第7話 迎撃準備


 瘴気マイアズマのことはまた後で考えることにして、やっとハチの迎撃態勢を整えることにする。


「リリス、この横穴に広い部屋を作ってそこに魔物を置こうと思ってるんだけど、なんかアドバイスある?」


「いえ、私もそれで問題ないと思います。DPは限られていますし、極論ドラゴンを1体用意すれば余裕で勝てます。」


「え、じゃあダンジョンは部屋作るだけ?準備ってそんだけ?」


「それだけではありません。確かにダンジョンは迎撃用の広い部屋で充分ですが、他にハチに攻め込ませる、攻め込んできたハチが撤退しないようにする、この2つも考える必要があります。」


「あー、そういえばハチの勢力圏からは飛んで半日か、攻め込む理由が無いと無視されることもあり得るな…。」


「はい、それにドラゴンがいる場所に攻め込んでくる魔物は滅多にいません。あまり強すぎる魔物を配置しておくと諦めて撤退する可能性もあります。」


「流石にそんなバカじゃないか…。でも向こうが勝てると思い込む程度に配置するってかなり難しくね?」


「そうでもありません。ゴブリンの集団を前面に置いて、後ろから支援する部隊を隠してしまえば、ゴブリンを皆殺しにするまでは撤退しないでしょう。皆殺しにされたら隠れていた部隊を出して、狩れるだけ狩ればそれでよろしいかと。」


「ハチはゴブリンを舐めてるから、他の魔物さえいなければ警戒しないってこと?」


「ゴブリンでもソーサラーやジェネラルは多少警戒するでしょう。しかし、その程度は今まででも戦っているはずです。ジェネラル1体にソーサラーも10体程であれば、撤退せずに攻めてくるでしょう。援軍を呼んで更に数を増やすかもしれません。」


「援軍を呼べば勝てそうに抑えるのか…。とりあえずはジェネラル1、ソーサラー10で68000、賑やかしにゴブリンを64で10万。あとは入口から入ったハチを逃がさない蓋が欲しい。どれくらいのコストで確殺出来る強さに出来そう?」


「そうですね…、おすすめは虫系統のヒュージスパイダーでしょうか。60000MPの全長4m程の大蜘蛛で、強靭な糸を吐けます。ハチが入り込んだら網を張らせて、蓋を作らせたら私が生き残りを全て焼きましょう。これならMPは16万で済みます。」


「じゃあ防衛はそんな感じで。あとはどうやって攻め込ませるか…。巣を突けば襲ってくるか?」


「近場までは追ってくるでしょう。あと半日というのを12時間で解釈されていた場合は、時速40kmでも約500kmになりますから、相当な理由が無いと襲ってこないかと。」


「…、場所の設定間違えたな。めちゃくちゃ遠いやんけ。それにハチってそんな広範囲を移動するもん?」


「巣を中心に円周上に広がるはずです。近場で餌を養殖するにしても、外に狩りに出ないといつかは餌が足りなくなります。ダンジョン周りの魔物の少なさから、この辺りまで遠征している部隊があると思います。」


「一応ここまで来ることは出来そうか…。あとはどうやって来させるかだけど。」


「女王蜂の卵を奪ってくるのはどうでしょう?次代の女王を奪われればハチ共も取り戻そうとするでしょう。」


「じゃあそれでいこう。んで、誰が奪ってくる?ハチの巣に突っ込んで生きて帰ってこないといけないけど。」


「私が行きます。ハチ共にやられる程弱くありませんし、透明化すれば侵入も容易です。卵を確保したらダンジョンに戻ってきます。」

「私の飛行速度にハチはついて来れませんから、何匹かは捕まえて途中途中に置いてダンジョンまでの道も作らないとですね。」


「リリスが行ってくれるのはいいんだけど、本当に大丈夫か?死なれちゃ困るぞ?」


「ご安心下さい。ハチ共はMP換算なら1匹600のゴブリン程度です。飛行能力と毒針を持っている分で600になっていますが、それ以外の能力はゴブリン以下です。兵士階級、親衛隊階級のハチはもう少し強いですが、似たようなものです。」

