2章異世界 潜伏編
第1話 いざ異世界
4月17日? ??:??
『では決まったところでイステルシアに送るが、地球でやり残したことはあるか?あるなら1度戻す。』
(警察の人達に一言言っておいた方がいいか?でもなんて言うんだ…。それと
「1度戻りたいんですが、家族の遺体はどうすれば…?弔ってもらったほうがいいんでしょうか?」
『弔いは好きにすればよい。こちらで回収しておくことも出来るが。』
「…そうですね。ずっと保管しててもらうのも迷惑かけますし、回収をお願いします。俺が書き置きでそれとなく書いておきます。」
『そうか。では戻すぞ。』
その瞬間、視界が暗転した。
***
4月17日01:38
ハッと気が付いたら、仮眠室に戻ってきていた。
(01:38…。寝付いてから時間が経ってない?)
ここのベッドに入ったのが大体01:10くらいだったはず。あまり寝付けず、寝たと思ったらあの黒い部屋だった。
(やっぱり、時間は流れてないっぽいな。ま、相当な力を持ってるんだろうし当然か。)
(それよりなんか書くもの書くもの…。)
周りを見回すと、入口の横に掃除当番がチェックするバインダーが掛かっている。ボールペンも一緒になっているので、そこからペンを拝借した。
(うーん…。なんて書くか?復讐の旅に出ます、探さないで下さい?絶対探されるよな…。無駄に邪魔するだけかも。……ってか俺の身体はどうなるんだ?美智瑠達は回収してもらうことにしたけど…。)
((お前の身体も回収するつもりだが。))
「うわっ!!」
((今こちらの準備は終わった。そちらはどうだ?なにかあったのか?))
(めちゃくちゃびっくりしました……。今書き置きに何を書くか迷っていて。身体が消えると無駄に探されそうな気がして…。)
((では身体を残すか?我にとっては大した差ではない。別に構わないぞ。))
(じゃあ身体を残してもらっていいですか?自殺したと見せかければ、探されないはず。)
((分かった。では1度そちらで死んでくれ。魂の状態にならないと我の領域には入れない。))
(…え?死ぬって…、どうやって?)
((どこか太い血管にペンを刺せ。いくらか刺せばすぐに失血死するだろう。))
(マジかよ…仮眠室で自殺って超迷惑じゃん。)
((なら血は消しておいてやる。だから安心して死んでいいぞ。))
(はぃ…。やっぱちょっと邪神っぽいな。)
財布から出したレシートの裏に、お世話になったお礼と自殺したことへの形ばかりの謝罪を書いて置いた。
簡単に自殺しろと言ってくるヤバめの存在に力を貰うことに今更ビビりながら、足、太もも、足の付け根、腋、腕の太い血管にペンをブッ刺した。
(流石に首とか頭は刺せねぇよ…)
流れ出る血流と痛みを感じながら、次第に意識が遠のいていく。
(母さん、父さん、美智瑠…行ってきます!…爺さん婆さんはどうしよっかな?もう死にたいとか言い出しそうなんだよな…。)
*****
4月17日? ??:??
『おい、起きろ。もう馴染んだはずだぞ。おい。』
誰かが呼びかける声が聞こえる。
寝ぼけた頭でそう考えて、目を開いた。
そこにはあの真っ黒の部屋で見た、赤い目がこちらを覗き込んでいた。
(あー、1回死んで…。)
『1度死んだお前の魂を我の領域に引っ張ってきた。その魂をコピーから改造したお前の身体に入れた訳だ。調子はどうだ?軽く動いてみろ。』
そう言われて起き上がる。特に改造された感じはしない。特に強くなった感覚も無かった。
『当たり前だ。その身体はまだ完成していない。魔力器官は作ってあるが、言語も拡張魔力もまだ入れていない。それより違和感は無いな?身体が動きづらくないな?』
「それは大丈夫です。いつもの感じです。」
『よし、異常が無いならその身体を使う。1度身体から出す。魂の状態でも思考は出来る。そこでどこに降り立つか決める。』
(おぉー…ってもう抜けてる。)
『それで希望はあるか?例えば魔力が濃い場所であれば、強力な魔物がいる代わりに人間はいないし、魔力の回復効率も高まる。逆に魔力が薄い場所は魔物、魔獣が近づかない分人間が城塞都市を築いていることもある。』
(人間か…。そういえばクソ女神は俺たちの仕業に気付くんですか?気付かれたら神託とかで軍を送ってきたりしません?)
『ダンジョンが生成されれば確実に気が付かれる。だがダンジョンはごく稀に自然発生するものだ。初めはただのダンジョンが出来たとしか思わないだろう。不自然な成長速度になれば背後を調べるだろうが、我までは辿り着けん。他所の世界の神が復讐に尖兵を送ってきたとしか思わないだろう。』
(なるほど…。それと人間と魔物魔獣はどっちが魂のエネルギーが多いんですか?)
