第2話 悪魔と槍


 身体を包んでいた光が薄れるのを感じて、目を開いた。


 俺が立っていたのは無機質な白い部屋だった。遠近感が狂う白さの部屋は淡く発光していて、部屋の四隅が少し暗くなっている。


「おぉ…。おぉー!映画に出てきそうな白さの部屋!」


『そこがダンジョンコアの制御室だ。今コアを顕現させる。』


 そう邪神が声を掛けてきた瞬間。目の前、部屋の中心に赤い光を内に秘めた青い水晶が現れた。


「おぉー!すげぇ!めちゃくちゃ綺麗!…でもこれ何でしたっけ?正…?」


『形のことなら正八面体だ。』


「あー、そうそうそれです。正八面体。いやぁーキレイダナー。」


『それはどうでもいい。さっさとコアに触れろ。』


「…はい。」


 少し落ち込んだが、気を取り直してコアに近づく。コアに近づくにつれ綺麗な青の水晶体の中に赤い光の粒が渦巻いているのが見える。


 手が届く場所まで来て、一度深呼吸をする。


「ふぅー、よし!」


 意を決してコアに右手を触れた。



 :(有資格者の接触を確認。資格者の情報を取得します。…取得完了。暫定権限者として登録します。)

 :(暫定権限者のアクセスコードを検索します。…失敗しました。不正なとうr……成功しました。権限者として正式登録します。)

 :(正式登録を開始します。権限者の言語機能に最適化を開始します。)完了しました。

 :外部からのアクセスを確認。セキュリティチェックを開始します。解析完了。解凍を開始します。


「おぉ?一気に捲し立ててたけど、止まった?ってか超機械的ですね?」


『このコアは我が作ったシステムが積んである。他の野生のコアには無い機能を搭載する分強化しておいた。今は我から送りつけたデータの処理に時間が掛かっている。しばらくすればまた動き始める。』


「途中で失敗って言ってましたけど、何に失敗したんですか?」


『このコアは我が干渉して作り出したものだが、元々はこのイステルシアの物だ。ダンジョンコアはダンジョンを踏破した強者に権利を与える。それを異世界から来た異物がいきなり掠め取ろうとしたからエラーが出た。それに我が干渉して誤認させて承認された。我が作ったシステムでもこれは削除しない方が良かったのでな。』

『そして今は、我がお前に与えた力を順に展開しているところだ。起動には生物が触れるか長い時間が必要だったのでな。起動するまでは待機状態で力も圧縮されたままだったのだ。』


「はー、なるほど。送りつけてはあったけど、電源が点いてなかったって訳ですね?」


『その通りだ。すぐにインストールが終わる。』



 :ファイルの解凍が完了しました。

 :防衛使役生物の召喚・生成機能がインストールされました。

 :階層の外部拡張機能及び環境拡張機能がインストールされました。

 :空間操作機能がインストールされました。

 :魂魄の吸収・転送機能がインストールされました。


 :【   】様よりギフトが届いています。

 :ハイデーモン・希少種♀が保管庫に送られました。

 :成長武器グロウウェポンルインが保管庫に送られました。


「ん?なんか今名前のところバグってませんでした?何も言わなかった。」


『我が差出人を無しにしたからだろう。読み上げる名前が無かったから読まずにそのまま空欄になった。』


「差出人無しって…。今更ですけど、お名前は?どうお呼びすれば?」


『我に名は必要ないのだが…。そうだな、我のことは今まで通り邪神でよいぞ?今後我は【愉悦の邪神】を名乗ることにする。』


「うっ…。分かりました。今後は邪神様で…。」


『うむ。最後の調整が終わったので、我は帰る。ではな。』


 そう言うと、なんとなく部屋が明るくなった気がして、居なくなったのが分かった。


「…まぁ、いっか。さっさと機能を見て、周囲の確認もしないと。」


 こうして俺は現状の把握のために動き出した。


 ***


 貰ったダンジョンの機能は、召喚・生成機能はコアに魔力を供給することで動作する。

 階層の拡張、環境の変更もコアに魔力を供給する必要がある。

 空間操作機能もコアから設定するようだ。

 魂の捕獲と転送機能は固定されていて、触れないようにグレーアウトしていた。

 タブレットとスマホを拡張端末として認識した。機能を解析したようで、コア本体とタブレットが同調して、タブレットでも召喚と生成以外の操作が出来るようになった。


 それに元々ある機能としてコア本体から半物質のウィンドウが開ける。触るとシリコン程の柔らかさで、跡形もなく消せた。

 保管庫というストレージ機能もあった。最大容量は不明(表示無し)。コアに触れてストレージを意識すると、中に入っている物のリストが脳内に浮かぶ。タブレットとスマホはここに入っていた。


(なんとなくだけど、大体の機能は把握した。あとはお供のハイデーモンと槍の確認だ。)


 コアからハイデーモンと槍を取り出そうと意識する。


 2つの手に触れた物体を掴んで取り出す。それはデフォルメされた手のひらサイズの悪魔とペンサイズの槍だった。


(…んー?これどうすりゃいいんだ?多分圧縮されてるんだよな?コアに頼めば展開してくれんのか?)


