第14話 ???との邂逅
4月17日00:25
美智瑠の胸元で一
身体から管と機械を外されるのを見て、また死を実感した。人の身体から骸になったのを目で理解させられた。
***
4月17日01:10
あの後、警察の人が来たり先生が話をしていたが、正直何も覚えていない。言語を認識出来ず、ただ突っ立っていただけの気がする。
誰かに引っ張られて、仮眠室のようなこの部屋に押し込まれたのを覚えている。
(俺は…何をしてたんだ?ここにもどうやって来た?)
この部屋まで自分で歩いた感覚すら無くて、気が付いたらここにいた。
(何だか知らねぇけど、寝ろってことか?)
少し安っぽさを感じるベッドに横になる。
(……はぁ、最期に話せたのは父さんだけだった…。美智瑠はどうだったか、苦しくなかったか…)
家族がどんな思いで、どんな悲しみで死んでいったかと考えて、悲しくなる。
(…でもそれ以上に怒りが湧いてくる。家族を巻き込んだ自分への怒りと、家族を巻き込んだ奴らへの怒り…)
(なるほど、これが憎悪ってやつか…。
…世の中の被害者遺族は凄いな。この感情を抑えて、復讐しないでいられるのか…。俺には無理だな。)
(父さんにはちょっとだけでいいとか言われたけど、全然ちょっとじゃ済ませねぇ。俺はもう社会的にはほぼ死んでんだ。警察に捕まっても今回の奴らは全員殺す。殺すためならなんだってやってやる。家族がいるなら人質に取る。んでそいつがノコノコ出てきたら目の前で人質を殺す。)
自分でも不思議なくらい残虐な思考が頭を占める。
(あー、分かったわ。もう失う物が何にも無いからだわ。俺は今無敵の人状態だ。)
(あーあ、父さんはちょっとしたワルの血とか言ってたけど、俺はかなりのワルだったみたいだよ。)
ゴミ共を殺す光景を妄想しながら、俺は眠りについた。
狂ったような薄ら笑いを浮かべながら。
***
4月17日? ??:??
気がついたら夢を見ていた。
夢の中なのに夢だと分かる。
(あ?これが明晰夢ってやつか?こんなに鮮明じゃあ休んだ気になんねぇじゃねぇか…)
明晰夢を見るのは初めてで、鮮明過ぎて起きてる時と変わらないくらいに、意識がハッキリしていた。
(でもここは…何だ?真っ黒の…)
そこは真っ黒な部屋で、上下左右全てが真っ黒な壁に囲まれた部屋で、俺はそこに立っていた。
(そういえばニュースで、限りなく黒に近い塗料が出来たとかやってたな。それ塗ったらこんな感じになるかも…)
そんなことを考えていると、自分の足元に少しだけ、黒に混じった赤が見えた。
(んー?俺の足元だけポツポツ赤い?)
よく見るためにしゃがみ込むと、やはり赤い点がポツポツとある。
(なんか赤いドット?そんな感じ…)
瞬きをすると見失いそうなドットを触ってみようと手を伸ばす。
しかし、そのドットは避けるように、横にズレた気がした。
(あん?動いた?)
もう一度触ろうとすると、また動く。ムキになって触ろうとすると、今度は別のドットも動き出した。
(おぅ、やってやるよ)
意地になって2つのドットを触ろうとするとどんどん連鎖してドットが動く。その連鎖したドットは俺よりも早く動き出してやがて壁にたどり着いた。
壁に集まったドットは俺の目線くらいの高さに集まると、眼になった。
壁の近くまで寄っていた俺は慌てて、後ずさった。
(うわ、キモ!これが俺の深層心理か⁉︎どんな心境だよ!)
不気味さを感じて離れようとした時、
『合格だ。』
とくぐもって、聞き取りづらい声が聞こえた。
「うわ、なに⁉︎なんだ⁉︎」
驚いて声をあげれば、今度は聞き取りやすく
『合格だと言ったんだ。』
とハッキリ聞こえた。
「何が⁉︎」
(いや、意味分からん!目が合格くれるの意味分かんねぇ!)
『慌てるな、合格の訳も、何が起きているのかも、我が丁寧に教えてやろう。』
(うっ、心を読まれた⁉︎…あ、いや夢なんだし、俺が思ってることか…)
『因みに、ここはお前の夢の中ではない。我と話を出来るように用意した空間だ。』
(はぁ?そんな非現実的な…)
『非現実的?それならごく最近起こっただろう?』
(…!コイツ!)
「お前かァ!!」
自分でも驚くような咆哮が、俺の口から出た。
『いいや、私ではない。それを今から説明してやろう。』
そう言って目玉は説明を始めた。
***
4月17日? ??:??
『まず、お前のトラックによる事故だが、あれは異世界の女神によって起こされた。』
(…は?神?神って神?)
『そう、お前達人間が縋り、祈り、救いを請う意味での神である。』
(…それが、仮に居たとしてなぜ異世界の神がこちらに関わってくる?)
いつの間にか口に出さずに会話が成立しているが、そんなことはどうでもいい。
『タイミングが良かったからだ。異世界の女神、名をイステルは、良質な駒を探していた。』
(タイミングが良かった…?俺が巻き込まれたのは、こんなことになったのは丁度良いタイミングだったから…?)
