第6話 チェックイン
警察署を出て、服屋に寄ってもらった俺は、あまり選ばずに外出用として、ユルい感じの上下のスウェットとジャージを購入した。室内着としては半袖のTシャツと下着を5着、短パンも3着用意した。
合計で約1万円。その内6割をスウェットとジャージが占めている。
(まぁまぁかかったなぁ…。スウェットとジャージはどっちか片方でもよかったか?)
大きめの袋に入れてもらい、急いでタクシーに戻ると、いよいよホテルに向かうようお願いした。
***
4月8日13:10
タクシーチケットに記入を済ませ、ドライバーさんにお礼を言って別れる。
駅から徒歩5分程の場所にあるホテルで、その駅もそれなりに利用者がいるらしい。周囲にも飲食チェーン店が豊富で、かなりの好立地だった。
ホテルに入ったらフロントで、
「いらっしゃいませ。手指消毒にご協力をお願いします。」と20代後半か30前半の女性スタッフに笑顔で挨拶された。
(ビジネスホテルって初めて入ったけど、やっぱりホテルはホテルなんだな〜)
ドア横のアルコールを手に取り、少し周りを見回しながらフロントに近づいて
「予約をしてないんですけど、部屋の空きはありますか?」と確認してみた。
(ホテルのチェックインなんて初めてだけど、支払いはクレジット使えるよね?)
女性スタッフさんは、
「ございます。ご宿泊は何泊されますか?」と何でもなさそうに連泊数を聞いてきた。
(お?この感じは気付かれてない?結構報道されてるって署長さん言ってたけど、顔はそんなに出てないのか?)
それはそれとして、
(そこなんだよなぁ〜、四十九日が終わるまでは裁判も始まらないらしいけど、マスコミが家の周りから消えるまでなんて分からんからな〜。とりあえずは1週間くらいかな。連泊だと少し安くなったりするらしいけど…。)
「連泊したいんですけど、連泊すると割引があるって聞いたことがあって…」と割引制度の話を出してみた。
「はい、当ホテルでは4日以降の連泊で5%7日間目以降は10%の割引がございます。」と隣のパソコンを確認しながら、説明してくれた。
(それなら1週間はここでいいか、その後のことはチェックインしてから、ゆっくり調べながらでいいし。)
「じゃあ、連泊7日分でお願いします。」と頼めば、
「かしこまりました。空き状況を確認しますので、少々お待ちください。」とパソコンで何やら調べ始めた。
待っている間に、フロントの周りをキョロキョロ見ていると、2分くらいで声を掛けられた。
「お客様、お部屋は3階の306号室になりますが、よろしいでしょうか?」カードキーの番号を見せながら、確認してきた。
「はい、大丈夫です。」
(別に曰く付きって訳じゃないよな?エレベーターだってあるし、ただ部屋番号教えてくれただけだよな。)
スタッフさんは、カードキーと一緒に、2枚の紙にペンを添えて差し出してきた。
受け取って読んでみると、感染予防対策の紙が1枚と名前や住所、緊急連絡先などの感染時に使われる情報を記入する紙だった。
(あー、これに名前書いたら、この人も流石に気付くかな…。でもこれ書かなかったらそれこそお引き取り下さいだろうし…。)
渋々と、名前、生年月日、年齢、住所、連絡先、緊急連絡先、発熱の症状が無いかといった欄に記入した。
2000年4月17日 21歳
東京都葛飾区亀有一丁目○○-○○○
080-○○○○-○○○○
090-○○○○-○○○○
と症状のチェック欄にチェックして、提出した。
(緊急連絡先は母さんのにしといたけど、電話出られる状態かな?)
ササッと流し読みしたスタッフさんは、気付いた様子も見せずに一度頷くと、
「ご協力ありがとうございます。それではそちらの精算機にカードキーを通して精算をお願いします。なお、本日から7日間で料金の変動はございませんでしたので、4500円が4日、4275円が3日の合計で30825円になります。」とフロント横の精算機を使うように言われた。
カードキーを置き場所に置くと金額が表示されて、タッチパネルで支払い方法を選ぶらしい。クレジットを指定してカードを差し込み、暗証番号を打ち込んで支払いが完了した。
(おー、今はホテルもセルフになってるんやなー)
レシートが出てきて財布にしまってから、フロントを見てみると、書類を片付けに行ったのか女性スタッフはもう居なくなっていた。
エレベーターの上ボタンを押して待っている間に、
(あのスタッフさん、俺だって気付いたかな…?見た感じしっかりした感じだったし、リークとかしなさそうだけど…。)
降りてきたエレベーターに乗り込み、3階のボタンを押した。
(まぁ、何もされないことを祈るしかないか…。)
3階で降りて案内板を確認すると、306号室は突き当たりの角部屋らしい。
(角部屋か〜普通だと静かで良いってなるんだろうけど、ビジホでうるさい客なんて滅多に居なさそうだしな〜。)
そんなことを考えながら、306号室に入った。
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