第6話 瘴気
周囲の安全がひとまず確認され、ハチの迎撃準備を進める前に、気になることがある。
「あのさ、リリス?その…服とかは無いんですか?そろそろ目のやり場に困るんですけど…。」
「その、申し訳ございません。ハイデーモンの段階ではまだ物質の錬成は得意ではなくて…。錬成陣の知識はありますが、まだ使い物になりません。」
「そうか…。いや別にそんな困ることでもないからいいんだけどな?」
どうしてもチラチラ視線が向いてしまうのは避けられない!頭と足が黒山羊で角翼尻尾が生えてる以外は普通の女の身体なんだ。
(いや、普通ではないですね、かなり整ってますね。)
そんなことを考えていたからか、コアからまた報告があった。
:【愉悦の邪神】様よりギフトが届きました。[DPショップ]のインストールを開始しますか?
「…開始してくれ。タブレットにも追加出来るなら追加。」
:DPショップのインストールが完了しました。拡張端末にアプリを追加しました。
見計らったかのようなタイミングに、思わずため息を吐いた。
(はぁ〜、どうせ覗いてたんだろうな…。自分で言い出したらこのDPショップ?を送ろうとしてたに違い無い。)
「まぁいい。リリス、多分これで服とか買えってことだと思う。ダンジョンの拡張分を残したいから、悪いけど安物でしばらく我慢してくれ。」
タブレットをリリスに手渡しながら更に付け加える。
「安物じゃそんなに選べないだろうけど、せめて自分で好きに選んでくれ。予算は…、500DPくらい?そんくらいで頼んだ。」
「はい、ありがとうございます。500も使ってよろしいのでしたら、充分な服を用意出来ると思います。」
「そうか?それじゃ俺はコアでダンジョンの拡張機能見てるから、ついでにショップに何があるか軽く調べて。」
「はい、一通り確認したらお返しします。」
「よろ。」
そう言って俺はコアの前に座り込んだ。
コアを触って半物質のウィンドウを呼び出すと、階層拡張機能から通路以外の、部屋・罠・特殊機能の項目を確認した。
部屋設置は、通路設置と同じように洞窟部屋、坑道部屋、古代遺跡部屋などのラインナップだった。
罠設置は、踏むと矢が飛んでくる罠、開けると毒ガスが噴き出る宝箱、踏むと転移させられる転移罠などよくある罠が並んでいる。
特殊機能はダンジョン内全てに作用する装置の項目だった。かなりの高コストだが使えそうな機能が豊富にある。破壊された壁の修復を早める装置だったり、空気中の魔力の回収効率を高める装置だったりといつ導入しても腐らない優秀なものが多かった。
その次に階層追加・外部領域拡張・特殊環境拡張の機能を確認した。
階層追加とは、文字通りの意味でダンジョンの階数を増やすらしい。地下1階から地下2階に増やすことが出来るようだ。この山の要塞化にはぶっちゃけ出番があまり無さそう。
外部領域拡張とは、ダンジョンコアの領域として、ダンジョンの外の土地を侵食する機能らしい。ダンジョンの領域内ならコアが魂を捕獲してくれるが、領域の外だと魂に干渉出来ない。効率良く魂を収穫するなら、領域の拡張もセットで進めないといけないので、今後かなり重要な機能になる。
特殊環境拡張は、ダンジョン領域内に特殊な環境を追加出来るらしい。その部屋だけマグマが流れる火山地帯にしたり、吹雪が吹き荒れる極寒地帯にしたり出来るようだ。通路や部屋設置とは違って、この機能は屋外にも追加出来る。ダンジョン領域内なら例え砂漠だろうと、草原や樹海に改変することが出来る。(もちろん高コスト)
色々と確認した中で1番興味を惹かれたのは、特殊機能の
どうやらダンジョンには無い機能を限定的に扱える装置のようで、収集範囲がダンジョン全体じゃない。半径30mしか収集しないくせに1機70万MPも掛かる。ドラゴン以上のコストが掛かるのが気になった。
*
そうこうしている内に、リリスが声を掛けてきた。
「マスター、DPショップの確認が終わりました。タブレットお返しします。ありがとうございました。」
