルシントでは王政が始まっているようです。貴族制が始まったかは分かりませんが、周囲の都市国家を吸収して更に大きくなるかもしれません。」
「だよなぁー。こっちの文明度はほぼ古代だって聞いてたけど、そこだけ中世に片足突っ込んでるよな。周辺国のトップを貴族にしたら封建制度が始まりそうじゃん。」
4つの周辺国の情報を聞いて、これからを考える。こちらの軍事力で全国家を滅ぼす。国家に介入して人口を増やした上で情報量を高める。
ゴールまでに莫大なエネルギーが必要な以上は、短絡的に数を減らすのは無駄に時間が掛かるだけだ。人口を増やすにも母数は多い方が早く増える。
(どっかの国で人を養殖するのは確定だな。でもどこでそれをやるか…。)
「リリス、俺はどっかの国に介入して養殖してから収穫って考えてるんだけど、どこが良いと思う?」
「それでしたら、イスカかパーシリカがよろしいかと。情報を収集してみないと詳しいことは分かりませんが、特色のある国家の方が潜り込むのは楽なのではないでしょうか?」
「そうか?まぁでも確かにイスカはなんとなくスパルタみたいな空気を感じるけど。でもパーシリカはなんで?神殿はクソ女神の神殿でしょ?」
力が全て!みたいな価値観だったらイスカは成り上がりやすい国家だけど、パーシリカは宗教国家のようなもので潜入するには向かないように感じた。
「だからです。クソ女神に向けられる信仰を掠め取ってしまえば、弱体させられます。その上女神を崇める宗教のトップが女神を殺そうとしているなんて面白いでしょう?」
(あー、宗教の乗っ取りは考えて無かった。でも信者にも色々いるからなぁ…。簡単に乗っ取りなんて出来るか?)
「でも宗教なんてそんな簡単に乗っ取れるモノでもないだろ?ましてや実在する神が居るんだし。」
「それも問題ありません。女神の使徒として降臨すれば良いのです。例えば、曇天の暗い雲に穴を開けて、天から降り注ぐ光に、翼を生やした人間。そんなのが降りてきたらどうなると思いますか?相手は未開な野蛮人です。CGを見慣れた地球人ではないのです。たちまち神の使徒、天からの使いとして君臨出来ると思いませんか?」
「確かに…。地球だと最初は映画撮影とか疑いそうだけど、こっちじゃ天変地異か…。」
(そうか、演出なんてこっちは魔法があるんだし、CGの作り物じゃない本物の演出か!)
そう言われれば、宗教の乗っ取りも案外簡単に出来そうな気がしてくる。超広域に声を伝える魔法とか発動させて、神託っぽいこと言っておけばなんとかなりそう。
脳筋っぽい都市国家か、宗教都市の乗っ取りか、どちらが手間とコストに見合うリターンがあるか考える。
脳筋国家なら力で成り上がるか従えて支配下に入れる。国を手に入れる手間は最低限でも、発展させる手間がどれだけ掛かるか分からない。脳筋だらけで文化が進歩しないかもしれないし、周辺国の攻略に手を貸す必要もある。
宗教国家なら国を手に入れる手間が少し掛かるが、発展させる手間は特色がある分それに特化させてしまえば良い。巡礼者が金を落としていけば、それだけ発展も見込める。
「俺としては宗教の乗っ取りが良いかなって思えてきたんだけど…。リリスはどう?」
「私はどちらでも成功の見込みはあると思っています。軍事力で大国の建国も可能ですし、教会の信仰を変質させてしまうことも可能かと。どちらかと言うなら軍事力の方でしょうか。大きくなってしまえば宗教を捻じ曲げることも不可能ではありません。」
「宗教弾圧ってこと?それもいいけど宗教戦争は長引くってイメージなんだけど。」
「いえ、その大国に天使として降臨してしまえば良いのです。天使が降臨した国が天使を崇拝する、これを公然と否定するのはどの国でも難しいはずです。それでも否定してくる国は狂信者の国です。滅ぼして女神の力を削いで、周辺国の見せしめにと一石二鳥です。」
「あー、なるほど!良いとこどりも出来るのか、それは強いな。否定してきたら戦争で潰せばいいだけなのもいいね。」
(うん、軍事力で大国を作った方が色々と楽かも。強ければ他所からも人が流れてくるかもだし。)
「よし、じゃあ今後は脳筋イスカを支配下に入れて宗教国家以外を全部併合しよう。宗教には配慮しておかないと、天使を崇拝する理由が弱くなるからな。」
「はい、畏まりました。それでは今後はその方針で動きます。作戦立案は私にお任せ下さい。」
「それじゃ頼んだ。俺はMPが回復するまでスマホで動画でも見てるから。」
「はい、私はコアの前におりますので、何かあればお呼びください。」
MPが回復するまでは何もすることが無いので、リリスに任せて俺はベッドに寝転がった。
***
昼にチキン南蛮定食を食べて、ゆっくりしていると、リリスが声を掛けてきた。
「マスター、ハチの巣を発見したようです。マップデータに赤い光点が確認出来ます。」
テーブルの端に置いてあったタブレットのマップアプリを開く。
山脈に囲まれた盆地は既に大部分がマッピングされていて、あと1割も残っていない。その中でも、このダンジョンから約120km離れた地点に赤い点が密集して固まっている。
「これか…。思ったよりは近いけどそれでも充分遠いな、位置設定完全に間違えたわ。」
「確かに距離がありますが、私としては遠くて助かります。刺激しなければ攻めてくる距離ではありませんし、遠い分防衛の強化に時間が掛けられます。」
「そうか?それもそうなんだけど、この巣まで領域広げるのにどれだけMPを使うか…。」
「いずれは大陸全てに広げるのです。それにハチの巣近辺までならそこまで掛かりません。外部領域拡張を見れば分かりますよ。」
そう言われたら見るしかない。タブレットの階層拡張から外部領域拡張を押した。
_____
外部領域拡張
外部領域拡張:1㎡:10MP
外部領域拡張:1㎡:8DP
外部領域拡張:1㎡:???
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
(1㎡で10MPなら…12万m×10MPで120万で巣まで道が出来るか。巣の周りも広げると…130万あれば余裕か。DPの他にも力が使えるっぽいけど、多分情報エネルギーだろ。)
「大体130万で逃さず収穫出来るか?」
「はい、それだけ広ければ余裕があるかと。周りにスピードファルコン達を配置すれば逃げられることもないでしょう。」
「よし、それじゃあリリスを少し強化したらハチを引っ張ってくるか!俺は回復待ちの間は映画見てるから、あと頼んだ。リリスもたまには休憩な?」
「はい、ありがとうございます。区切りが良いところで休むようにします。」
リリスの魔力量を強化したら、ゴブリン部隊を用意して、ハチを誘き寄せる作戦を始めよう。
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