第15話 遠くに見えた希望


 4月17日? ??:??

『そう落ち込むな。直接の被害者とは認めないが、間接的な被害者とは認める。』


「!本当ですか⁉︎なら!」


『生き返らせることは無い。定命の者の死はそう簡単には覆さん。力を与えるにも素養が無い。』


「…なら、ただの被害者で終わりなんですか?」


『いや、間接的な被害者として、保管庫から情報のフルコピーと保管を我が行う。保管によっていつでも魂、精神、肉体の再生が可能となる。』


「保管庫?また新しいのが…」


『人間で言う…アカシックレコードのようなモノだ。全ての宇宙の情報が集まる次元で、その次元に干渉出来る情報生命体のみが操作出来る。』


『そしてここからが最初の話に繋がる。お前は力を受け入れる素養を持っている。家族の死に際に手から感じた力の流れ、この部屋の中で見えた赤い点。これは生来お前に備わっていたモノが今回、強く発現したものだ。』


「俺にそんな力が…?」


『大学1年の5月だ。食当たりの際に撮ったレントゲンで、左肺の下辺りに黒い影が写っていただろう。よく調べてもレントゲンにしか写らず、無駄に高い医療費を払ったアレだ。』


(…確かにあった。少し良い海鮮丼を買ってきて、なぜか俺だけ当たったやつ…CTもMRIも、妊婦みたいにエコーまでやって、2万以上かかったやつ!結局なんだか分からなかったやつ!)


『…それだ。その時に写っていたのが、その素養、魔力の臓器だ。実際に内臓を形成するほどでは無いが、体調の悪さで不安定になった影が写ったのだ。』


「えぇ…俺の腹の中にそんなものが…」


『それが「合格」の理由だ。お前には力を受け入れる素養があって、報復する権利もある。よって我の力を分け与え、願いを叶える力を手に入れることが出来る。』


「願い⁉︎それはなんでもですか⁉︎」


『叶えるのは我ではない。お前自身で叶えるがよい。我の依頼を受ければ、そのための道と力、無限の寿命も授けてやろう。』


(…やっぱりそう甘くは無いよな…。)

「それで?依頼とは何なんです?」


『簡単なことだ。異世界に攻め込んで女神イステルへ報復する。これだけだ。』


「え?そんだけ?」


『そう、これだけだ。報復と言っても段階を設定する。今回の報復理由は魂を1つ奪われたから。よって最小目標は魂1つの奪取だ。』


「奪取って…俺は魂に触れませんし、見えもしません。」


『そこはよい。その力もセットで与えるので心配いらん。それと殺せば魂は外に出てくる。』


「向こうの生き物を殺してこいってことですね?」


『そうだ。その殺した魂を確保して我に送りつければよい。それを我が情報を削ぎ落としてエネルギーにする。そのエネルギーの内いくらかをお前に追加報酬として支払う訳だ。』


『時間はかかってもその力を貯めて、家族を再生させればよい。必要な情報は我が保管を請け負うので安心しろ。』


『それで、受けるか?受けないか?』


「もちろん受けます、よろしくお願いします。」


 悩む必要なんて無かった。クズ共は必ず復讐するって決めていたし、頼もしい協力者(?)まで現れた。


 ただ地球のカルト共はどうしようか…


 ***


 4月17日? ??:??

『では、詳細を詰める。まずは希望を聞こう。一通り言ってみろ。我の想定コストを超えなければ、いくらでもよい。』


「まず、第一目標が女神への復讐。第二が地球のカルト共の皆殺し。力?が貯まり次第で家族の蘇生です。」


『うむ、イステルへの復讐は我も望むところ。だが、カルトへの復讐はイステルの後にしてくれ。蘇生はいつでも構わない、力の使い方はお前次第だ。』


「ですが、女神の後にカルトだと時間がかかりすぎて犯人共が全員死んでいるなんてことになりませんか?」


『あぁ、それはない。いや…無いとは言い切れんがかなり薄い。というのもイステルシアと地球では時間の流れるスピードが全く違う。地球世界の約1440倍。地球の1日で異世界の4年だ。』


「…は?4年?」

(マジかよ…、1日で大学卒業?)


『厳密には向こうは24時間の360日だから少しズレるがそんなものは誤差だ。』


『だが、そうだな先に向こうの状況を教えてからの方がスムーズに話が出来るな。』


「はい、それでお願いします。」


『では、まずは………』


 ***


 4月17日? ??:??