その声にそちらを振り向くと、黒のシンプルなドレスを見に纏ったリリスがいた。ドレスの種類なんて全く知らないが、派手な装飾は無いスラっとしたドレスだった。
「マスター、どうでしょうか?翼と尻尾を出すために背中の開いたドレスにしたのですが、変じゃありませんか?」
そう言って一周回って背中を見せてくれた。
「あぁ…、変じゃないよ。賢い選択だし、リリスに似合ってるよ。」
(ドレス着てる人なんて初めて見たけど、かなり似合ってるんじゃね?背中から翼生えてるのもカッコいい…。)
「ありがとうございます。大切に着させていただきますね。」
「おぅ。それでショップはどうだった?使えそうな物は売ってた?」
(なんか恥ずかしいな、誰かに服をプレゼントしたことなんて無いし…。)
「はい、ショップには石鹸やタオルなどの日用品、食料品に衣類などの低価格帯の消耗品類、シャワールームや室内温泉などのDP限定部屋と、希少金属のインゴットや特殊効果の武器、鎧などの高級な物品が販売されているようです。」
「食料品もシャワールームとかもあるのか、それはありがてぇな。武器とか鎧は高い分強い?」
「それが…、最高位品質の物は値段相応に感じましたが、中間品質の物に関しては性能の割には高いと感じました。自力で生産出来るようになるまでは仕方ありませんが、生産体制を出来るだけ早く整えて、頼らないようにしたいです。」
「なるほど。後で俺も確認しとく。それでこっちも色々見てたんだけどさ、
「はい、知っています。知っていますがどこでお知りになったのですか?このダンジョンでは扱えない力のはずですが。」
「それが階層拡張の特殊機能設置に
リリスにタブレットを差し出して、自分で見るように促した。
「そのくせに1機70万もするからどんなもんなのか聞いたわけ。70万払う価値ある?」
リリスは表示されているページを読んでいる。
「そう…ですね。まず
「しかし、瘴気はこれとは別の恨みです。指向性がある恨みではなくて、行き当たりの無い恨み、無念の悲しみと言ったところでしょうか。自分の不運や恵まれない生まれ、社会の理不尽などの自分の力ではどうしようもない事柄への恨みが死後に瘴気となって発散されます。」
「この瘴気は場に溜まりやすく、濃い所に集まる性質があるので、古戦場や病院、その場にいる生物を呪う力があります。」
「悪魔が住む魔界ではメジャーなエネルギーで、悪魔達は魔力と瘴気を取り込んで生きています。」
「瘴気を集める方法があるのでしたら、それなりに使えるエネルギーになると思います。何かを呪ったり、負の変質を起こすのには最適のエネルギーです。」
「ふーん…。怨念と瘴気は1人殺した時にどっちが多くなる?」
「それは場合によるかと。拷問をして惨たらしく殺せば怨念が大きくなりますし、普通に殺せばその者の境遇で変わると思います。」
「なるほど…。余裕が出来たら試すくらいでいいか。ちなみに悪魔は瘴気を取り込むって何に使うん?」
「悪魔は魔力の代わりに瘴気を使って魔法を発動することも出来るので、そのエネルギーにします。魔界は黒の太陽から瘴気が降り注いでいて、瘴気は馴染みのあるエネルギーです。低級な悪魔は魔力よりも使用頻度が高いかもしれません。」
「へぇー、結構使い勝手良さそうだな。」
「マスターの場合だとMPをDP変換、魔物生産、ダンジョン拡張に使いますから、第2のエネルギーとして使うのもアリかもしれません。」
「エネルギーとしては魔力より上?下?」
「魔力よりは下ですね。ただ、基本的には下なんですが、場に溜まる力は魔力より強いので、瘴気濃度が濃いところになれば魔力より強い場合もあります。」
「おけ、分かった。瘴気の運用は要研究だな。時間作って色々試そう。」
70万を今の段階で捻出するのはキツいし、とりあえずは保留で先送りすることにした。
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