「コア、この2つを展開してくれ。」


 :承知しました。ハイデーモン・希少種♀と成長武器グロウウェポンルインを展開します。…完了しました。元データが消滅します。


 手に持っていたハイデーモンと槍が光になって消えた。


 :2つのデータを再生成します。…完了しました。


 完了の合図で目の前に赤い光が集まった。


 槍は穂先から、ハイデーモンは心臓(?)のような結晶から徐々に身体が、内臓が形成されていく。


 そうして組み上がった槍は、赤い穂先に黒い金属の柄をもったシンプルな見た目になった。

 ハイデーモンは槍より時間がかかっている。頭は黒山羊頭で立派な角が生えている。体は胴体が女性の身体で、太ももから下が黒山羊のように蹄足になっていた。翼は蝙蝠のような皮の質感で、まさに悪魔の翼だ。


(おぉー!これぞ悪魔って感じだ…。でも裸なのか…、途中で中身見えてたからあんまエロさ感じねぇな…。)


 横から見てた俺には、内臓から筋肉まで全部見えてたから、ぶっちゃけエロさよりグロさの方が上だった。


(まだ赤い光が収まらないけど、槍はもう触って大丈夫だよな?)


 俺から見て左側にある槍は、光も収まって石突で直立している。左手を伸ばして掴んだ。赤い穂先に黒い柄の槍は装飾は一切無い。柄も掴みやすい太さで、金属製に見えるのにかなり軽い。黒い柄をまじまじ観察していると、


 :成長武器グロウウェポンルインの詳細を表示しますか?


 とコアから声を掛けられた。


(なるほど、条件はまだ分からんけど、よく見たい物は情報引っ張って来れるんかな?)

「表示してくれ。」

 コアに頼みつつ、タブレットを点けた。


 ______

 グロウウェポン・ルイン

 位階:神器級ゴッズ

 特殊:半幽物質ゴーストクォンタム・成長

 貫通攻撃力:22



 ※グロウウェポン…生物を傷付けた際に血液を吸収し、自己強化をする生きた武器。成長限界によって位階分けされる。ダンジョンから発掘され、下位位階でも人工の刀剣より優れた性能を持つ。

  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


(へぇー神器級ね…。成長する武器が最終的に強くなるように、ってことか?この攻撃力がどんだけかは分からんけど。)


 そうこうしている内に、ハイデーモンの方も終わったようで赤い光が消えた。


 先がスペードのような形の尻尾が生えて、少し浮いていた身体が足から着地した。


 閉じられていた目がゆっくり開かれると、俺に向かって跪いた。


「創造主様。生を授けていただいたこと、感謝申し上げます。この命ある限りお仕えすることをお許し下さい。」


(創造主って…。展開しただけ…。邪神のことは知らないんか?)


「あぁ、よろしく。創造主ってのは仰々しいな。もう少し軽く呼んでくれ。」


「畏まりました。でしたらマスターとお呼びしてもよろしいでしょうか?」


「う…ん、それでいいや。それで俺はお前を何て呼べばいい?」


「お好きにお呼びください。おい、でもカス、でも何とでもどうぞ。」


「えぇ…そんな呼び方する趣味は無いんだけど。普通に名前は?」


「名前…ですか?種族としてはハイデーモンですが、個体としては私に名前はありません。…もしや名前を授けてくださるのですか?」


「名前無いんか…。呼ぶ時困るし、あった方が良いでしょ。何か希望あるか?」


「希望などと…、マスターからいただく名に注文など付けられません!」


(そんなに…?それじゃあ、うーん…悪魔だからなぁ。人名じゃちょっと合わないよな?女悪魔っぽいのは、アスタロトとか?グレモリーなんてのもいたな。)


「アスタロトとかグレモリーはどう?リリスなんてのもいいな。」


「でしたらリリスが、リリスという名を賜りたく存じます。」


「じゃあ、リリスな。これからよろしく。」


「はい。このリリス、マスターのお力になれるよう身命を賭す所存で御座います。末永くよろしくお願いいたします。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る