第7話 ホテル
4月8日13:20
これから1週間滞在する部屋は、値段の割にはかなり綺麗な部屋だった。
(おー、ビジホ初めてだけどこれで4500円なら良い方じゃない?ホテルの外観も綺麗だったし、まだ出来てそんな経ってないのかも。)
入ってすぐに使い捨てのスリッパが用意され、右手にユニットバスの扉があった。奥にベッドと壁に固定された机が置かれて、その上には近隣施設のパンフレットも用意されている。
(ユニットバスってどう入るんだろ?後でよく調べてから入らないと、トイレが湿気で気持ち悪くなりそう…)
服が入った袋を机に置いて、その中からTシャツ1枚とジャージの上下に着替えた。
(今ここで落ち着いたら動けなくなりそうだし、まずはどっかに昼食べに行って…。)
スマホでマップを開くと見慣れた緑色のロゴが駅のすぐ近くにあった。
(この時間ならランチやってるし、久々にあのドリアが食べたい…)
大学生時代に友人達と週に2回は通っていた某イタリアンファミレスに、ほぼ1年ぶりに行くことにした。
ホテルから駅の方面に向かって歩いていくと、コンビニが大手3社が全て揃っていて、
(うんうん、コンビニもちゃんとあるね。)
これからお世話になるだろうと心の中に場所をメモした。
駅のロータリーに着くと、コンビニと飲食店が一面に軒を連ねているのが見える。
(おー、こんなにチェーン店があるのはありがたいかも、亀有駅と同じくらいかそれ以上かも…。)
そこは、駅構内も含めて牛丼2社、中華3社、ハンバーガー1社、寿司2社、カツ1社、天丼1社、フライドチキン1社、ファミレス2社が集まった、結構な激戦区だった。
(ロータリーの周りだけで結構あるなぁ。さっき歩いてる時に爆盛りラーメンの看板もあったし、あのホテルにして良かったかも…。)
若干他の店に惹かれつつ、結局はイタリアンファミレスに入ることにした。
1人だったからか、すぐに窓際の席に案内されて、ランチのスパゲッティと単品でドリアを追加で頼んだ。
待っている間に、友人達から来ていた安否確認の連絡に返信した。返信していて気が付いたのは、深夜から朝にかけて連絡がバラついていることだ。
(こういう連絡ってバラバラに来るもん?みんな一斉に送ってくるイメージあるんだけど…?)
大したことじゃない気がしながらも、返信してから秒で返信が来たやつに相談してみた。
そいつ曰く、
[ただニュースを見たタイミングで送っただけじゃね?]
と返ってきた。
よくよく聞いてみると、どうやら深夜のニュースが1番最初の報道だったらしい。それは夜11時以降の番組なので、寝てたり、ゲームをしてたりで見てる人が少なかったんじゃないか?ということだった。
そいつ自身もゲームをした後SNSを少し見てから寝たらしいが、その時にも俺の事故の話は見なかったらしい。
朝起きて、SNSを見たら俺の事故と名前が出ていて、急いで連絡した、という状況らしい。
改めて礼を送って、落ち着いたらまた連絡すると返して、そいつと会話は終わった。
(なるほど…朝のニュースが流れるまではあんまり広まってなかったんだ。そういや事故自体が昨日の夜中なんだしまだ1日も経ってないんだよな…。起きた出来事が濃過ぎて感覚おかしくなってるけど。)
(ってことは意外とみんな俺に気付かないんじゃない?朝忙しくてテレビ見ない人だっているだろうし、名前が出てもそもそも顔が出てなければ気付きようがないじゃん。)
(あー、良かった。思ってたよりビクビクしないで済みそうだな。)
ひとまず、想定よりもマシな状況だったことに安心していると、頼んだ料理が運ばれてきた。
(うぉー超久々〜。懐かしさ感じちゃいますよこぉれは…。)
学生時代を思い出しながら、やはり早食い気味に完食した。
***
会計を済ませて店を出ると、駅構内にドラッグストアが入っているのが見えた。
(あ、そういえばマスクが今してるのしか無いじゃん。1箱買っておくか。)
(マスクと…あとなんかあるか?ホテルのアメニティがあるけど、Tシャツ洗いたいし石鹸も買っとくか。)
ホテル暮らしに必要なものを考えながら、ドラッグストアに入った。
***
4月8日14:15
50枚入りのマスクと普通の石鹸3個1組み+充電器をコンビニで追加購入して、ホテルに戻ってきた。
荷物を置いて手を洗い、少し落ち着いてからベッドに腰掛け、母さんに電話をかけた。
4コールほどで電話が繋がると、
『もしもし…圭人?』
と母さんの声が聞こえてきた。
「あぁ、そうだよ。俺…です、圭人ですよ。」
一瞬だけオレオレと言いそうになったが、なんとか言い直した。
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