 異世界イステルシアについて教えてもらったことは、

・地球よりも遥かに魔力と親和性が高い世界

・全ての生命体に魔力が宿り、強靭な生命力、運動能力を発揮する。

・魔力を体内に取り込んだ影響で、変質、凶暴性が増した獣:魔獣が発生している。

・イステルがマッチポンプ用に別の世界からパクってきた生き物:魔物がいる。

・魔物とは[魔力に順応している生物]の総称。魔獣は魔物の内の1分類、とりあえず魔物と言っておけば間違いない。

・イステルが別の世界から攫ってきた人種がいる。魔力器官が角として生えている魔人マギ種、魔力器官の代わりに魔力回路を持つ精霊種エルフ、鉄の骨を持ち人間の倍以上の筋密度を誇る鉱洞種ドワーフがいる。

・ただでさえ若くて、発達した文明も無いのに、異人種が入ってきたせいでずっと戦争をしている。

・異世界から連れてこられた組の精霊種と魔人種が同盟して、人間とやりあっている。

・そのせいで製鉄技術以外はほぼ古代。

・鉱洞種は優れた製鉄技術を持ち、両陣営に武器を流すことで中立を保っている。



『何か質問はあるか?』


「別世界から拉致って…他の世界の神は怒らないんですか?」


『もちろん怒るが、それは気づけたらの話だ。今回は我が網を張っていたからすり抜けたことに気付いたが、下等な神では気づかない。』


「なるほど。それなら追加で第三の目標として拉致された種族の保護及び協力を挙げます。」


『む、そうか。確かに拉致の直接被害者の子孫と言えるか…。本来は我が救済する対象では無いが…。よろしい、我からも保護の報酬は別に用意する。』


「ありがとうございます。それで分け与えていただける力に関してですが、今の段階で確定しているものを教えていただけますか?」


『そうだな、今決めているのはこれだ。』


 目の前に赤い光が集まって、見慣れた形のタブレット端末が現れた。


(うっ…美智瑠…。いや、いつかは生き返らせるんだ。泣いてる場合じゃない!)


 目から溢れそうになる涙を拭って、前を向く。


「これは…?」


『異世界対応タブレット端末だ。極めて原始的な情報処理機能だったが、地球の魂の情報量強化を担っている。我が気に入ったので、お手製のCPUを積んでおいたぞ。』


「え…、いやそうではなくて…。…どれくらいのスペックなんですか?」


『10000コアの60000スレッド、クロックは600GHzにディスプレイは16Kの魔力駆動だ。空間中の魔力で勝手に補給するので、完全メンテナンスフリーだ。』


「…ありがとうございます。こういうのが好きなんですか?」


『うむ、実に好ましい。正に発達過程情報文明の申し子。お前のスマートフォンも向こうに持っていく時にサブ端末として弄る。』


「ありがとうございます。それでこのタブレットを点ければいいんですね?」


『うむ、アプリのステータスを開け。』


(うわっ、アプリも全部お手製だ…)


 ステータスと書かれたアプリを押す。


 西木圭人:ケイト・サイキ

 Age:22

 Lv:0


 MP:0

 筋力:14

 瞬発力:12

 持久力:13

 知力:14

 視力:5.0・5.0

 精力12


[ギフト]

 言語理解

 不老

 魔力眼

 悪性排除


『そのギフト欄が今決まっているものだ。』


(色々と気になるけど…)


「向こうの世界にはステータスがあるんですか?」


『あるはずが無い。そもそもその情報は情報次元を参照しての相対評価値だ。情報次元から情報を引っ張ることは出来ても、それを万人が扱えるなど夢のまた夢だ。そのステータスのアプリは、情報の扱いに長けた我が必要な情報のみを表示するように組んだ。お前の情報表示はリアルタイムで更新出来るが、他者の表示はタイムラグが出る。戦闘中に利用するのは難しい。』


『それと、レベル…他者を殺害すると強くなることが出来る。あちらの世界は魂でさえも魔力との親和性が高い。他者を殺害した際に相手から受ける想念にすら魔力が宿るので、魂に想念を受ければ魔力までも魂に付着して魔力量が高まる。』


『その怨念も長く残ることは難しく、相手に影響を与えるほどまで強くなることは滅多にない。結果的に想念は消えても魔力はこびり付くので他者を殺すと強くなれる。ただし身体能力は変わらない、レベルと表示していると勘違いしそうだが。』


『人間を殺しても強くなれるが、魔物や魔獣の方が魔力量が高いし、想念も本能に近いので原始的なもの。基本的には魔獣や魔物狩りが主流だ。』


「なるほど、そんなものが…それで相対評価というと?」


「MPはこの後変わるから0。視力は我お手製の身体に改造するから適当に5.0、その他は地球人類の平均を10としての評価値だ。向こうに行ったら向こうの平均を10として表示し直す。」


「地球と比べて異世界人達はどれくらいなんですか?」


『知力は少し劣るが、精力以外の他の数値は2倍、魔力の循環による強化を入れると13〜15倍、魔力を良く使いこなす個体で40倍程度までは上がる。ただこれは平均だ。優秀な個体は遥かに強いぞ。』


(やべぇよ…異世界怖くなってきた…)


『基礎の数値も必要だが、魔力を使いこなせばお前でも張り合えるようになれる。そのための力はどうするかという話をするのだ。』


 そう言われれば、微妙に気になるギフトがあるけど、まだチートを貰ってなかった。


(さっさと決めないと…)


 どうするか決めるためにももう少し質問をすることにした。

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