第3話 謎の現象とマスコミ
まだなんかあるのか…という俺の嫌そうな顔を見て、署長さんはこう続けた。
「というのもね、西木さんが勝手に動いて戻らなくなったというハンドルがですね、本当に動かないのが確認されたからなんですよ。」
(本当に動かない?そりゃ俺の力じゃ動かなかったけど…)
微妙ににピンとこなかった俺は、素直に聞き返してみることにした。
「すみません、イマイチ分からないのですが、動かないことを確認すると何故無罪の理由になるんですか?」
それを聞いた署長さんは、髭を生やしている訳でもないのに、顎をさすりながら答えてくれた。
「う〜ん、説明が難しいんだけど、西木さんは自分の力が重機より強いと思ってる?」と質問してきた。
「そんな訳ないじゃないですか。」と即答した。
(どこのバケモンだよ、かなり食い気味で答えちゃったよ)
「そうなんだ、人間じゃ重機の力には勝てないはずなんだよ。でも今回はそんな重機の力でも動かせないモノが君のトラックのハンドルだったんだ。」
(あー、あの動かなかったハンドルマジで動かなくなってたのか!)
あー、あれねという俺の顔を見て伝わったことに満足したのか、
「そう、あのハンドルね、どうしても動かないから君の会社の人に解体する許可を得てバラしたらしいんだ。あまり車の部品には詳しく無いから分からんが、ハンドルとタイヤを連動させる部分には左に曲がっている以外は異常は無かったらしい。今度はその機構もバラしてみようとしたら…、またご遺体と同じように一切の傷が付けられないし、動かないんだと。これには警察、検察も意味が分からなくてなぁ…。結論は非科学的な現象が起きて、西木さんはそれに巻き込まれたとすることになったんだ。」
この結論には流石に驚いて、
「非科学的って…そんなオカルト的な扱いで済ませて大丈夫なんですか?」と確認してしまった。
これには署長さんも苦笑いで、「いやぁ〜そうなんだけどねぇ、うちの警官も検察もかなり気味悪がっててなぁ…、こんなこと言うのもなんだが、ご遺体は普通に気味悪いし、ハンドルに繋がる機構は何しても動かないしで、車体バラした奴は興奮してたらしいけど、他の人はあまり触れたく無いってこれ以上の捜査はやりたがらないんですわ。」と言われてみれば、普通の感性の人間ならビビるには充分な怪事件になっていた。
「確かに、そう言われれば理解出来ない現象が2つも重なっているし、その結論になるのは納得出来るかも…」(オカルトみたいって、思ったけど、事実普通にオカルトだったわ。)
「そうなんですよ。で、ここからが相談なんですが、今入ってる留置場はね、証拠隠滅とか逃走を防ぐために入って貰う施設なんですけどね、西木さんの場合は事件の特異性から証拠は完全にこちらの管理下にある上に、不起訴になるのがほぼ確定しているので、釈放されて帰宅することが出来ます。が、出来ますが!」と微妙に語気を強めて強調してきた。
「実は今回の異様な事件、マスコミが嗅ぎつけてきてましてね、ハンドルのことはまだバレていませんが、ご遺体の方がね…センセーショナルな事件なのでかなり報道されているんですよ…ご自宅と経営されてる飲食店なんかにも報道陣が集まっているようなんです。」とため息をついた。
自分がマスコミに追われる立場になると気になるのは、実名報道をされているかどうかと、家族に迷惑をかけていないかだ。少し嫌な予感がしつつも、意を決して確かめた。
「…自宅にも来ているということは家族はどうなっていますか?それと…実名報道はされていますか…?」
署長さんは少し眉尻を下げながら、
「…実名報道は残念ながら、されています。国民の関心も高く、謎の事件の唯一の当事者として、広く広まっているようです。ご家族については、今朝方に連絡しましたら、既に別の市のホテルに避難しているそうですよ。」
家族にに迷惑をかけてしまったけど、マスコミからは隠れられていて良かったと安心した。
恐らく今の報道は自分が有罪になるのを前提にして、面白おかしく、根掘り葉掘り好き勝手に報道しているんだろう。
苛立ちを抑えず拳をギリギリ握りしめていると、署長さんが、
「ただ、今回の一件は送検されないので、よく見る手錠を掛けられて車に乗せられるシーンは流れないんで、多少は犯罪者というイメージは薄くなると思いますよ。今もこの署の周りにも集まってますが、完全な無駄足だな。」と笑って励ましてくれた。
(確かに、あのマスコミが護送車に群がって写真を撮っているシーンは犯罪者を報道している!って感じがするな…。あれが無ければ少しは社会復帰しやすいか…?)
「それに、今日の昼頃には検察から不起訴の発表がされるんで、それ以降は報道の流れがどう変わるかですなぁ…。今まで批判的な報道をしていたところは手のひら返しをすると逆に叩かれたりするんで、そのまま批判的だったりしますけど、コメンテーターとかを使っていない報道番組は、意外と手のひら返して同情的になったりしますよ。」とマスコミの特性のようなことまで教えてくれた。
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