「ハイデーモンに効く程の毒ではありませんし、そもそも私に刺さらないでしょう。数は多いですが、攻撃が通らなければ鬱陶しいだけです。」


「そうっすか…。それなら良いんだけど。」


「ダンジョンの防衛は入口から30mはそのままで、その後ろに100m四方の部屋を置きましょう。コアルームをその分移動すればよろしいでしょう。100m四方もあればドラゴンも配置出来ますし、ハチの後もしばらくはそこまでに抑えて、外部領域拡張を進めましょう。」

「今のところマスターを脅かす程の魔物はいないようですし、追加の偵察部隊を飛ばしてこの盆地の魔物の分布を確認してしまいましょう。」


「…おぉぅ、分かった。俺もそれで良いと思います。じゃあ魔物は俺がやるから、ダンジョンの操作はサブマスターにお願いします。」

(なんか急にやる気になった…?言ってることは間違ってないから良いんだけどさ。)


「はい、ダンジョンの操作はお任せ下さい。」


 タブレットを操作し始めたリリスの横でコアに右手を触れる。


「コア、スピードファルコンを2体生成。」


 :28000MPを吸収します。手を離さないで下さい。…生成が完了しました。


 俺の左前に現れたスピードファルコンは、大体40cmくらいの大きさで、クロウよりも小さかった。でも流石に猛禽類で嘴と爪も鋭く、強そうに見える。


「よし、スピードファルコン達。そこの横穴から外に出て、山脈に沿って偵察してこい。危険を感じたらすぐに逃げること。お前達より先に黒い鳥が偵察に出ているから攻撃するなよ。」


 そう指示すると、「ピュイ!」と一声鳴いて飛んでいった。


 コアウィンドウでマップを見ていると、うちの山を起点に南北に分かれて飛んでいったらしい。名前にスピードと付くだけあって、すぐにマップ済みエリアを越えて山脈沿いを飛んでいる。


 更新されていくマップを見ていると、少し揺れた気がして顔を上げる。


そこに横からリリスが声を掛けてきた。

「マスター、ダンジョンの操作が完了しました。今の揺れはコアルームが移動した揺れです。」


「そうなん?あ、扉になっとる。」

 今まで横穴が空いていた場所が塞がり、別の壁に扉が2枚出来ている。


「部屋と部屋の間に通路を設置すると扉を置くか選べるようです。ずっと穴が空いているのも落ち着かないと考え、設置しました。」

「使ったDPは100m四方の部屋で5000、コアルームまでの通路に50、扉に30、シャワールームに2000の計7080です。」


「分かった、ありがとう。それでDPの食料はどれくらいの値段?」


「和食、洋食揃っていましたが、大体1食100DP程でした。高級グレードは高くなっていましたので、2日後に10万増えるまで我慢して下さい。」


「あと19食食えるなら余裕だな。別に贅沢したい訳じゃないし、我慢出来るよ。」


「はい、食事もそうですが、ベッドなどの寝具も揃えましょう。1000DPは寝具に使ってしっかり眠る環境を整えましょう。」


「あー、ベッドか…。全然眠くならないから忘れてたわ。」


「興奮しているのと不老の効果もあるでしょう。身体が良いコンディションで固定されているので、身体的に疲労しづらいようになっているはずです。それでも精神的な疲れはありますので、習慣通りに眠るようにしないと精神が保ちませんよ。ベッドはこれにしましょう。1000も使えばこのキングベッドでもお釣りが来ます。」


 キングサイズベッドのページを見せてきたと思ったら、すぐに購入を押して、ベッドがコアルームの壁際に現れた。


「おぉ、でっか!でもこんなデカくなくても…。」


「ダメです。あと枕と掛け布団ですね。残り200で余裕です。」


 俺の意見はシカトで、あっという間にキングサイズベッドに枕と掛け布団を用意されてしまった。


「マスター、あとは夕食です。普通の人間だった頃の習慣は続けましょう。精神は人間のままですから、女神を殺す前にマスターが参ってしまいますよ!」


「はい、そうします。」

(マジで急にどうしたんだ…。いやド正論なんだけどさ。)


 結局、その日はテーブルセット10DPで鮭定食120DPを食べて、シャワーを浴びせられて、ベッドに押し込まれた。


 その日は、急に積極的に案を出してきたリリスを訝しみながら、眠りについた。

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