『そう、イステルは自分の力を貸与しやすく、そしてそれを死後に剥がしやすい、そんな魂を探していた。そうして見つかったのが
(…じゃあ遺体が火葬出来なかったのは?)
『それは、理玖がもう一度地球に戻ることを望んだからだ。理玖は異世界イステルシアでイステルからの依頼を達成すれば、貸与された力の大部分を返還して地球に戻ってくる。そのためのマーキングだ。人間の力では破壊することは不可能。構造を調べることは出来るが、普通の人間との差異はない。ただ破壊出来ないだけだ。』
(…ならその仕事ってのは?)
『女神イステルの信仰を高めるための行動だ。女神の使徒として名を高めたり、恐れられている魔獣を倒したり、要は女神の広告塔だ。』
(…そんなことをして何になる?女神は何の得があるんだ?)
『イステルの力になるのだ。やつは信仰を集め、力を増す。』
(信仰?そんなもんをどうやって力にする?)
『む、それは君たち人間には説明しづらいな。そうだな…あえて言うならば、魂の情報だ。』
(…魂の情報?一気に話が分からなくなったぞ…)
『我と女神イステルは情報生命体だ。人間のような食物の分解摂取のエネルギーで、身体を維持出来なくなる程に強大になった生命体は、情報をエネルギーにする生命体に昇華する。情報をエネルギーに変換するのは自分と親和性が高い情報程、効率が良くなる。そのためにイステルは広告塔を作り、自分が効率良く吸収出来る信仰力を増やそうとしている。』
(…?分からん。もう少し噛み砕いて説明してくれ。)
『む、…要するにイステルは農家なのだ。イステルが丁寧に育てると、信仰という名の実をつける。そして、実りきって地面に落ちたそれを収穫する。その収穫物を食べてイステルは生きているということだ。』
(…なんとなく理解した。つまり今回の件は女神が自分に都合の良い栄養剤を異世界から仕入れるところに、俺が巻き込まれたという訳か。)
『そう、イステルが地球に手を出したから、その余波でお前の家族は巻き込まれて殺された。』
(…クソ女神が、ちょっかいを出したから…)
『そうだ。それとこれはサービスだが、お前の家にロケットランチャーを撃ち込んだカルト集団は、木村理玖の身体を持って中国に渡っている。』
(…!中国由来のカルトなのか⁉︎)
『さぁな、ただ使用されたロケットランチャーは中国で生産されている形だな。』
(…そういえば、さっきあんたは女神と同じ情報生命体だと言った。それなのになんであいつの情報をペラペラ喋る?仲間じゃないのか?なぜカルトのことまで教えてくれる?)
『我はイステルと分類としては同じだが、格が違う。イステルが信仰という1種類の情報エネルギーしか適性が無いのに対して、我は全ての情報を栄養源に出来る。』
(全ての情報?)
『そう、イステルは信仰されている時、祈りを捧げている時、儀式をしている時などの魂の情報をエネルギーにする。要は宗教的な状態の情報を扱っている。我はその程度の限定的な情報ではない。魂に付帯している全ての情報をエネルギーに換えている。』
(宗教的な儀式の時の情報なんてそんなに大したものじゃないんじゃ?)
『いや、それなりの情報量になる。どこから誰が切り出した石材で、誰がどのように運んで、誰が何日かけて組み上げて、誰がどのような装飾を施して、建設された聖堂。建設途中にどこにどれだけの雨粒が当たった、そういった環境情報まで全てを持っている。歴史的な建造物は存続するだけで大量の情報を持っている。その中でどこからやって来た誰、どこからやってきた誰、呟いた言葉、足を組み直した回数、宗教的な建造物ならその中で起きた全ての出来事の情報をイステルは力に変換出来る。』
(…信仰1種類でそれなら…あなたは女神より更に格上の神なんですか?)
『今まで通りでよい。格上ではあるが、神ではない。我は誰にも信仰されていないので宗教的な神と呼ばれる存在ではない。』
(…理解は出来ませんが、納得しました。先程も質問しましたが、何故あなたは俺に色々と教えてくれるんですか?カルトの身元まで教えてくれた。)
『それは、我の縄張りにイステルが手を出したからだ。』
『地球は…100年ほど前から魂の情報量が飛躍的に増えて、我が縄張りにするのに充分なエネルギーを発し始めた。世界大戦後からインターネットの発達で、爆発的に情報量が増えた地球は、最近のお気に入りだった。』
『つい最近また戦争が起きただろう?人間が寿命より早く死ぬようになり、少ない情報しか持たずに死ぬ魂が増えてな。原因を見つけて戦争を観察している内に、我の縄張りから魂が1つ抜け出した。それが木村理玖の魂で犯人はイステルだった。』
(なるほど、あなたは横から1つ掻っ攫われたと…。)
『そう、イステルは格が違いすぎる我を認識することは出来ない。知らずにやったことだろうが、それは関係無い。我には報復する権利がある。』
(それで俺に色々と教えてくれると?)
『そう。お前はイステルによる被害者で、我と同様に報復する権利を認め、我の力を与える。』
(…!それなら!俺よりも俺の家族は⁉︎家族も被害に遭いました!)
『悪いが、それは認めん。イステルのやったことの余波であることは認めるが、間接的だ。直接の被害者と認めるのはお前だけだ。』
「そんな…。」
そう呟いて俺は、黒い床にへたり込んだ。
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