『基本的には人間だ。未成熟とはいえ文明がある分、魔物魔獣よりは情報も多い。だが1部の魔物。ゴブリン、オーク、オーガ、トロールなどの種族は集落から村程度の集合体を形成することがある。統率個体でも変動するが、寿命が長い個体は人間を上回る情報量になるのもいる。』
(なるほど。寿命でカバーしてくるのもいる。それなら寿命が長い魔物魔獣は例えばどんなのがいますか?)
『寿命が長いのは、第1に龍種と竜種だ。龍は東洋の龍、腕と蛇の身体の龍だ。竜は西洋の竜。四肢と翼を持った竜だな。どちらも寿命など無いような種で、千年、万年でも生きられる。』
『第2は植物系の魔物だ。こちらも千年、万年でも生きられるが、移動が出来ない分地殻変動に飲まれて死ぬのもいる。』
『第3は海洋系の魔物だ。海洋に人間種は全く進出していない分、人間に狩られる個体がいない。一定の大きさに成長すると、争うより小魚などの弱い種を食べるのを選ぶ。小さな内は生存競争があるが、勝った個体はそこから海龍などの圧倒的な上位種に狙われない限り、生き続ける。中でも亀系統は万年は軽く、島サイズの個体は既に2万年生存している。』
(2万…、その時人類は?もう生まれていたんですか?)
『いや、生まれる前だな。女神イステルがイステルシアの開発を始めるより前からそこにいた。』
(すっげぇ…。神より先輩じゃん。)
『魔力、情報量共に桁違いの個体だ。亀ゆえにか温厚な性格だが、怒らせたら波で大陸が洗い流される。』
(大陸…そういえば大陸はどんな形なんですか?)
『大陸は長方形だ。縦680kmの横4200kmの長方形がポンと置かれている。』
(…?長方形?え?半島とかは?)
『それが、無い。あのバカ女神は散らばっていた大陸、島々を1つにまとめて大陸を作り直した。それが今の大陸イステルシアだ。』
(…はぁ?マジでバカなんじゃあ…。島の生態系とかは?)
『新大陸に食い込んだ種もいるが、99%淘汰された。』
(それに追加で異世界から人種拉致ってきて…。やっぱバカだわ、何してぇんだ。)
『我も呆れてな、イステルシアに来たばかりの頃は新人が来たと思って観察していたのだが、あまりにやっていることが意味不明でな。今回のこれだ、あの惑星を管理するのはあのアホで無くともよい。』
(なるほど、それならバカっぷりに感謝しないと。)
『そうかもしれんな。それで結局どこにする?寿命の長さを聞いて決まるものか?』
(あーそうでした。それならハチ系の魔物の巣から飛んで約半日離れた人里に近い場所にお願いします。)
『理由は?』
(これは推測も混じっていますけど、ハチ系の魔物はその勢力圏では他の種を根絶していると予想しました。時間をかけて、数の暴力で周囲の安全を確立すると考えました。ハチの巣がそこ残っていれば、勢力拡大の途中か、勢力を確立した完成形の巣。ならこちらは他の魔物は無視して、対ハチに特化した魔物を作って防衛戦をすれば少ない投資で最大の戦果を挙げられると思いました。)
『うむ。よく考えている。確かにハチ系は周囲の魔物を駆逐し、弱く反抗できない魔物を生き餌として飼育する。他の魔物への対策を取る必要は薄くなるな。』
(ありがとうございます。最初は何かに特化させて、後から弱点を潰すのが良いと思いまして。)
『我からも文句は無い。ではハチ系魔物の勢力圏から人里方面に半日の地点にダンジョンを生成する。変更は無いな?』
(はい、そこにお願いします。)
『完了した。イステルもダンジョンの発生に気付いたはずだ。では次にお前を身体に戻して魔力器官に魔力を補充する。』
(おぉ、ついに俺に魔力が!)
『完了した。悪いがここでは何も感じられん。向こうに着いてから確認しろ。次に言語能力、身体年齢の固定、悪性免疫機能を付与する。…完了した。ではダンジョンのコアルームに送るぞ?』
「槍とかお供のハイデーモンは?」
『向こうでコアから取り出せるようにしてある。あぁ、それとお前のスマートフォンを弄る。…完了した。イステルシアからは送信出来ないが、地球との通信機能を付けた。処理能力も上げておいたので、充分に使えるだろう。』
「おぉ!ありがとうございます!一方通行でも、検索出来るのは便利!」
『よし、送るぞ。では
「はい、手が届く範囲内にしておきます。」
『注意事項として
「…あぁ、完全に忘れてた。そうだ木村がいるんじゃん…。」
『今は満57歳だ。もうじきに老いて動けなくなる。そうなれば広告塔しての役目を終えて死ぬ前に地球に帰されるだろう。遅くとも4年はかからん、備えを整えておけ。』
「はい。」
『ではな。我を楽しませてくれ。』
眩い光に包まれ、視界が暗転した。
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