第2話 無傷の遺体


 2人の警察官に連れられて取り調べ室に入った俺は、感動していた。


(ドラマのまんまやんけ!カツ丼は最近出してくれないらしいけど、頼んだら出してくれそう…これ絶対意識して作ってるでしょ!)


 鉄格子の嵌った小さめの一つの窓に、部屋の真ん中に置かれた机と卓上ライト、隣の部屋から見るためのマジックミラー。どう見たって再現しようとしているようにしか見えない。


 先に来ていた軍人風警察官は椅子に座らないで、ニヤニヤこっちを見てくるし、連れてきた2人もなんだか呆れた空気を出してるし。


(この人…もしかしてお調子者系か?)


 こちらが落ち着いたのを見ると軍人風警察官は、「では、一通り見てどう感じた?」とニヤニヤしながら問いかけてきた。


「カツ丼が出てきそうで感動しました。」と微妙に負けた気持ちになりながら答えた。


 すると今度は、ニッコリ笑いながら「そうだろう、そうだろう。やはり取り調べ室はこうでないと!ドラマや映画で憧れて警察官になった奴がガッカリするし、取り調べを受ける側も口が軽くなるからこのセットは最強なんだ!」と語り出した。


(やっぱこの人めっちゃミーハーだわ、ドラマで憧れて警察官になったの自分のことでしょ…)

 と若干感動に水を差されたところで、


「署長、種明かしをしたら冷めて口の軽さも元に戻ると何度…」との苦言が横から聞こえてきた。


 だが署長さんは悪びれることもなく、「だが今回は口の軽さは関係ないだろう?もう昨夜の内に聴取は済んでいるし、証言も物証も確保してある。」と言い終わるなり、

「さぁ、座って下さい。今後のことについて詳しくお話ししましょう。」といきなり真面目な顔つきになった。


 急な変わり様に困惑しつつも席に着いた俺に、署長さんは「西木さん、私はせっかちなんで単刀直入に言いますけど」と前置き。


「はい。」(はい、そんな感じはしてました)


「今回ね、あなたは業務上過失致死傷で逮捕された訳ですけど、これはもうほぼ確定で不起訴になります。」と何でもないかの様に言い放った。


(???不起訴?起訴されないってこと?それじゃ裁判しないってこと???)

 言葉を咀嚼するのに時間がかかり、混乱しているのが自分でも分かる。


 そんな俺に追い討ちをかける様に署長さんは、「不起訴っていうのは刑事事件としては無罪と捉えてもらって大丈夫です。刑事事件では無罪ですよ。」と畳み掛けてきた。


(無罪…良かった…良かったマジで…)


 あまりの安堵感に涙がうるっとしてきたところに、また署長さんが


「安心してるところに悪いんだけどね、刑事では無罪でも民事になるとあんまり安心出来ない感じなんですよ。」と全く安心出来ないことを言い出した。


 俺はたまらず、

「どういうことですか⁉︎」と身を乗り出して問い詰めてしまった。


 署長さんは宥めるようなジェスチャーをしながら説明してくれた。「今回の不起訴の理由としてはですね、一つ目が被害者の身体に一切の傷が付いていないことなんです。大型車に轢かれて、壁に挟まれて無傷なんて有り得ない。」

 うんうん頷く俺を見て、署長さんは更に続けた。

「全く傷が無いのに亡くなっているからね、死因の究明に解剖することになったんだけど、今度はメスも入らないらしい。」と気味の悪いことを言い出した。


(えぇ…なにそれ?本当に人間なんか?実はマネキンでしたとかなったらキレるぞ…)と若干イラッとしてきたところに更に続けて、


「現場で見たうちの警察官達も、検察もみんな気味悪がっててな、メスが入らないしどうするかってところで、DNAが取れるかやってみようと試したらしいんだ。」


(そりゃみんな怖がるでしょ、見慣れてる人ほど気味悪いと思いますよ…)


「そうしたらね、髪はハサミで切れなかったみたいなんだが、口の中からはDNAが取れたらしいんだ。」


(髪も切れないんか…それでもDNAだけ取れるって更に怖さ増したじゃん。)


 気味の悪いものを見るような目で署長さんを見る俺に苦笑いをして、「それで、メスも刺さらない被害者をどう殺すんだというのが一つ目でして、二つ目がまた似たような不可解なモノが起きたものが見つかったからなんですわ。」

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